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どうにかした
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翌朝、俺は宿屋で目が覚める。
「ファー。珍しく疲れが残っているな。ナノマシンの調子が悪いのかな? こんな事は初めてだ」
昨晩は料理を配るのに大変だった。
勿論、街の人も手伝ってくれたので、配膳自体は楽だった。が、捕虜の獣人兵たちが思いのほか反抗的だったので疲れたのだ。
この食材は嫌いだから食べられない、どこそこの肉が食べたい、酒をよこせなど、エトセトラ。
わざと俺を困らせて楽しんでいるみたいだったが、そこは俺も料理人。その全ての要望に応えるべく、手持ちの食材で、なんとか近しいものを作ってみせ黙らせた。
酒は麦を使い、急速発酵槽で発酵させ、蒸留器に入れて麦焼酎を作って飲ませた。この星では蒸留酒は高級酒なので、獣人兵たちはとても喜んだ。
獣人兵を満足させたはいいが、俺はヘトヘトで宿屋に戻るとバタンキューだった。ウィングともう一人の俺の事なんて頭の片隅にあるかないか。
眠る寸前まで、ウィングの部屋から変な声とかは聞こえなかったと思うから、上手くいかなかったんだと思う。
いや、そう思いたい。
「また捕虜の飯を作らなきゃ」
俺は重たい体を起こして、ベッドから降りると、服を着て、エプロンをかける。
暫くするとナノマシンが働き始めたのか、急に疲れがなくなった。
なので、元気よく部屋の扉を開けると、廊下の先に見たくないものを見てしまった。
もう一人の俺と手を繋いで歩く女版ウィングだ。
ままままま、まさか! 待て、早まるな俺! まだしたと決まったわけじゃない。まずは挨拶だ。
「おはよう! ウィングと俺二号」
「おはようございます、本体様」
「あっ! オビオ! お、おはよう!」
あああああ! ウィングが目を逸らした! いつもは細い目の隙間から、確実に俺を見つめて挨拶してくるのに!
「はっ、はは! まさか、俺二号よ。ウィングと(エッチな意味で)同化したのか?」
「していない」
うぉぉぉぉ! やった! 変な事になってなかった! 良かった!
「同化はしていないけど、どうにかした!」
ひょえぇぇぇ!! 俺二号! 何爽やかに笑ってんですかー! どうにかしたって、もうエッチしたって事でしょうがぁぁぁ!
「やったのか? ウィング!」
「さぁ、どうかな? 気になるのかい? フフフ」
うわあ! その含みを持たせた言い方、心がざわざわする!
「ハハッ! 別に気にならないよ! 二人が幸せそうでなにより! 良かったな!」
お腹を愛おしそうに撫でるウィングを見たら、そう返事するしかないでしょうよぉぉ。もう完全に女として目覚めてんじゃん!
「さ、さて。朝食を作りに行かないと」
あぁぁぁぁ! 俺オワタ! エッチなんかしたこともないのに、親になるなんて! 心の準備ができてないっつーの!
幸せそうな二人を、フラフラする足で追い越し、俺はキッチンに入った。
正直、朝食に何を作ったかは覚えていない。なんか捕虜たちが騒いでいたけど、知らね。
気が付くと、俺は冒険者ギルドのテラスで、一人コーヒーを飲んでいた。
「おい、オビオ! どうした、オビオ! いつも以上に腑抜けた顔をして!」
誰だ? 俺の頬を両手で挟んでいる奴は。
あぁ、なんだ。サーカか。そうだ、いっそ彼女に吐露してしまえば、気が楽になるかも。
「俺、親になるんだ」
「なななな、なにぃ! 貴様、私という婚約者がいながら、誰とやったんだ!」
座る俺の胸倉を掴むサーカの息が近い。
「誰ともやってねぇよ! もう一人の俺がウィングとやったんだよ! 多分な」
半泣きの俺は、そう言って彼女の手を解く。
「なんだ、そんな事か」
サーカは席に座ると、ウェイトレスに紅茶セットを頼んだ。
「そんな事ってなんだよ!」
すぐに紅茶とお菓子がテーブルに運ばれる。
サーカはまず紅茶を口に含んで香りを楽しんでから、話を始めた。
「いいか、あれはオビオの中のナノマシンという虫の集合体だ。つまるところオビオじゃない。だから、ウィングとナニを致そうが、お前の責任ではないってことだ。わかったか?」
「いや、でもさぁ。あれは俺そっくりに出来てるから、俺だよ」
「魂までは同じじゃないだろ?」
魂? そういや、あいつの人格はどこから生まれたんだ。器は真似できても、魂までは真似できねぇぞ。
「確かに、魂までは同じじゃないな。じゃあ、もう一人の俺は、一体誰なんだ?」
「わからないが、多分、タンサル将軍の人格から引き出したのだと思う。でも、タンサルは冷酷そうな奴だったが、あのオビオ二号はそこまででもない。半分はオビオが入ってるのかもな」
「やっぱ、俺も入ってるじゃん!」
「いいや。作りのよく似た双子ですら性格が真逆だったりするのに、ましてや虫から出来た紛い物と本人。別人と考えるべきだろう」
そうか、サーカが嫉妬しないのは、別人と見なしているからか。てか、地球の法律だとどうなるんだっけ?
「うぅ。ちょっと神の国での扱いはどうなってるのか、聖下に聞いてくる」
「うむ。聖下の意見なら間違いはないだろう」
「やぁ、オビオ」
「ごきげんよう、聖下」
街のはずれにウメボシが急造した小さな建物が、ヒジリさんの拠点。ここで、彼は自領内にいるビャッコさんと連絡を取ったり、捕虜の情報の管理をしている。
今は周りにビャッコ軍の指揮官などがいて、ヒジリさんは書類を次から次へと渡され、目を通すのに忙しい。なるべく手短に話そう。
「ちょっと質問。地球ではナノマシンが他人を乗っ取った場合、それはどういう扱いになるのですか?」
「あぁ、昨日の件かね。地球では滅多に起きない事例だが、ないわけではない。あの場合、乗っ取られた側は再構成されて元通り。乗っ取ったナノマシンに人格が発生した場合、新たなる一個人として認められる」
ほっ、良かった。別人扱いなのか。
「あれ? でも、我々地球人の総人口は常に一定ですよね? そんな特別扱いしていいんですか?」
「それがな―――、おっと。すまない、そろそろ出て行ってくれ。打ち合わせで忙しい」
ヒジリさんは、ビャッコ軍の指揮官の一人に何か耳打ちをされた。
なんだよ、途中まで言って! 最後まで言えよ。
と、言おうと思ったが、俺はあっという間に厳つい顔の虎人たちに追い出されてしまった。
仕方がないので街はずれから、店が立ち並ぶ大通りに出て、ゆっくりと考えながら歩く。
ウィングの子供が生まれる前に、二号が俺の体に戻ってしまったら、やっぱり親は俺って事になるのか?
「なんだか、モヤモヤするなぁ」
頭を抱え、なんとなく視線を落とすと、自分の影から謎の突起物が生えてきた。
「おーい! オビオ! 大変だ!」
突起物はピーターの頭の尖がりだった。影から現れたピーターはとても慌てふためいている。
「どったの?」
「樹族国軍が動いた! 今さっき、国境越えてきたぞ!」
「なにぃ!」
えらく急だな。
でもシルビィさんの事だ。ビャッコさんの後ろ盾がヒジリさんになったという情報を得たから動き出したんだろうな。
「ついに戦争か」
スルターンはどう動くんだろうか。こりゃ歴史が動くぞ!
「ファー。珍しく疲れが残っているな。ナノマシンの調子が悪いのかな? こんな事は初めてだ」
昨晩は料理を配るのに大変だった。
勿論、街の人も手伝ってくれたので、配膳自体は楽だった。が、捕虜の獣人兵たちが思いのほか反抗的だったので疲れたのだ。
この食材は嫌いだから食べられない、どこそこの肉が食べたい、酒をよこせなど、エトセトラ。
わざと俺を困らせて楽しんでいるみたいだったが、そこは俺も料理人。その全ての要望に応えるべく、手持ちの食材で、なんとか近しいものを作ってみせ黙らせた。
酒は麦を使い、急速発酵槽で発酵させ、蒸留器に入れて麦焼酎を作って飲ませた。この星では蒸留酒は高級酒なので、獣人兵たちはとても喜んだ。
獣人兵を満足させたはいいが、俺はヘトヘトで宿屋に戻るとバタンキューだった。ウィングともう一人の俺の事なんて頭の片隅にあるかないか。
眠る寸前まで、ウィングの部屋から変な声とかは聞こえなかったと思うから、上手くいかなかったんだと思う。
いや、そう思いたい。
「また捕虜の飯を作らなきゃ」
俺は重たい体を起こして、ベッドから降りると、服を着て、エプロンをかける。
暫くするとナノマシンが働き始めたのか、急に疲れがなくなった。
なので、元気よく部屋の扉を開けると、廊下の先に見たくないものを見てしまった。
もう一人の俺と手を繋いで歩く女版ウィングだ。
ままままま、まさか! 待て、早まるな俺! まだしたと決まったわけじゃない。まずは挨拶だ。
「おはよう! ウィングと俺二号」
「おはようございます、本体様」
「あっ! オビオ! お、おはよう!」
あああああ! ウィングが目を逸らした! いつもは細い目の隙間から、確実に俺を見つめて挨拶してくるのに!
「はっ、はは! まさか、俺二号よ。ウィングと(エッチな意味で)同化したのか?」
「していない」
うぉぉぉぉ! やった! 変な事になってなかった! 良かった!
「同化はしていないけど、どうにかした!」
ひょえぇぇぇ!! 俺二号! 何爽やかに笑ってんですかー! どうにかしたって、もうエッチしたって事でしょうがぁぁぁ!
「やったのか? ウィング!」
「さぁ、どうかな? 気になるのかい? フフフ」
うわあ! その含みを持たせた言い方、心がざわざわする!
「ハハッ! 別に気にならないよ! 二人が幸せそうでなにより! 良かったな!」
お腹を愛おしそうに撫でるウィングを見たら、そう返事するしかないでしょうよぉぉ。もう完全に女として目覚めてんじゃん!
「さ、さて。朝食を作りに行かないと」
あぁぁぁぁ! 俺オワタ! エッチなんかしたこともないのに、親になるなんて! 心の準備ができてないっつーの!
幸せそうな二人を、フラフラする足で追い越し、俺はキッチンに入った。
正直、朝食に何を作ったかは覚えていない。なんか捕虜たちが騒いでいたけど、知らね。
気が付くと、俺は冒険者ギルドのテラスで、一人コーヒーを飲んでいた。
「おい、オビオ! どうした、オビオ! いつも以上に腑抜けた顔をして!」
誰だ? 俺の頬を両手で挟んでいる奴は。
あぁ、なんだ。サーカか。そうだ、いっそ彼女に吐露してしまえば、気が楽になるかも。
「俺、親になるんだ」
「なななな、なにぃ! 貴様、私という婚約者がいながら、誰とやったんだ!」
座る俺の胸倉を掴むサーカの息が近い。
「誰ともやってねぇよ! もう一人の俺がウィングとやったんだよ! 多分な」
半泣きの俺は、そう言って彼女の手を解く。
「なんだ、そんな事か」
サーカは席に座ると、ウェイトレスに紅茶セットを頼んだ。
「そんな事ってなんだよ!」
すぐに紅茶とお菓子がテーブルに運ばれる。
サーカはまず紅茶を口に含んで香りを楽しんでから、話を始めた。
「いいか、あれはオビオの中のナノマシンという虫の集合体だ。つまるところオビオじゃない。だから、ウィングとナニを致そうが、お前の責任ではないってことだ。わかったか?」
「いや、でもさぁ。あれは俺そっくりに出来てるから、俺だよ」
「魂までは同じじゃないだろ?」
魂? そういや、あいつの人格はどこから生まれたんだ。器は真似できても、魂までは真似できねぇぞ。
「確かに、魂までは同じじゃないな。じゃあ、もう一人の俺は、一体誰なんだ?」
「わからないが、多分、タンサル将軍の人格から引き出したのだと思う。でも、タンサルは冷酷そうな奴だったが、あのオビオ二号はそこまででもない。半分はオビオが入ってるのかもな」
「やっぱ、俺も入ってるじゃん!」
「いいや。作りのよく似た双子ですら性格が真逆だったりするのに、ましてや虫から出来た紛い物と本人。別人と考えるべきだろう」
そうか、サーカが嫉妬しないのは、別人と見なしているからか。てか、地球の法律だとどうなるんだっけ?
「うぅ。ちょっと神の国での扱いはどうなってるのか、聖下に聞いてくる」
「うむ。聖下の意見なら間違いはないだろう」
「やぁ、オビオ」
「ごきげんよう、聖下」
街のはずれにウメボシが急造した小さな建物が、ヒジリさんの拠点。ここで、彼は自領内にいるビャッコさんと連絡を取ったり、捕虜の情報の管理をしている。
今は周りにビャッコ軍の指揮官などがいて、ヒジリさんは書類を次から次へと渡され、目を通すのに忙しい。なるべく手短に話そう。
「ちょっと質問。地球ではナノマシンが他人を乗っ取った場合、それはどういう扱いになるのですか?」
「あぁ、昨日の件かね。地球では滅多に起きない事例だが、ないわけではない。あの場合、乗っ取られた側は再構成されて元通り。乗っ取ったナノマシンに人格が発生した場合、新たなる一個人として認められる」
ほっ、良かった。別人扱いなのか。
「あれ? でも、我々地球人の総人口は常に一定ですよね? そんな特別扱いしていいんですか?」
「それがな―――、おっと。すまない、そろそろ出て行ってくれ。打ち合わせで忙しい」
ヒジリさんは、ビャッコ軍の指揮官の一人に何か耳打ちをされた。
なんだよ、途中まで言って! 最後まで言えよ。
と、言おうと思ったが、俺はあっという間に厳つい顔の虎人たちに追い出されてしまった。
仕方がないので街はずれから、店が立ち並ぶ大通りに出て、ゆっくりと考えながら歩く。
ウィングの子供が生まれる前に、二号が俺の体に戻ってしまったら、やっぱり親は俺って事になるのか?
「なんだか、モヤモヤするなぁ」
頭を抱え、なんとなく視線を落とすと、自分の影から謎の突起物が生えてきた。
「おーい! オビオ! 大変だ!」
突起物はピーターの頭の尖がりだった。影から現れたピーターはとても慌てふためいている。
「どったの?」
「樹族国軍が動いた! 今さっき、国境越えてきたぞ!」
「なにぃ!」
えらく急だな。
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