料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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出てこい ヤンス

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 天国にも地獄にも行けず、殆どの者から忘れ去られ、輪廻転生の輪からも外れる。

 完全なる無に帰すのだ。それがどれ程辛い事か。

 姉を失ったと聞いた時のメリィの絶望は、俺がウィングを失った時のそれ以上だ。

 ン? 強烈な感情の渦に乗って、他人のマナが俺の頭の中に流れ込んでくるぞ。

「お前たちに話す事がある」

 騎士であった父と没落貴族の母との間に生まれたメリアとメリィが、テーブルを挟んで対面し、父の言葉に耳を傾けている光景が、俺の頭に突然流れ込んできた。

「主様が領地を没収された」

 メリィの心に微かに動揺が走るのを感じる。

「どうしてぇ?」

 ここ数年内の出来事なのか、メリィはもう地走り族として成人しているように見える。

「封印していた吸魔鬼の復活を、長年放置していたからだ」

「じゃあ、お父さんはどうなるの?」

 姉のメリアはメリィによく似ている。違うのは話し方だけだ。

「主なしの騎士ということになるな。収入は期待できない」

「・・・」

 暫くの間、沈黙が流れる。メリィ達にはどうしようもない話だからだ。

「そう不安がるな。シオ様がお前たちの才能を見抜いて、騎士修道会に口利きをしておいてくれた。これからはお前たちは自分の力で生きていくのだ」

 シオ様ってのは、父親の元主なんだろうな。

「お父さんはどうするの?」

 メリアは地走り族として成人して何とか生きていける自分の事よりも、父の身を心配している。

「私は、シルビィ・ウォール様の依頼で任務に就く。これが上手くいけば、シルビィ様は城務めの騎士として登用して下さるそうだ。まぁ門番みたいなものだがな」

 そう笑う父の横で、青い顔をする母を見て何かを察したメリアは声を荒げる。

「どうせ、危険な任務なのでしょう!」

 そんな姉とは対象的に、窓から入り込む日差しの中で、ボンヤリしているメリィを見て父親はまた笑った。

「フフフ。・・・ああそうだ。お前は妹と違って頭も勘も良い。サヴェリフェ子爵の英雄オーガを殺したエリムス・ジブリットの話は知っているな?」

「うん」

「あの方は、何者かの呪いを受けて、ああいった行動に至ったのだ。その呪いを与えた者をシルビィ様が探しだした。私はその者の顔を知っている。厳重な魔法院から宝物を盗み出す程の力を持った魔人族の実力者だ。下手をすれば私は死ぬるだろう」

「そんな任務を・・・!」

 受けるなんて、とメリアは言いたかったようだが、口を噤んだ。

 このまま主なしの騎士を続けていれば、父親はいずれ騎士の身分を剥奪される。恐らくこれが最後のチャンスなのだろうと俺は思った。

「もし私が任務で命を落とした場合でも、お家お取り潰しは免れるよう、シルビィ様が手回しをして下さるそうだ。その際は、メリア。お前が騎士を名乗れ。例え修道女として修行をしていてもな。騎士として城務めをするのだ。その時は、自分の名を家名にしなさい。汚れた父の名字を名乗る必要はない」

「でもそれじゃあ、お家断絶と同じじゃないですか、お父さん! 嫌ですよ。私はモーリー家の名を名乗ります」

「地走り族の騎士はただでさえ、バカにされるのだ。更に汚れた名を名乗っては、お前が苦しむだけだ」

「いいえ、名乗ります!」

 栗色の髪をした父親は、銀髪の母親を見て笑う。

「メリアは、お前に似て頑固だ」

 その後、急に場面転換して、メリィとメリアはモーリー家で、両親と抱き合って喜んでいる姿が見えた。

 父親の任務が上手くいったんだ! 俺は嬉しくなった。 白昼夢のような幻の中でガッツポーズを取る。

 が、その幸せは長くは続かなかった。姉の消失に続いて、父の病死。そして母親の自殺・・・。

 メリィは最後のモーリー家の者なんだ。

 彼女がボンヤリしてても、どこ芯があったように見えたのは、こういった過去のせいか。くそ、涙が止まらねぇ。

 ちょっと前にメリィを視た時は、ここまで見えなかった。それは俺の実力不足や、彼女の心の闇の深さゆえだろう。

 また別の光景が浮かんできた。教会のステンドグラスから光が差し込んでいる。その光は、跪くメリィを照らしており、銀髪が輝き、神々しい。

 騎士修道会の聖女が見守る中、シルビィさんが、メリィの騎士叙任式を執り行っている。たった三人だけの騎士叙任式なんて寂し過ぎる。よく知らないけど、こういうのは大勢に祝福されてやるもんじゃないのか?

 メリィがモーリー家を名乗らなかったのも、暗い過去を振り返りたくないという意思があったのだろう。

「私は、城務めをしません。修道騎士として生きます」

 まっすぐと自分を見つめる彼女の瞳の中に、本気を感じたシルビィさんも黙って頷いている。

 亡き父の願いを聞き入れなかったのも、王の名の下でなく、神の名の下に正義を信じて行動をしたかったからだ。

 二度と姉と同じ境遇の者を生まないという使命感がヒシヒシと伝わってくる。

 そこで記憶の濁流は消えた。

「出てこねぇと、許さねぇぞ! ヤンスさん!」

 我に返っての第一声がこれだった。

 なんで俺はそんな事を口走った? ヤンスさんは優秀な吟遊詩人のゴブリン。この場に関係ねぇはずだ。

 ビャクヤの影の中で、キリマルが「クハハハ!」と笑った気がしたその時――――。

 広間の空中で、何かが弾けて光った。
 
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