料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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魔法の使い道

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 朝起きて、ベッドの中で俺は幾度となく傷が治るイメージを練っていた。

 【再生】の魔法はナノマシンの再生とよく似た回復の仕方をするのでイメージがし易く、俺はベストだと思うタイミングでベッドを飛び出す。

 そしてすぐにマナ玉を作る。今回はオッパイの形にならないでくれよ?

 そう願いながら、さっきまで練り上げていたイメージをすぐに玉に投影した。

 するとなんともあっさりと再生の魔法を習得できてしまい、横で見ていたトウスさんが驚いて吠える。ワァーオ! って言ったつもりなんだろうけど、ガーオ! にしか聞こえない。

「おいおい、すげぇじゃないか。俺もコモンマジックくらいは覚えておこうと昔は頑張ったけどよ、魔法はこれっぽっちも習得できなかったんだぜ? なのに獣人より魔法の苦手なオーガが【再生】を習得するとはなぁ! 適正職業を無視して、オーガメイジにでもなればよかったんじゃね?」

「いや、俺は付魔師で良かったと思うよ。ちょっと見てて」

 俺はイグナちゃんに教えてもらった付魔の仕方を思い出しつつも、パンに念を籠める。

(幾度となく癒せ!【再生】!)

「ぎゃあああ! びりびりびり!」

 ピーターの悲鳴が聞こえて来た。また自分でビリビリ言ってる・・・。俺は今エンチャント中なんだぞ! 邪魔をするな!

 後ろで着替えをしていたサーカの尻を触ろうとしたピーターが、電撃でお仕置きされている。昨日、サーカが俺のいない間に、何に魔法を使っていたのかはこれで解った。ピーターのお仕置きに使っていたのだ。

「丁度いいや!」

 俺はプスプスと煙を上げるピーターの口に、【再生】をエンチャントしたパンを押し込んだ。

「もごもご」

 ピーターは、何でパンをこのタイミングで丸パンを食わないといけないんだという顔をしていたが、すぐに咀嚼して飲み込んだ。すると助平地走り族の体が、微かに赤く光る。魔法の効果が出た証拠だ!

 薄皮一枚分焦げていた皮膚が剥がれて、中から綺麗な肌が見え始めた。

「やった! エンチャントに成功した!」

 そして直ぐにピーターに触れて、回復具合を探る。

「すげぇ! 一秒間に1ポイント回復して、それが一分も続く! これは凄いぞ! ピーターは生命点が24だ。余裕で回復する! トウスさんは64、サーカは45だから、一分間攻撃を凌げばほぼ回復できるって事だ!」

「しかも事前にこうやって食べ物にエンチャントしておけば、魔法の使用回数とか関係ねぇしな!」

 俺とトウスさんがハイタッチして喜んでいる横で、サーカが舌打ちをした。

「精々コモンマジックの【灯り】や【眠れ】、頑張っても【魔法の矢】を習得する程度だと思っていたが・・・。フン! 生意気だぞ、オーガのくせに」

「残念でしたぁ~! 昨日の約束忘れてないよな? サーカさんよぉ?」

 ニヤニヤしながら俺は両手の指で、サーカを北斗百裂拳のように突っついた。ホォ~アタタタタ!

 シュバババと音を立てて高速で打ち込まれる突きを、サーカは難なく躱していく。まぁ料理人の繰り出す攻撃に当たるようじゃ騎士として失格だわな。

「ああ、オビオが土下座をして、私の足の裏を舐めるって約束だったか?」

 ほんとムカつくな・・・。お前にそれをやらせてやろうか! いや、駄目だ駄目だ。勿体ない。・・・そうだ!

「俺が再生の魔法を習得したら、お前が何でも言う事をきくって話は一時保留だ。その時が来たら言う」

 ひひひ。これから毎日、なにをさせられるのかに怯えて震えてろ。

「ああ、構わんさ。お前は馬鹿だからその内、約束を忘れてしまうだろうしな。フハハ!」

 ぎひぃ~! 腹立つ! 腹立ち過ぎて原辰徳はらたつのりだよぉ! こいつの挑発スキルはほんと天下一品だな。お前が盾役になったら、さぞかし敵を引き付けるだろうぜ!

「【再生】があるなら俺らもサブ盾ぐらいはできるからよ、これからはあまり無理をするなよ? ヤバくなったら遠慮なく言えよな、オビオ」

 くぅぅ! トウスさん、優しい! モフモフしたい! したら噛みつかれそうだけど。

「でもなぁ・・・。【再生】じゃあなぁ・・・。攻撃を凌ぎきれなかったら意味無いでしょ。やっぱりここは破戒僧ぐらいは仲間にしたいよ。ところで朝飯まだ?」

 ピーターが催促するので、俺は料理に取り掛かる事にした。

 今日の朝ご飯は何なのか知りたくてピーターは、俺の周りをウロウロしている。

「朝飯が何か知りたいのか? いつも通りだよ。ベーコンと目玉焼きと野草のサラダ」

 それでもご馳走なのか、ピーターはニコッと笑った。くそ・・・。地走り族の笑顔の破壊力はズルイ。可愛いと思ってしまうだろうがぁ! ピーターなんかでも!

 フライパンの目玉焼きとベーコンの焼き加減を見ながら、俺はピーターに訊ねた。

「なぁ、光魔法とか水魔法でも回復できるのなら、僧侶とか要らなくねぇか?」

「とんでもない。パンはパン屋だよ」

「パンの話はしていない」

 近くでサーカがブッと吹いて「馬鹿オビオ」と小さな声で言った。あ! 餅は餅屋的なやつか!

「そうじゃなくて、専門家に任せた方がいいってことだよ。光や水のメイジの回復は単体にしかかけられないし、徐々に回復するものしかない。一応、毒や病気も【治療】の魔法で治せるけど、練度が高くないと効果も乏しいんだ。それに致命傷や骨折、欠損なんて僧侶、聖騎士、修道騎士にしか治せない。高位のドルイドや錬金術師にもできるけど、色んな材料費で、結構な金をとられるからさ、僧侶に頼むのと変わらないし。それにあいつらは深い森や地下深くの研究所から出てこないし」

「で、破戒僧が一番好ましいってわけか。でも名前からして悪の僧侶って感じがするんだが、大丈夫なのか?」

「力こそ正義、の闇側のオーガが言う事かよ。名前こそ破戒僧だけど、単に神学庁や神聖国モティに所属するのを拒否してるだけの事さ。だから普通に冒険者として登録しているよ。破戒僧がダメなら、修道騎士でも良いんだけど、あいつらは数が少なすぎるから、まぁ無理だろうね」

「聖騎士がいいなぁ。フランちゃんみたいな。デヒヒヒ」

 サーカが料理中の俺のふくらはぎに、アリキックを打ち込んだ。

「いでぇ! 衝撃で目玉焼きがフライパンから飛び出すところだったろうが! アホサーカ!」

「馬鹿はお前だ。聖騎士どころか聖騎士見習いでも、世界で数えるほどしかいないんだぞ。聖騎士とは神と対話し、その教えのみで己を磨く真の騎士なのだ。神以外の誰にも教えを乞う事ができないから成長が遅い。だから適性が聖騎士であっても目指す者は少ない。まぁ滅多に適性がある者なんていないがな。その代り、極めれば蘇生の祈りができるようになるし、回復の祈りは広範囲の仲間を癒す。しかも、そこにいるだけで周りの仲間の能力を底上げするカリスマ性や、敵を挑発せずとも引きつける魅力値、凄まじいまでの回避力と防御力がある。お前が試練の塔で、あそこまでやれたのもフラン殿のお陰。そんなスーパースターが、仲間になるわけないだろうが。ドアホ」

 う・・・。フランちゃんって遥か雲の上の存在なんだな。あぁ、フランちゃんの笑顔と、ムチムチボディの幻が空を上っていくよ・・・。もっとハグしとけばよかった・・・。

 フランちゃんの存在が遠くなってしまったので、俺は八つ当たりのようサーカを睨んだ。

「お前も聖騎士の真似事ぐらいできるだろ! え! 光魔法の回復系を習得しといてくれよ! え!」

「断る。私は光と土の魔法を使えるが、基本的に自己強化と、相手を打ちのめす攻撃魔法しか覚えない」

「だから魔法具店で、攻撃魔法の魔法書ばかり買ってんだな・・・。ドSのサーカ様らしいや」

 俺は岩のテーブルに、料理の乗ったプレートを置いていく。

 ピーターはすぐにトーストにバターを塗って齧った。

「でもさ、自分の属性以外の魔法なんて、覚えても練度って中々上がらないって聞いたよ? 騎士様」

「私が能力持ちだという事を忘れたか? 自分の実力値の範囲内までなら、魔法書から魔法を瞬時に覚えるし、練度も上がりやすい早覚えというものだ。自分に合ってない魔法でも、どんどんと練度が上がっていくのだぞ! 大魔法使いサーカ様と呼ばれるのも時間の問題だ! フハハ!」

 食べながら笑うなよ、サーカ。口の中のぐちゃぐちゃになった食べ物が見えて汚い・・・。ピーターのようだ。

「それって、一度見覚えの劣化版だな。それにしても騎士なのに、大魔法使いっておかしくね?」

「はぁ・・・。オビオは本当に物知らずだな。まるで大きな赤ちゃんだ。いいか、樹族国の騎士は、他国で言うところの魔法剣士みたいなものだから、メイジの派生なのだ。だから大魔法使いを名乗っても問題ない!」

「へぇ。じゃあお前も試練の塔で、メイジになったのか?」

「無論。己の幻影に打ち勝つのは難しいものだった。幻影はこちらのトラウマを刺激しつつ攻撃してくるからな」

 うえ! お前のトラウマって相当きつそうだけど・・・。やべ、目頭が熱くなってきた。

 おっと! 目頭を押さえている場合じゃない。今日の計画を皆に言わねば。

「蛇殺しの剣を返しに、ブラッド領まで行くのが暫くの目的なんだけどさ、路銀に余裕を持たせたい。だから今日は、アルケディアの冒険者ギルドで依頼を受ける事にする」

「それは構わねぇが、アルケディアの依頼は安いし、初心者レベルのものばかりだぜ? だったら途中のニーシ村の冒険者ギルドで依頼を受けた方がいいな。あそこは俺たちみたいな中級レベルに丁度いい依頼があるからよ」

 移民の割に、この国の事を色々と知っているな。きっと色んな情報を集めて不法移民である現状から脱出しようとしていたんだな。トウスさんが樹族国の国民になれて良かったよ。

 待て、ニーシ村?

「ニーシ村だって? そこには知り合いがいるし、行きたかったんだ! よし! じゃあ朝食を食べたらニーシ村に出発な!」

「アイアイ! キャプテン!」

 トウスさんがそう言ってガハハと笑う。いつも明るいな、この人は。

 それにしても・・・。こんなに早くにニーシ村に行けるとは! ホッチさんやチッチは元気かな?
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