料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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オビオびんびん物語

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 一体どうして、トロ子の命は消えようとしているんだ? トロールなら、こっから驚異的な回復で俺たちを驚かせてもいいはずだ。

 なんで? ヒドラ星人の影響なのか? くそ! 俺は科学者じゃねぇから、細かいことはわからん!

「諦めろ。それ以上何ができるというのだ」

 いつものようにサーカが言う。こいつは何かあると直ぐに「諦めろ!」だ。あまりの美味しさに、食べた者の気力を失くすといわれている、アキラメロンを常に食っていると疑わざるを得ない。

「ああ。確かにこれ以上なんにもできねぇよ。でもよ、トロ子の命が消えるその瞬間まで、俺は諦めねぇからな!」

 俺の態度にサーカはカチンときたようだ。

「役立たずのオビオが祈ったところで奇跡は起こせまい。それなら、メリィの祈りのほうが、まだマシだ」

 それを聞いて俺の頭に、あの悪魔の言葉が過る。

 ――――仲間を頼れ。

 その言葉が似つかわしくない人修羅キリマルを思い出して、一瞬身震いをした。そしてその後、メリィを見る。

 そういやメリィも修道騎士一筋。そろそろ蘇生の祈りを習得しててもおかしくないよな?

「メリィって、もしかして蘇生の祈りを習得してたりする?」

「あるよ~。でも触媒や儀式無しでやったら、成功率が下がるんだよぉ~」

 そうだった。確か、不死鳥の羽等の触媒が必要だった。魔法も祈りもそうだけど、触媒を使って儀式をすると、成功率が格段に上がるんだっけか。

 僅かでも成功率を上げる必要のある、蘇生の魔法や祈りは、触媒や儀式有りきで物事を進めるので、メリィ一人の祈りだけだと心細い。

 それでも死にゆくトロ子を放っておくわけにはいかない。うだうだ言っている間に、彼女が本当に死んでしまう。

「やってくれ! 可能性があるなら、それに縋りたい!」

「わかった~」

 俺から伝わる雰囲気を察してくれたのか、メリィはすぐに片膝をついて祈り始めた。

 銀髪の彼女がブツブツと念じて両手を組むと、メリィとトロ子に天から光が降り注ぐ。

 薄明光の中、トロ子がキラキラと光り輝いて眩しい。

 祈りを終えた修道騎士は、じっと事の経過を見守っている。そして結果がわかったのか、目を見開いて驚いた。

「あっ・・・! これは!」

 メリィがそう声を漏らすと、間もなくトロ子の体が外側から灰になっていく・・・。

「これは・・・。失敗・・・、したのか?」

 目に涙を溜めながら、俺はメリィを見た。修道騎士は静かに頷く。

 うう・・・。失敗確率が高いとはわかっていたけど・・・。 俺の料理を美味しいって言ってくれたトロ子が! 目の前で死ぬなんて!

「こればかりは神の気分次第だ。今度こそ、諦めろ」

 サーカが俺の肩に手を置くが、それを跳ね除けてじっと灰の中を見る。

「まだだ。トロ子が完全に灰になって風で飛ばされるまで、俺は諦めねぇ!」

 鼻を啜る俺の周りから、もう戦闘は終わったと言わんばかりに、人が去っていく。

 死と隣り合わせに生きているこの世界の住人は、トロ子の死に何も思わないようだ。そりゃそうだよな。トロ子は余所者だし、明日は我が身。一々悲しんでなんかいられない。

 辺境伯とその部下は館へと帰り、傭兵や冒険者達はギルドへ。

「オビオ殿・・・」

 ダーレは辺境伯についていかなかったのか・・・。俺のことを気にかけてくれるのかよ。優しいな。サーカを倒した時のような非情さは、これっぽっちも感じねぇ。

「大変、気の毒に思うが」

 ダーレが俺を慰めてくれようとした、その時――――。

「おぎゃあ!」

 前方から、産声が一つ。

「――――?!」

 消えかえていた天からの光が、灰の山の上にいる赤ん坊を照らした。

「?? 赤ちゃん? この子は、トロ子・・・。なのか?」

 赤ん坊はオレンジ色の髪をしている。そういや、トロ子もオレンジ色の髪を頭頂で束ねていたな。

「馬鹿な。トロールにしては小さすぎる。普通のトロールでも、生まれたては五十センチくらいはあるぞ!」

 サーカが驚いて、赤ん坊を抱き上げ、まじまじと見ている。

 股間に何もついていないから、確かに女の子だ。

「地走り族・・・か? いや、足の裏に毛が生えていないな。耳も長く尖っていないので、樹族ではない」

 俺には人間の赤ん坊に見えるが・・・。

「転生・・・。トロールが転生したのでは?」

 ダーレがマントを脱いで、それで赤ん坊を包んだ。

「何に、だ?」

 サーカが訝しそうに、赤ん坊とダーレを交互に見ている。

「それは判らないが、修道騎士殿の蘇生の祈りが、何かしら作用したのだと思う。どうだろう?」

 短髪の戦士は、振り返ってメリィを見たが、蘇生の祈りを施した当の本人は、何もわからないといった様子だった。

「蘇生に失敗すると、転生する事もあるのか?」

 俺は他の仲間に尋ねてみた。すると顎を擦って何かを考えるウィングが一歩前に出た。

「ないことはない」

 お? 知っているのか? ウィング! そういや、こいつは助司祭だった。

「この目で見るのは初めてだけどね。はるか昔に神降ろしをした、地走り族の聖騎士を知っているかい? 彼も元は樹族だったらしい。転生時の描写が、書庫の本と同じでびっくしたよ」

「それは眉唾だな。お前ら樹族は、他種族の手柄を横取りするからよ。その聖騎士様は、元から地走り族だったに違いない」

 おっと、トウスさんが珍しくウィングに噛み付いた。

「それは否定しないさ。所詮は昔話だしね」

 否定せんのかーい。意外とウィングは寛容だった。修道騎士のメリィに非寛容だけど。

「取り敢えず、この子の情報を・・・」

 俺は生まれたてホヤホヤの赤ちゃんに、恐る恐る触れてみる。

「名前は・・・。トロ子! やっぱり! この赤ちゃんはトロ子だ!」

 上位鑑定の指輪は、更に情報を流し込んでくる。

「種族は、人間。母親はトロ子、父親はオビオだって! ハハッ!」

 トロ子の転生が嬉しくなって、情報をペラペラと喋っていたら、俺はとんでもない事を口走っていた。

 空気がサーーッと音を立てて凍る。

 どこからともなく、オッオッオッ! と聞こえてきた。

「オビッ! オビビッチ! オビオ、ビンビンモノガタリッ! オォォビィィオオオオ!!」

 途中のオビオびんびん物語ってなんだよ! 俺は神に誓って、やましい事はしていねぇって!

 赤ちゃんをダーレに預けたサーカのワンドが、雷を纏ってバチバチと鳴っている。これは【雷の手】ではなく、【雷撃】の魔法だ。下手すりゃ俺は、一瞬で灰と化して死す。死すーッ!

「ちょっ、待てよ!」

 俺は焦りから喉声になり、じりじりと後ずさった。

 マジで待ってほしい。 なんで俺が父親なんだ? は? え? は?
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