料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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愛を頼りに

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 貪るように僕の平らな乳房を吸うオーガに、母性が湧くわけもなく、勿論、快楽もない。ただただ、痛いだけだった。

 乱暴に扱うゼッドのせいで、激しく振動する自身の頭の中で声が響く。

 ―――今は耐える時だと。

 いずれオビオが来てくれる。勘の良い彼の事だ。いよいよ僕がピンチになれば、きっと駆け付けてくれることだろう。彼がサーカ以外に向ける小さな愛だけを頼りにして、今は耐えるのだ。

 そして可能性を広げる為にも、ありとあらゆる手段を講じなければならない。神はきっと僕を見ている。

「!!」

 少しオーガの右手が緩んだような気がする。これは神が与えてくれたチャンスだ。

 汗でぬめるゼッドの手の中から、勢い良く手を引き抜こうとしたその時。

 オーガが着る、緑の長袖から蛇が飛び出してきた。

「くっ! 拘束の蛇!」

 あまり見かける事のないマジックアイテム、拘束の蛇は素早く僕の両手首を縛った。抗えば抗うほど、蛇は手首を締め付けてくる。用意のいいことだな。腹立たしいよ。

「君は常に、こんなアイテムを持っているのかい?」

 胸の痛みを忘れる為に、僕は野蛮なオーガに話しかける。

「そうだが? いつこういう状況になるかわからねぇだろう?」

 女を犯す事を前提で戦場に出てきているのか。略奪や強姦は数えきれないほどやってきたのだろうね。

「それにしても下手くそだな、君は。男相手でこれなら、女なんて抱いたことがないんじゃないか? 本当に女を知っているのかい?」

 東の大陸ではよくある名前の―――、ゼッドは小さく「ゲヒッ」と笑った。

「ああ、沢山の女を犯してきた。西の大陸のオーガはどうかは知らねぇが、東の大陸では侵攻した領地で何をしようがお咎め無しだからな」

 質実剛健な武人然とした見た目とは裏腹に、ゼッドは恐ろしい事を口走る。

「子供も犯したことがあるぜ?」

「貴様・・・」

 怒りで身が震えたが、挑発に乗っては駄目だと自分を諭し、心を静めた。

 周辺国の目や面子を気にして、裏で根回しをし、支配する樹族とは違って、東の大陸のオーガは直接的で野蛮だな。

「君に比べたら、西の大陸のオーガは実に紳士的だよ。彼らは純粋に強さを追い求めるからね。弱者に与えるのは、恐怖や苦痛じゃない。無関心だ。弱い者は空気と同じ。生きようが死のうが興味なし。とはいえ、弱者にとってそれは救いとなる事もある。生き延びて再びやり直す事が出来るのだからね」

「それで?」

 臭い息を近づけるゼッドの顔に感情は無い。彼から何かしらの感情を引き出せると思ったのに、そうはならなかった。自身の戦士としての挑発スキルの低さを恨んでいると、オーガの動きが止まった。何かを思い出しているようだ。

「どうやって子供を犯したか、知りたいか?」

「いいや、知りたくないね。遠慮しておくよ」

 断ったにも関わらず、彼は嬉々として子供を犯した話を続ける。どのみち話すつもりだったのだろう。

「まずは母親から犯した。確か犬人だったなぁ。クンクン鳴く可愛い雌犬だったぜ。アソコの締まりが悪かったからよぉ、首絞めたらコテンと死んだ。ディハハハ!」

「遠慮すると言ったはずだが?」

「で、子供だがな」

「やめろ!」

 くそ、コイツの方が人の感情を揺さぶるのが上手い。本職が戦士であるゼッドとサブが戦士の僕とでは、ここまで挑発スキルに差が出るのか・・・。

「これと同じ事がお前の村でも起こる」

「嘘だね。君たちは疫病を恐れているのだから」

 ゼッドの嘘で、心のざわつきが静かになる。時に人の嘘は、見破った者の頭を冷静にさせるのだ。

「ところがなぁ、俺は能力者なんだわ。地味だがありがたい能力。なんだかわかるか?」

 そこまで言えば、誰にでもわかるだろう。だが、嬉しくない正解を言う羽目になるね。もし、この話が本当なら、彼の能力は、病気の無効化か高い耐性。神はなぜ、こんな男に健康な体を与えたのか・・・。性病とも無縁だからこその強姦を重ねるのだろうね。

「察したようだな。嘘だと思うなら、【識別】を使ってもいいんだぜ?」

「へぇ。それならば、ぜひ識別魔法を使わせてもらいたいね」

「ディハハハ! おっと! そうはさせねぇ。魔法を使わせたら、お前は何をしてくるかわからねぇからな。まぁ信じなくてもいいぞ? お前を殺した後に、ゆっくりと村人を嬲り殺すからよ」

 咄嗟に長老の孫娘の顔が浮かんだ。

 自分のせいで、彼女はこのオーガに犯されて死ぬのだ。そう思うと、体の震えが止まらなくなってきた。

 自分が死ぬのはいい。いや、せっかく助けてくれたオビオの努力を無に帰すようで申し訳ないが、それでも誰かが死ぬよりかはいい。

「領主としての自覚が足りなかった・・・」

 そう小さく呟いて悔やむ。のこのこと敵地に赴いて、この様だ。僕は領主として失格といえるだろう。

 だが、諦めるな! 考えろ、ウィング。何か策があるはずだ。もっと考えろ! それが愚策だとしても、可能性を捨てるな!

 可能性を求めた結果が、これだ。と、悪魔の囁きが聞こえてくるが無視して思考を巡らせる。

 何よりも、このままあの昏睡状態の女の子が汚されるなんて許せない。魔法も動きも封じられた今、残る可能性は・・・。

「頼みがある」

「あ?」

「女になって君を存分に悦ばせるから、子供だけは無傷で逃がしてくれないか?」

「いいぜぇ?」

 即答。絶対に約束を守る気がない返事だ。だったら・・・。

「では君の信じる神に宣誓してくれ。そして約束の呪いを受けてくれないか?」

 途端にオーガの顔が曇る。

 この状況でそこまでのリスクを取る馬鹿はいない、か。

 約束の呪いとは―――、互いに同意した約束が反故にされた場合、約束を破った側が死ぬ強力な呪い。現状、ゼッドは僕が持ちかけた呪いの件を無視できるのだから、渋るのも当然だ。

「そんな呪いを受けると思うか? んぁ~・・・。ヒヒッ! 受けるんだな、これが。俺は性欲が人一倍強い。死を覚悟したお前の性技、どんなものか興味があるぜぇ? 森羅万象の神の名にかけて誓う。お前の村の子供には手出しをせず、逃がしてやる」

 その言葉を聞いて、安堵すると同時に涙が頬を伝った。相手は約束を守ったのだから、こちらも約束を果たさなければならない。好きでもない男に奉仕し、抱かれるのだ。僕の初めてはオビオがよかった・・・。

「早く女になれよ。もたもたすんな!」

 ゼッドは強引にローブを手首の所まで捲り上げた。そして黙って女体化する僕の体を見て、歓喜の声を上げる。

「うはぁ、どんどん艶めかしい体になっていくなぁ。益々興奮してきたぜぇ! もう我慢できない!! 頂きまーす!」

 そう言って僕の下着に手をかけたその時、二匹の青い蝶がどこからともなく飛んできた。昼間でも目立つほどに、青く光り輝く二匹の蝶は、辺り一面に神々しい鱗粉を振りまいている。

「ま、まさか・・・」

 やはり、神は僕を見捨てる事なんてしなかった! きっと彼だ! 彼が来てくれたんだ! 我が愛しい人が!

「ん? 誰だ、お前ぇ・・・」

 ザッザッザと土を勢いよく蹴って走ってくる音が、頭の方からする。

 ―――ドゴォ!

「ブゴッ!」

 僕に覆いかぶさるオーガの顔に、大きな拳がめりこみ、後方に飛んでいった。

「なにやってんだぁ! おまえぇ!!」

 彼は黒い癖毛を逆立てて、甘い顔を赤黒く染めていた。ここまで怒った彼を今まで見た事がない。あぁ、僕の為に! こんなにも怒ってくれるなんて!

 嬉しさのあまり鳥肌を立てながら、僕は力いっぱい彼の名を呼ぶ。

「オビオ!!」

「迎えに来るのが遅れて、ごめんな! ウィング!」

 確かにオビオの声だ! でも・・・。

 僕はこれが現実逃避の幻ではないかと疑った。可能性を信じ、願いが叶うと、人は途端に疑り深くなるのだろうか? どうも今は頭の中がふわふわしていて、夢を見ているような感覚に近い。

 それに、なぜか彼の全身が優しく金色に光っている。空から降り注ぐ薄明光線に、オビオは包まれているように見えるんだ。

 この現実味のなさに、心の奥底で疑念が生まれても仕方がないだろう?

「夢じゃ・・・、ないよね?」

 やはり僕はこれがまだ、現実だ、という認識ができないでいる。勿論、オビオが来てくれることは信じていたさ。でも、あまりにもタイミングが良すぎる。通信手段を絶たれたせいで、オビオとの繋がりはなかったはずだ。上手く僕のピンチを察知したとしても、カズン領からは一週間はかかる。そして、モティには強力な転移結界があり、魔法で飛んでくるのも困難。

 どうやって・・・。

 いや、オビオとはそういう男だ。自分の勘を信じて動く男。どうにかして、瞬時に移動してきたのだろう。神の眷属には、それができるのかもしれない。

 一度、目を閉じてもう一度開く。やっぱりオビオはそこにいる。肩を怒らせて、ゼッドの方を睨んでいた。

「どうか神様・・・」

 これが絶望の中で見た白昼夢ではないと仰ってください。
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