料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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メリィの怒り

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 なにやってんだ、あいつら・・・。

 城の中でそんな事すりゃあ、死刑もんだろ。いくら俺らが冒険者ランクSでも、多勢に無勢で負けるのは目に見えている。

 キリマルやビャクヤが加勢してくれるとは限らないんだぞ。

 当然、王の盾リューロック・ウォールの怒声が飛ぶ。

「貴様ら! 何をやっているのか、自覚をしているのか?」

 魔法の金棒――――通称、永久機関。

 無限のスタミナを与える金棒とそれを扱う王の盾の技量、そして押し寄せてくるだろう王国近衛兵の数を考えると、俺の背筋が寒くなった。

「控えおろぉー!」

 うん? 今のはメリィの言葉か? シュラス国王が言ったんじゃなくて? 助さん格さんが言うような「控えおろぉー」に一体どれだけの効果があるのか?

 しかし、効果は抜群だった。

「この件は修道騎士の管轄下にある! 神の名の下に! 如何なる者も邪魔はできない!」

 なんとか怒りを抑えて、メリィがそう言うと・・・。

 皆、ピタリと動きを止めた。その間に、メリィ達はどんどんと俺のいる場所まで進んできた。

「裏側は今まで何をやっていたんだ?」

 トウスさんが、拳を握りしめて唸るのを見て、シュラス国王が王の盾の後ろから顔だけを出す。

「どういう事じゃ? お前らは裁判には出ないと聞いていたが」

「俺たちは裁判に出るって言ったよ。でも王様には、俺たちが参加しないという返事が届いた。ここまで言えば、もう解るでしょ? 近衛兵の中に裏切り者がいるんだよ。おおかた、モティに大金を掴まされたんじゃないかなぁ?」

 ピーターが頭の後ろに両手をやって、「まぁ、よくある事だけど」と最後に付け足した。

 トウスさんに投げられて、法廷に転がっていた近衛兵が起き上がり、【透明化】の魔法を使って消え、大扉の外から中を覗いていたメイドが二人、その場から立ち去ろうとした。

 状況を察した王が、「追え」というと、傍聴席二階で壺に化けていた裏側たちが一斉に逃亡者を追った。

「何か問題があったようじゃの。すまんかった」

 一国の主が、冒険者ごときに簡単に謝った事に、王の盾は不満そうな顔をしたが黙って定位置に戻る。

 それにしても、そういう事か・・・。ステコさんが「な?」と言ったのは、裏で手を回してくれていたんだ。この人、裏側よりも優秀じゃないか。

 反王政派であり、元老院と手を組んでいるソラス・ワンドリッターが、王を手助けした息子を睨んでいる。しかし、ステコさんは、そんな親の視線など気にせず陰気な声で王の盾に言った。

「今回の件、リューロック殿や裏側の長ジュウゾにも責任がありますぞ。私がバトルコック団の意思を確認せねば、カクイは無罪になっていたところでしょうからな」

「うむ。よくやったソラス侯爵の息子、ステコ・ワンドリッター。リューロックとジュウゾは、後で叱りつけておく」

 王国近衛兵のステコではなく、ソラス侯爵の息子と呼んだのは、ワンドリッター家に華を持たせたる為の王の配慮だろう。

 王が褒めると、ソラスは王の盾と裏側の失態に満足して、ステコさんに陰気な笑みを浮かべていた。元老院にポイントを与えた息子を、さぞ誇らしく思っているのだろうさ。反目しあっててもな。

 大変だな、ステコさんも・・・。

 王と親の間で板挟みになっているステコさんの事を気にかけていると、モティの使者が手を上げた。

「言い訳があるなら言え」

 シュラス国王は冷たく言い放つ。

「こ、この騒ぎに・・・。我らは関係ありません。それに存在消しの短剣からも、証拠は出ておりませんし。更に証拠を探したいのであれば、オビオ殿の上位鑑定の指輪で、直接カクイ司祭の記憶を読み取れば良いのではないでしょうか? 司祭が愛弟子を消したのであれば、その記憶も残っているはずです」

「ふむ。視てくれるか? オビオ」

 以前に視たカクイは、教皇の指示に仕方なく従い、失敗を怯える一領主といった感じだった。しかも法の下の善人。とはいえ、悪法も法の内だからな・・・。

「はい、やってみます」

 俺はカクイの白ローブの肩に手を置いた。

 すぐさま胃液が込みげてきたが、それを何とか制して王へ報告する。

「カクイにはウィングの記憶があります・・・。ですが、ウィングに対し存在消しの短剣を使用していません・・・」

「ほうら!」

 それ見たことかと言わんばかりに、モティの使者が両手を広げて席を立ったので、王の盾が金棒を床に打ち付けて黙らせ、座らせる。

 荒い鼻息が俺の背後から聞こえてきた。メリィだ。

「ならば! 修道騎士である私達が見たあの光景は! 嘘だと言うのか!」

 こういった案件になると、王よりも修道騎士の方が立場が上になるのか、メリィの言葉遣いが尊大だ。

「メリィ・・・!」

 サーカがメリィを止めるように肩に手を置いたが、それを彼女は振り払った。

「確かに私はこの目で見た! カクイは、あの戦いを無かった事にするために! 道連れにしようとしたオビオと自分に! 存在消しの短剣を使おうとした!」

「メリィ!」

 サーカの、それ以上言うなという響きを含む声に、メリィは応じない。

「その短剣を! 【透明化】の魔法から現れたウィングが両の手で邪魔をして! カクイを生かし、オビオを守った事も、この目で・・・」

 そこまで言ってメリィは涙を零し黙った。

「そんな・・・」

 ウィングは俺を守って消えたのか・・・。最初こそ印象は悪かったが、共に冒険する内に、ウィングの優しさはに気づいていた。でも自己犠牲をしてまで、なんで俺なんかを庇ったんだ・・・。くそ!

「いけねぇなぁ・・・」

 ビャクヤの影からしわがれた声が、小さく聞こえてくる。

「存在消しの短剣は、この世にあってはならない物のはずなんだがよぉ。因果応報とはこの事か・・・。皮肉な事だぜ。オビオがQを守ったからこうなった。オビオの優しさが仇となったんだ。その優しさに感化されて、折角ピーターがQに止めを刺したにも関わらず、生き返らせたヒジリも悪いが・・・。存在消しの短剣を作る触媒は、Qが動く度に零れ落ちる垢のようなもんだ。樹族に転生したとはいえ、今も彼女はどこかで生きていて、触媒を落としまわっている・・・。デビルズアイで俺には司祭の秘密がわかっているんだが、言えないのはもどかしいねぇ」

「今は駄目ですよ、キリマルッ! その問題は全てが解決してからですッ!」

 キリマルとビャクヤはヒソヒソと何の話をしているんだ? まるでウィングを殺した原因が、俺にあるみたいな事を言っている。

 そんな話はどうでもいい。ウィングが俺を守ってくれたのは事実だ。

「ハァハァ・・・」

 もうダメだ。脚に力が入らねぇ。俺はその場にしゃがんで、精神的なショックを回復しようと試みたが、駄目だった。

「オビオ・・・」

 サーカが俺の背中を擦ってくれている。その優しさが今は辛い。ウィングの事を黙っていたのも、優しさからなんだろうけども・・・。

「証言だけではねぇ。確実なる証拠と証言で、人は裁かれるべきではないですか? これ以上の審問は無駄に時間を引き伸ばすのみです。ここいらで判決を下してはどうでしょうか? 陛下」

 モティの使者は俺をちらりと見下して、シュラス国王に提言した。

「ふむ・・・。では」

 シュラス国王がそう言いかけた時、メリィが額に血管を浮かせながら、なんらかのスキルを発動させた。凄まじい気迫と圧力が、その場に居た全員を襲う。

「拙き者の裁きなど! 必要はない! はあぁぁぁぁぁぁ!!」

 俺は焦点の定まらない目で、鬼のような顔をするメリィを、ただ見る事しかできなかった。

「王を守れ!」

 王の盾がそう叫ぶと、流石に緊急事態だと思ったのか、侯爵全員が立ち上がって、王の前に集まった。

 しかしメリィは、警戒する領主達を気にせず叫ぶ。

「信仰が揺らいで壊れる前に! 我は望む! 真実を知る為の! 神前審問を行うことを! 信仰せし運命の神よ! 現世に降臨して! 誰が罪人なのかを! 明確にせよ!」 

 メリィの暴風雨のような圧力は、テーブルの上のコップも、水差しも、書類も吹き飛ばしていく。

 彼女に触れてもいないのに、俺の右手の上位鑑定の指輪が共鳴して、情報が流れ込んでくる。どうしようもない程の感情の渦。

 最早、彼女の原動力は純然たる怒りだ。

 皆を欺くカクイ司祭と、姉と同じ目に遭ったウィングを助けられなかった自分への怒り――――。

 そしてこの怒りに神が応えなかった場合、彼女は暗黒騎士へと転身するだろう。それだけの覚悟が、上位鑑定の指輪を持つ俺にはわかった。
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