料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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神聖国モティ

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 モティの首都に入って感じたのは、不穏さと神聖さが同居するって事かな。

 周囲を谷に囲まれた丘のある土地に、荘厳な神殿が一つ。他は質素だが小綺麗な家々が立ち並ぶのみ。

 住人は静かで穏やか。今日も当たり前のように市場で買い物などをして、知り合いと談笑をしている。

「この場所だけを見れば、神聖国って自称するのも納得なんだがな」

 トウスさんは、首都モティに来る前に渡った、長い吊橋からの景色を思い出しているようだ。

「谷底にはボロ小屋が、ひしめき合っていたね。流石、神聖国! クキキッ!」

 ピーターは、この国の二面性に喜んでいる。こいつは相手が善人であればあるほど、粗を探して喜ぶ性質なのだ。

「彼らもいずれ救うさ。その為に我が教会はお金を必要とする」

 ウィングの言葉を聞いて、メリィがジト目をして睨んでいる。メリィのするジト目も可愛い。

「だったら今すぐにでも、谷底の貧民達を救ってあげたらいいんじゃないかなぁ? あんな立派な神殿を建てるお金があるのだものぉ。簡単だよねぇ?」

「お金を集めるのにも、権威が必要なのさ。みすぼらしい田舎娘が募金したところで、誰も寄付なんてしないだろう?」

 嫌味な奴だなぁ、ウィングは。みすぼらしい田舎娘とはメリィの事だ。それでも蘇生の祈りができる実力者だぞ?

「権威なんてバカバカしい。黙って善行を成せば、皆ついてくるもんだろうし、寄付金も集まるだろうぜ」

 人々の自発的な善と、混沌に近い自由を好むトウスさんが、メリィの肩を持った。

「甘いよ、白獅子さん。人ってのはこちらが黙っていると、何も気づかないものさ。そして善人が啓蒙してやらないと、何もかも忘れて、自己中心的になる。教育と道徳と信仰心を忘れた者は、あっという間に悪に傾く。悪人ってのは寄付金どころか、埃一つすらくれない。周囲から差別されて、パンの一切れも恵んでもらえなかった日々を忘れたのかい? 元不法移民さん」

「ぐぅ・・・」

 トウスさんは痛いところを突かれて黙った。その話はしたことがないのに、何でウィングは知ってんだ?

 かつてトウスさんは、獣人国レオンから樹族国にやって来た不法移民で、四人の我が子のためにパンを盗んだ事がある。

 しかし、お偉いさんであるシルビィ隊長のお陰で、罪に対する恩赦を貰えた上に、樹族国民として認められたのだ。

 過去の犯罪は、トウスさんの黒歴史。

 もしかしたら、焚き火を囲んで二人でその話をしている時に、ウィングが近くにいたのかも。なんだかんだ言って俺は忘れっぽい。

 一度聞いた事のある話でも、すっかり忘れて再度驚いたりもするからな。

 でもそれは、この星に来てからのような気がする。気のせいかもしれねぇけど。

「あの谷底には、誰が住んでいるの?」

 アーチ型に空いた壁の窓から谷底を見るムクは、俺の腕の中で不思議そうに尋ねた。

「あそこには近づかない事さ、ムクちゃん。暗い谷底には盗人、殺人犯、ならず者がいて、はてには暗殺者ギルドまである。一番恐ろしいのは、バガー兄弟というオークの暗殺者だよ。神殿騎士が、幾度も谷底の犯罪者達を一掃しようとしたけど、帰ってきたのは死体だけだったからね。我々も困っているのだよ」

 細目のウィングが目を見開いて、怪談でも語るように言うので、ムクが怯えて俺の胸に顔を向けた。

「バガー兄弟か・・・。一番戦いたくない相手だよなぁ。噂によると能力持ちらしいし。ただとんでもなく頭が悪いって聞いた事がある」

 流石盗賊。情報には聡い。

「実力値は高いのか?」

「英雄クラスだよ。オビオやトウスさんやメリィと同じ」

「じゃあ、対峙しても何とかなるんじゃね?」

「言っただろ? 能力持ちだって。しかも強力なものらしいぞ。誰もその能力を知らないのが、恐ろしいんだよ」

「まぁ、依頼料は破格だから、バトルコック団を狙うなんて事はないだろう。そこまでオビオに価値は無いからな」

 サーカめ。嬉しそうに言いやがって。

「それはどうかなぁ?」

 お? メリィさんが珍しく真剣な顔だ。

「どういう事?」

「だってさぁ、オビオってぇ、食事で味方の能力の底上げができるでしょぉ? それってぇ、とても凄いことだと思うんだけどなぁ~」

「ふむ・・・」

 ウィングが顎に手を添えて、俺を見ている。なんだよっ!

「味方になれば、大幅な戦力増強になるけど、敵になれば・・・」

「こんなに厄介な奴がもいねぇわな。そんな奴が、野良でブラブラと冒険者してんだからよ。誰だって取り入りたくはなるか。でなければ」

 トウスさんまで怖いこと言うなよ。

「馬鹿か、お前達。オビオは王国近衛兵騎士団独立部隊の管轄下にある。こいつの胸に、ウォール家の紋章が輝いている事を忘れたか?」

「となると、余計に厄介じゃねぇか」

 トウスさんは目を小さくした猫のような顔をする。

「ウォール家は王政派で、元老院と仲が悪い。で、樹族国の元老院は神聖国モティと仲が良い。バガー兄弟をよこしてもおかしくはねぇぞ」

「だったら、早々に送っていたさ。そもそも聖職者が暗殺者を送るなんて、馬鹿げた考えは止したまえ」

 ウィングは良くも悪くも、熱心な聖職者だな。信仰心と自分が所属するコミニュティへの信頼が揺るがない。

「まぁ、来たら来たでいいさ。俺が美味しく料理してやる!」

「そのって決め台詞、流行らそうとしてんのか?」

 ピーターが意地悪く言う。

「まぁ俺は料理人だしな。医者だったら、『オペしましょ!』って言ってかも」

「なにそれ?」

「なんでもない・・・」

「それに、オビオが料理してやるとか言った後って、結局何も出来なかった事が多いし、あまり言わないほうがいいぞ、それ」
 
 邪悪な顔をするでもなく、ニヤニヤするでもなく。真顔のピーターにそう言われて、俺の心が折れかけた。

「うるせぇ!」

 俺は腹立ち紛れに、亜空間ポケットから取り出したカマドウマをピーターにバラバラと投げつけた。

「カ、カマドウマ! いつまで持っているのだ! 捨てろ! 阿呆が!」

 くそ。サーカにまで怒られた・・・。
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