料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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もう一人のオビオ

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「タンサル様が、オビオになった!」

 獣人兵たちのどよめきが大きくなる。

「見たか! 俺の術を! これが同化の術だ!」

 などと言ってみたが、そもそも同化したタンサル将軍が完全に俺になったかどうかはわからない。もし、精神が将軍のままだったら厄介な事になる。

 俺は動かなくなった将軍(俺)の手にはめる戦士の指輪を見ながら、話しかけてみた。

「指輪を返してくれるかな? 将軍」

「あい」

 うわぁ。なんだろう。まだ脳の神経が繋がりきってないのか、凄く間抜けっぽい返事が返ってきた。

 とはいえ、素直に指輪を返してくれるところを見ると、敵ではないのだろう。

 俺は指輪を受け取ると、左手にはめ、急いで中華鍋の盾を拾いにいく。

 動いた俺を見たアーチャーたちが一斉に弓を構えたが、タンサル将軍(俺)がキリッとした顔でそれを制止した。

「抵抗は無意味だ。将軍は俺が同化した」

 お、書き換えが済んだか。喋り方がまともだ。

「将軍様はどうなったんだ?」

 陰から現れたボロボロの鼠人スカウトが、主を心配して、もう一人の俺に尋ねる。このやられ方は火傷だな。サーカの魔法に巻き込まれたんだろう。

「同化された以上、戻ってはこない。死んだも同然だ」

「くっ!」

 生き残った兵の間に動揺が走る。

 あれだけ戦闘で優位に立っていたタンサル将軍が、よくわからない事で俺になってしまったのだから、気持ちは分かる。

「もうこれ以上の犠牲は必要ないんだ。皆、投降してくれないか?」

 俺の言葉に、顔を見合わせる兵士たち。そんな兵士にもう一人の俺は冷淡な声で命令する。

「投降しなければ、同化する。抵抗はするな」

 な、なんか、俺っぽくないなぁ。

 フルチンの俺を見続けるのは忍びないので、とりあえず亜空間ポケットから適当な服を出して着させた。というか、ナノマシンは服も再現しろよ。

「わかった。投降する。捕虜として正式な扱いを要求する」

 兵士たちは一斉に装備を投げ捨てた。

 よし! タンサル軍を制圧したぞ! 予定外の戦闘だったけど、ビャッコさんやヒジリさんに良い顔ができる。

「おーい、オビオー!」

 戦場が静かになったせいか、皆がやって来た。

「って、えぇぇぇ!! オビオお兄ちゃんが二人いるー!」

 ムクが驚きつつも、地走り族特有の素早さで駆け寄ってくる。

「これも同化するのか? 本体様」

 なんて恐ろしい事をいうの、オビオ! というか性格が全然、俺じゃない! 仲間の事も覚えてないし、大丈夫かなぁ?

「駄目! あれはバトルコック団と言って、俺の仲間なの! 同化しちゃダメ!」

「わかった、本体様」

 ピーターが怪訝そうに俺を見て、もう一人の俺の周りをウロウロしている。

「何で二人になったんだ?」

「話は後だ。ここの兵士は全員投降した。拘束してオライオンに連れて行っていくぞ」

「で、どっちが本物なんだい?」

 ウィングが鼻息荒く聞いてくる。なんか良からぬ事を考えているな。

「一応俺が本物。あっちのマント姿の方が偽」

 まぁ、あっちもある意味、本物なんだけどな。

「じゃあ、本物はサーカでいいよ」

 なにがいいんだよ! どういう事だよ!

「うむ、当然だろう。オビオは私のものだからな。二番目のウィングには偽で十分だ」

 勝手に取り決めやがった。あっちの俺はちょっと危険な気がするなぁ。

「あっちの俺は、いつ俺に戻るかわからないんだぞ。変に感情移入すると後々、悲しい事になると思うんだけど」

「その時は、その時さ」

 ウィングは樹族なのに、結構楽観主義者だなぁ。



 捕虜を引き連れて街に戻ると、ヒジリさんがオライオンに来ていた。

 因みに俺とヒジリさんは呼び捨ての仲だけど、公の場で呼び捨てにすると、樹族国の神学庁や聖職者のウィングやパンさんに睨まれるので、それを忘れないようにするために、心の中でも付けにすることにした。

「やぁ、オビオ。監視ナノマシンで君の雄姿を見ていたよ。いぎゃあああとか、うぎゃああとか、情けない声を上げていたな」

「あっ! しっ! その事は言わないでくださいよ! 聖下!」

 俺は自分の唇に人差し指を当て、必死になる。無様に悲鳴を上げていた事をサーカには知られたくないからだ。

「ヒジリ様は、事の一部始終を見てらっしゃたのですか?」

 パンさんの質問に、ヒジリさんは頷く。

「あぁ。ビャッコの宮殿にて見ていたよ。実に面白かった」

「では、彼が二人になった事も?」

「勿論、知っている。興味深い出来事だったな。あれはオビオにしかできない芸当。簡単に言うと、あのもう一人のオビオは、元タンサル将軍なのだ」

「えっ?!」

 聖下が連れてきた一部のビャッコ軍に、捕虜を引き渡しながらも、皆驚いて俺を見る。

「本当か? オビオ」

 サーカは俺と元将軍を交互に見ながら困惑する。

「うん。だからあっちが偽者なんだ」

「どういう理屈で、タンサル将軍がオビオになったというのだ?」

「俺が体に飼っている虫がいるだろ?」

「あぁ、ナノマシンってやつか」

「そう、それが将軍を侵食したんだ」

 それを聞いたサーカが後ろに退ずさりした。

「虫は私を侵食したりしないだろうな?」

「しないよ。というか、今回の件はまぐれみたいなものだし。再現性は低いんじゃないかな?」

 再現性、という言葉を聞いて、ヒジリさんが話に加わってきた。

「恐らくだが、条件は三つ。相手が敵対者である事。オビオが命の危機に瀕している事。敵がオビオの体の一部を体に密着させている事。この条件が重ならなければ、同化は起きない。安心したまえ、サーカ・カズン」

 そう言うと、捕虜の扱いについての指示をビャッコ軍に出すために、ヒジリさんは離れていった。

「ほっ、良かった。え? 命の危機だったのか? やるな、タンサル将軍。それにしても、オビオは日に日に怪物化していくな」

「ひでえ言い様だな。将軍にも言われたぞ、バケモノだって」

「仕方がないだろう。殺しても死なないし、敵を同化させるしで」

 チェッ! なんだよ。バケモノは否定してくれてもいいだろ。

「そんな、俺は嫌いか?」

「ば、馬鹿! すすす、……好き」

「まぁまぁ、ごちそうさま!」

 ウメボシが俺とサーカの間に割って入ってきた。

「そんな事より、いいんですか? オビオ様。ウィング様が女性化して、もう一人のオビオ様とお宿に入っていきましたが」

 いやらしい笑みを浮かべるウメボシは、そう言い終えると、主のもとへと去っていった。

「なにぃ?! あいつ! もしや!」

 驚く俺を見て、サーカは「カカカ」と笑って茶化し始めた。

「ウィングはしたいのかもな」

「どういうこと? お兄ちゃん?」

「ムクは知らなくていいの~」

「ずるーい、教えてー!」

 肩まで這い上がってきたムクに、おでこをペチペチと叩かれながら考える。

 あー、どうしようか。止めに行くべきか。いや、もう一人の俺の事だ。そっちの知識は無いだろう。

「うん、いいや。ほっとこう」

 結局、俺は二人を放置することにした。どうせ何もできやしないさ。

 夜も遅いし、捕虜や街の皆の料理を優先するか。あー、忙しい忙しい。
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