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ウィング・ライトフット
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「ほう。暗殺者が帰ってこないだと・・・」
四角い顔の司祭は、ちょび髭を少し捩じってから帽子を脱いだ。白いつば広帽子には、黒いアイマスクが付いており、内側に折りたたんでサイドテーブルに置いた。
オールバックを撫でつけてから、司祭はソファに深く腰を下ろす。ここ最近、自分たちの地位を脅かす存在が現れている。その存在が大きければ大きい程、樹族の神の信仰者が減った事を表すのだ。
「カァー!」
前方の窓辺からこちらを見つめる使い魔のカラスは、羽ばたいて去って行く。
「神の力を持つといわれるヒジリはともかく、見せしめの贄に選んだあのパーティまでも、何事もなく生き延びていようとはな。とはいえウォール家に関わる者。それなりの実力者ということか。さてどうする・・・。」
司祭はチッと舌打ちして、二手三手が出てこない無策な自分に苛立った。
「法王フローレス様の真似をしてみたものの、失敗続きで金ばかり消える。脅すための証拠を残し過ぎたせいか、騎士修道会も神前審問の為に動き始めた。あのノームの夫婦もヒジリ叩きに使えるかと思ったが、早口過ぎて何を言っているのかわからん。ゆっくり喋れと言っても、術のかかりが悪いのか言うことをきかない。殺すか? いや、ノームと事を構えるのは厄介だ。あいつらは間抜けだが馬鹿ではない」
司少し身を起こし、白ローブの袖をまくって、サイドテーブルにあるグラスにワインを注ぐ。
「なにノームだってやりようによっては暗殺者になる。前回はノームの娘に情報を吹き込んでオーガにけしかけただけだったが、今回は違う。きっと上手くいくとも。特にバトルコックやらの首をシルビィに送れば、それは即ち、ヒジリへの威嚇となろう。この世界にオーガの――――、忌々しい闇始祖神の再来など必要ないのだ」
垂れ目の三白眼を細くして何かを思案した後、偽りの白ローブを着る男は、一気にグラスの中のワインを呷った。
トウスさんは時々夜中に消える。最初はトイレかと思っていたが、どうもそうでもないらしい。
今日、魔法のロングソード(トウスさんが『絶対命中』と名付けた魔剣・・・・。そのまんまだな)を持って森に消えていくのが見えた。
なんとなく背中を見ればわかるんだ。緊張の度合いが。筋肉が強張り、肩に力が入っている。明らかにトウスさんは何かを警戒している。
(なんだろうか?)
夜中に腹が減ったから、なにか美味い物をよこせと、両腕にしがみ付くサーカとメリィを引き離そうとしたが、二人ともパーティ内での力自慢、二位と三位なので中々離れてくれない。
(そうそう良い食材が手に入るわけねぇだろ! 俺の料理に魅了されし素敵な者どもめ! くそ、トウスさんを見失う。しゃあねぇ)
俺はまずサーカの長い耳をはむはむと甘噛みした。
「あっ! あっ! き、貴様!」
サーカが腰をもぞもぞさせて悶えだした。樹族の弱点は耳なのだ。起きている時にこんな事をすると間違いなく、後でボッコボコにされる。これは恋人同士しかやっちゃいけない事だからな・・・。
とどめと言わんばかりに耳を舐めると、サーカがビクビクンと震えて、絡んでいた腕がするりと外れた。
腕が外れたので耳から口を離すと、徐々にサーカの顔に平穏が戻る。
(やべぇ、早くしないと)
俺は焦りながら、メリィを引き離そうとした。
顔をグッグっと雑に押してみたりもしたが、やっぱり駄目だ。
なにせ彼女は地下墓地での活躍で成長し、滅多にあがらないはずの能力値が上がっていたからな。筋力値が13から14になっていたのだ。能力値が1違うだけで大きな差ができるのに、俺とは2も差ができてしまった。
(メリィの耳もはむはむしてみるか?)
しかし地走り族の特徴である、少しだけ尖った耳は、長いふわふわの銀髪で見えない。空いた方の手で亜空間ポケットから、濃いめの焼き目がついた丸パンを取り出して、メリィの口に突っ込んでみる。
(よく味わえよ。良い小麦で作ったバゲットだからさ)
「ふわぁ、美味しい・・・。夢見たい」
よく見ると、メリィは寝ている。
寝ながら食べてるのだ! パンを両手で持って! ハムスターみたいに!
俺は自由になった両手で、腹の上のリュウグを下すと、毛布に潜って下から這い出た。
「はぁ、こんなにガチガチに拘束されてちゃ、普通の男なら毎晩失禁かもな。トイレにすら行けねぇじゃんか」
老廃物を滅多に出さない地球人で良かったと思いつつ、俺はトウスさんが消えていった方向へと向かった。
「月明かりがあるとはいえ、暗いなぁ・・・。【暗視】の魔法が欲しいわ。ん? なんか音がする」
耳を澄ますと、少し先から枯葉が踏まれてカサカサと鳴る音と、剣戟の音が聞こえてくる。間違いなく誰かが戦っているのだが、こんなに静かな戦いは初めてだった。
俺は茂みに潜んで戦いの様子を見る事にした。
トウスさんは樹族相手に軽く攻撃を繰り出しているが、その攻撃の全てが剣に当たっている。これはトウスさんがそうしているのか、相手の技量なのか俺にはよく解らない。
樹族の目は金色に光っている。【暗視】の魔法を使っている証拠だ。
その光った目が月光に照らされる獅子人を見て言う。
「何者だ? 賊か?」
トウスさんに向かって賊はないだろう。寧ろお前が賊のくせに。
「いいや。お前こそなぜこの野営地に近づいた? 俺を殺せとサル人に雇われたか? それともパーティを狙うモティの者か? まぁ訊ねたところで暗殺者は答えねぇだろうがよ」
「何の話だ?」
「こんな夜中に複数人でやってくるなんて、怪しさ満点だろ。すっとぼけても無駄だ」
複数人? まだ敵は何人かいるのか? 俺は警戒して周囲を確かめたが敵の仲間は確認できなかった。
「うぐ!」
樹族が肩に攻撃を受けて呻いた。まぁ、ただでさえ強いトウスさんが、魔法の剣を持っているのだから敵うわけがないのだよ。クックック。
更に繰り出される魔剣『絶対命中』の攻撃を、必死になって剣で往なす軽装の戦士は、明らかに分が悪いという顔をしている。
このままトウスさんの攻撃を、そのレイピアによく似たエペで受け続ければ、どうなることやら。
トウスさんもまだ本気をだしておらず、手加減をして敵の皮一枚だけを切って様子を見ている。
魔剣を迎え撃つエペ自体は殺傷能力がなく、ただの細い金属の棒だ。【光の剣】を帯びさせて武器にしているが、樹族の男は防御一辺倒で反撃の機会はなかった。
「くっ! 中々やるな、獅子人。だが話が通じないのなら仕方あるまい」
金髪のナルシストといった感じの樹族は、大きくバックステップをしてエペを構えた。
「必殺技でもやるのか? そんな練習用みたいなエペじゃ俺の相手にはならねぇぞ?」
「残念だが、これはエペではないのだよ。敵を切り裂け【竜巻】!」
俺の勘がヤバいと警告を鳴らした。咄嗟に覚えたての【魔法防壁】をトウスさんに向けて唱えた。
かまいたちの大きな渦は、トウスさんをズタボロにするはずだったが、【魔法防壁】がドームのように覆って無数の真空刃を防いで、数秒後に崩壊した。
流石に魔法の風ダメージ全ては吸収できず、トウスさんは全身から血を流している。
トウスさんもしっかりレジストしただろうし、魔法防壁の阻害もあったにもかかわらず、これだけのダメージを与えたのだから【竜巻】の魔法の威力の大きさがよく解る。
俺のかけた【魔法防壁】に気が付いたトウスさんは、こちらの茂みを見ている。
「そこにいるのはオビオか? 助かった。再生パンを投げてくれ」
俺は茂みから黙って再生パンをトウスさんに投げると、彼はすぐにそれを大きな口へ放り込んだ。すると体中の血が止まり切り傷がゆっくりと治っていく。
「仲間がいるのか。悪いが僕は君たちが思うような輩の者ではないだがね。どうすれば信じてもらえる?」
「じゃあよ、大人しくオビオに触られろ。そうすりゃお前の身元が直ぐに解るだろ」
「わかった」
俺は樹族の男がエペ型のワンドを投げ捨てて、両手に何も持ってないのを確認すると茂みから出た。
「随分と用心深いな、オビオ」
「どこかにこいつの仲間が潜んでいるんだろ? それにさ、弱かった頃の癖でつい・・・」
オーガである俺が茂みから現れると、樹族は「ああ、なるほど!」と手を打った。
「君たちが探していたパーティだな。確かバトルコック団だったかな? 君たちが移動しなくなる夜を狙って居場所を探したのは正解だったよ」
樹族はウェーブする金髪をかきあげて、羊皮紙を俺に投げてよこした。
俺はそれをキャッチすると開いて読もうとしたが、暗くて字が読めない。
「暗くて見えねぇや」
「オーガは暗視ができたはずだがね? 仕方がない。【灯り】」
大きな光の玉が空中に浮いて周囲を明るく照らす。この【灯り】の魔法は地味にメイジの実力を表す。照らす範囲と光の強さでそのメイジの力がわかるのだ。
しかもこいつはトウスさんに押されていたとはいえ接近戦もこなしていたぞ・・・。サーカと同じ騎士なのか?
「なんて書いてあんだ? オビオ」
「ん、モティからの書簡だな。どうも俺たちを狙っていた司祭の謝罪文のようだ。勘違いで俺たちの事を神の敵だと思っていたらしい。嘘クセェ・・・。カク・カクイって名前の司祭だ。知ってる? トウスさん」
「さぁな。モティの地方司祭だろ」
「これだけで本当に手を引いたかどうかなんてわからないしなぁ。俺たちが油断したところを後ろからグサリって可能性もある」
ハハっと優男が笑う。そんな事はあり得ないといった態度だ。
「カク司祭は思い込みの激しい人でね。信心深いのはいいのだけれど、独善が暴走する事もあるかもしれない。が、そんな卑怯な手は使わない。それからこのパーティにはノームがいると聞いた。この二人は知り合いかもしれないと思って連れてきたのだが」
俺がリュウグのお守りを触った時に見た、映像の中にいたノームだ。つまりリュウグの両親。
「連れ去っておいてよく言うぜ」
「連れ去っただって? カク司祭がか?」
「そうだ。普通に誘拐罪だろ」
「カク司祭の話では、路上強盗に襲われていたノームを助けて保護したって話だが・・・」
「お前はどうせ下っ端なんだろ? だから何も知らねぇんだよ」
「こう見えても助祭なんだがね・・・。申し遅れたが、僕はウィング・ライトフット。能力的には司祭兼戦士だ」
彼はパチッと指を鳴らすと、リュウグの両親が茂みからおずおずと現れた。
「キュル!」
「キュル!」
早口過ぎて何言ってのかわかんねぇ・・・。
確かリュウグもそうだったけど、喉襟の部分に翻訳機がついていたよな?
俺は二人に喉を叩けと身振りで教えた。
二人共、こちらの意図を察して、喉を叩いき翻訳機を作動させた。
「リュウグはどこだ?」
「私たちの可愛いリュウグは?」
「大丈夫ですよ、リュウグなら寝床でぐうぐういびきをかいていますから。でも今日は夜も遅いし、明日話をしましょう」
俺は鼻に皺を寄せてウィングに向いた。
「お前も一緒だからな、ウィング。逃げるなよ? 俺たちのパーティにはお前らの監視者である修道騎士がいるのだから明日色々取り調べさせてもらう」
「まぁ僕に審問しても無意味だがね。僕は何も知らない」
「お前が何も知らないかどうか、明日分かる。俺も鑑定の指輪で視させてもらうからよ」
「お手柔らかに頼むよ」
随分と余裕かましているな!
「うるせぇ! こっちはお前らのせいで酷い目に逢ってんだ!(まぁ一番死にそうな目に遭わされたのは、モティとは全く関係のない自由騎士との戦いだったけどな・・)」
「それはそれは・・・」
暖簾に腕押しとはこのことだ。腹立つ・・・。
「寝袋とか持ってるのか?」
「勿論」
なら良かった。 捕虜とはいえ地面に寝かすのは可哀想だからな。
「じゃあ焚火の近くで寝ろ。トウスさんが一晩中見張ってるのを忘れるなよ?」
トウスさんが欠伸をした。
「一晩中は無理だな。だが、お前が逃げ出そうとすれば、すぐに目が覚めるからそのつもりでいなよ」
「はいはい」
俺はリュウグの問題がこうもあっさり解決するとは思わなかった。まだ警戒した方が良いのだろうけど、明日両親を見たリュウグの喜ぶ顔を思い浮かべると嬉しくなってくる。
(でもこれは彼女との別れを意味するんだよなぁ・・・。せっかく俺に好意を抱いてくれる女の子が現れたのに残念だわ。まぁいつかノーム国に行って会えばいいか。ノームの料理はどんなのかな)
俺はワクワクしながらベッドに潜り込もうとしたが、サーカ達が大の字になって占領しているので、その晩は端っこで落ちそうになりながら眠る事にした。
四角い顔の司祭は、ちょび髭を少し捩じってから帽子を脱いだ。白いつば広帽子には、黒いアイマスクが付いており、内側に折りたたんでサイドテーブルに置いた。
オールバックを撫でつけてから、司祭はソファに深く腰を下ろす。ここ最近、自分たちの地位を脅かす存在が現れている。その存在が大きければ大きい程、樹族の神の信仰者が減った事を表すのだ。
「カァー!」
前方の窓辺からこちらを見つめる使い魔のカラスは、羽ばたいて去って行く。
「神の力を持つといわれるヒジリはともかく、見せしめの贄に選んだあのパーティまでも、何事もなく生き延びていようとはな。とはいえウォール家に関わる者。それなりの実力者ということか。さてどうする・・・。」
司祭はチッと舌打ちして、二手三手が出てこない無策な自分に苛立った。
「法王フローレス様の真似をしてみたものの、失敗続きで金ばかり消える。脅すための証拠を残し過ぎたせいか、騎士修道会も神前審問の為に動き始めた。あのノームの夫婦もヒジリ叩きに使えるかと思ったが、早口過ぎて何を言っているのかわからん。ゆっくり喋れと言っても、術のかかりが悪いのか言うことをきかない。殺すか? いや、ノームと事を構えるのは厄介だ。あいつらは間抜けだが馬鹿ではない」
司少し身を起こし、白ローブの袖をまくって、サイドテーブルにあるグラスにワインを注ぐ。
「なにノームだってやりようによっては暗殺者になる。前回はノームの娘に情報を吹き込んでオーガにけしかけただけだったが、今回は違う。きっと上手くいくとも。特にバトルコックやらの首をシルビィに送れば、それは即ち、ヒジリへの威嚇となろう。この世界にオーガの――――、忌々しい闇始祖神の再来など必要ないのだ」
垂れ目の三白眼を細くして何かを思案した後、偽りの白ローブを着る男は、一気にグラスの中のワインを呷った。
トウスさんは時々夜中に消える。最初はトイレかと思っていたが、どうもそうでもないらしい。
今日、魔法のロングソード(トウスさんが『絶対命中』と名付けた魔剣・・・・。そのまんまだな)を持って森に消えていくのが見えた。
なんとなく背中を見ればわかるんだ。緊張の度合いが。筋肉が強張り、肩に力が入っている。明らかにトウスさんは何かを警戒している。
(なんだろうか?)
夜中に腹が減ったから、なにか美味い物をよこせと、両腕にしがみ付くサーカとメリィを引き離そうとしたが、二人ともパーティ内での力自慢、二位と三位なので中々離れてくれない。
(そうそう良い食材が手に入るわけねぇだろ! 俺の料理に魅了されし素敵な者どもめ! くそ、トウスさんを見失う。しゃあねぇ)
俺はまずサーカの長い耳をはむはむと甘噛みした。
「あっ! あっ! き、貴様!」
サーカが腰をもぞもぞさせて悶えだした。樹族の弱点は耳なのだ。起きている時にこんな事をすると間違いなく、後でボッコボコにされる。これは恋人同士しかやっちゃいけない事だからな・・・。
とどめと言わんばかりに耳を舐めると、サーカがビクビクンと震えて、絡んでいた腕がするりと外れた。
腕が外れたので耳から口を離すと、徐々にサーカの顔に平穏が戻る。
(やべぇ、早くしないと)
俺は焦りながら、メリィを引き離そうとした。
顔をグッグっと雑に押してみたりもしたが、やっぱり駄目だ。
なにせ彼女は地下墓地での活躍で成長し、滅多にあがらないはずの能力値が上がっていたからな。筋力値が13から14になっていたのだ。能力値が1違うだけで大きな差ができるのに、俺とは2も差ができてしまった。
(メリィの耳もはむはむしてみるか?)
しかし地走り族の特徴である、少しだけ尖った耳は、長いふわふわの銀髪で見えない。空いた方の手で亜空間ポケットから、濃いめの焼き目がついた丸パンを取り出して、メリィの口に突っ込んでみる。
(よく味わえよ。良い小麦で作ったバゲットだからさ)
「ふわぁ、美味しい・・・。夢見たい」
よく見ると、メリィは寝ている。
寝ながら食べてるのだ! パンを両手で持って! ハムスターみたいに!
俺は自由になった両手で、腹の上のリュウグを下すと、毛布に潜って下から這い出た。
「はぁ、こんなにガチガチに拘束されてちゃ、普通の男なら毎晩失禁かもな。トイレにすら行けねぇじゃんか」
老廃物を滅多に出さない地球人で良かったと思いつつ、俺はトウスさんが消えていった方向へと向かった。
「月明かりがあるとはいえ、暗いなぁ・・・。【暗視】の魔法が欲しいわ。ん? なんか音がする」
耳を澄ますと、少し先から枯葉が踏まれてカサカサと鳴る音と、剣戟の音が聞こえてくる。間違いなく誰かが戦っているのだが、こんなに静かな戦いは初めてだった。
俺は茂みに潜んで戦いの様子を見る事にした。
トウスさんは樹族相手に軽く攻撃を繰り出しているが、その攻撃の全てが剣に当たっている。これはトウスさんがそうしているのか、相手の技量なのか俺にはよく解らない。
樹族の目は金色に光っている。【暗視】の魔法を使っている証拠だ。
その光った目が月光に照らされる獅子人を見て言う。
「何者だ? 賊か?」
トウスさんに向かって賊はないだろう。寧ろお前が賊のくせに。
「いいや。お前こそなぜこの野営地に近づいた? 俺を殺せとサル人に雇われたか? それともパーティを狙うモティの者か? まぁ訊ねたところで暗殺者は答えねぇだろうがよ」
「何の話だ?」
「こんな夜中に複数人でやってくるなんて、怪しさ満点だろ。すっとぼけても無駄だ」
複数人? まだ敵は何人かいるのか? 俺は警戒して周囲を確かめたが敵の仲間は確認できなかった。
「うぐ!」
樹族が肩に攻撃を受けて呻いた。まぁ、ただでさえ強いトウスさんが、魔法の剣を持っているのだから敵うわけがないのだよ。クックック。
更に繰り出される魔剣『絶対命中』の攻撃を、必死になって剣で往なす軽装の戦士は、明らかに分が悪いという顔をしている。
このままトウスさんの攻撃を、そのレイピアによく似たエペで受け続ければ、どうなることやら。
トウスさんもまだ本気をだしておらず、手加減をして敵の皮一枚だけを切って様子を見ている。
魔剣を迎え撃つエペ自体は殺傷能力がなく、ただの細い金属の棒だ。【光の剣】を帯びさせて武器にしているが、樹族の男は防御一辺倒で反撃の機会はなかった。
「くっ! 中々やるな、獅子人。だが話が通じないのなら仕方あるまい」
金髪のナルシストといった感じの樹族は、大きくバックステップをしてエペを構えた。
「必殺技でもやるのか? そんな練習用みたいなエペじゃ俺の相手にはならねぇぞ?」
「残念だが、これはエペではないのだよ。敵を切り裂け【竜巻】!」
俺の勘がヤバいと警告を鳴らした。咄嗟に覚えたての【魔法防壁】をトウスさんに向けて唱えた。
かまいたちの大きな渦は、トウスさんをズタボロにするはずだったが、【魔法防壁】がドームのように覆って無数の真空刃を防いで、数秒後に崩壊した。
流石に魔法の風ダメージ全ては吸収できず、トウスさんは全身から血を流している。
トウスさんもしっかりレジストしただろうし、魔法防壁の阻害もあったにもかかわらず、これだけのダメージを与えたのだから【竜巻】の魔法の威力の大きさがよく解る。
俺のかけた【魔法防壁】に気が付いたトウスさんは、こちらの茂みを見ている。
「そこにいるのはオビオか? 助かった。再生パンを投げてくれ」
俺は茂みから黙って再生パンをトウスさんに投げると、彼はすぐにそれを大きな口へ放り込んだ。すると体中の血が止まり切り傷がゆっくりと治っていく。
「仲間がいるのか。悪いが僕は君たちが思うような輩の者ではないだがね。どうすれば信じてもらえる?」
「じゃあよ、大人しくオビオに触られろ。そうすりゃお前の身元が直ぐに解るだろ」
「わかった」
俺は樹族の男がエペ型のワンドを投げ捨てて、両手に何も持ってないのを確認すると茂みから出た。
「随分と用心深いな、オビオ」
「どこかにこいつの仲間が潜んでいるんだろ? それにさ、弱かった頃の癖でつい・・・」
オーガである俺が茂みから現れると、樹族は「ああ、なるほど!」と手を打った。
「君たちが探していたパーティだな。確かバトルコック団だったかな? 君たちが移動しなくなる夜を狙って居場所を探したのは正解だったよ」
樹族はウェーブする金髪をかきあげて、羊皮紙を俺に投げてよこした。
俺はそれをキャッチすると開いて読もうとしたが、暗くて字が読めない。
「暗くて見えねぇや」
「オーガは暗視ができたはずだがね? 仕方がない。【灯り】」
大きな光の玉が空中に浮いて周囲を明るく照らす。この【灯り】の魔法は地味にメイジの実力を表す。照らす範囲と光の強さでそのメイジの力がわかるのだ。
しかもこいつはトウスさんに押されていたとはいえ接近戦もこなしていたぞ・・・。サーカと同じ騎士なのか?
「なんて書いてあんだ? オビオ」
「ん、モティからの書簡だな。どうも俺たちを狙っていた司祭の謝罪文のようだ。勘違いで俺たちの事を神の敵だと思っていたらしい。嘘クセェ・・・。カク・カクイって名前の司祭だ。知ってる? トウスさん」
「さぁな。モティの地方司祭だろ」
「これだけで本当に手を引いたかどうかなんてわからないしなぁ。俺たちが油断したところを後ろからグサリって可能性もある」
ハハっと優男が笑う。そんな事はあり得ないといった態度だ。
「カク司祭は思い込みの激しい人でね。信心深いのはいいのだけれど、独善が暴走する事もあるかもしれない。が、そんな卑怯な手は使わない。それからこのパーティにはノームがいると聞いた。この二人は知り合いかもしれないと思って連れてきたのだが」
俺がリュウグのお守りを触った時に見た、映像の中にいたノームだ。つまりリュウグの両親。
「連れ去っておいてよく言うぜ」
「連れ去っただって? カク司祭がか?」
「そうだ。普通に誘拐罪だろ」
「カク司祭の話では、路上強盗に襲われていたノームを助けて保護したって話だが・・・」
「お前はどうせ下っ端なんだろ? だから何も知らねぇんだよ」
「こう見えても助祭なんだがね・・・。申し遅れたが、僕はウィング・ライトフット。能力的には司祭兼戦士だ」
彼はパチッと指を鳴らすと、リュウグの両親が茂みからおずおずと現れた。
「キュル!」
「キュル!」
早口過ぎて何言ってのかわかんねぇ・・・。
確かリュウグもそうだったけど、喉襟の部分に翻訳機がついていたよな?
俺は二人に喉を叩けと身振りで教えた。
二人共、こちらの意図を察して、喉を叩いき翻訳機を作動させた。
「リュウグはどこだ?」
「私たちの可愛いリュウグは?」
「大丈夫ですよ、リュウグなら寝床でぐうぐういびきをかいていますから。でも今日は夜も遅いし、明日話をしましょう」
俺は鼻に皺を寄せてウィングに向いた。
「お前も一緒だからな、ウィング。逃げるなよ? 俺たちのパーティにはお前らの監視者である修道騎士がいるのだから明日色々取り調べさせてもらう」
「まぁ僕に審問しても無意味だがね。僕は何も知らない」
「お前が何も知らないかどうか、明日分かる。俺も鑑定の指輪で視させてもらうからよ」
「お手柔らかに頼むよ」
随分と余裕かましているな!
「うるせぇ! こっちはお前らのせいで酷い目に逢ってんだ!(まぁ一番死にそうな目に遭わされたのは、モティとは全く関係のない自由騎士との戦いだったけどな・・)」
「それはそれは・・・」
暖簾に腕押しとはこのことだ。腹立つ・・・。
「寝袋とか持ってるのか?」
「勿論」
なら良かった。 捕虜とはいえ地面に寝かすのは可哀想だからな。
「じゃあ焚火の近くで寝ろ。トウスさんが一晩中見張ってるのを忘れるなよ?」
トウスさんが欠伸をした。
「一晩中は無理だな。だが、お前が逃げ出そうとすれば、すぐに目が覚めるからそのつもりでいなよ」
「はいはい」
俺はリュウグの問題がこうもあっさり解決するとは思わなかった。まだ警戒した方が良いのだろうけど、明日両親を見たリュウグの喜ぶ顔を思い浮かべると嬉しくなってくる。
(でもこれは彼女との別れを意味するんだよなぁ・・・。せっかく俺に好意を抱いてくれる女の子が現れたのに残念だわ。まぁいつかノーム国に行って会えばいいか。ノームの料理はどんなのかな)
俺はワクワクしながらベッドに潜り込もうとしたが、サーカ達が大の字になって占領しているので、その晩は端っこで落ちそうになりながら眠る事にした。
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完結済み長編ファンタジーです。
シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。
最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。
家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。
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都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。
手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。
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スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。
たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
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とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
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彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
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#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
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追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
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