料理をしていたらいつの間にか歩くマジックアイテムになっていた

藤岡 フジオ

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横柄な収税吏の罠

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 領境いに並ぶ数多の神殿騎士を詰所の中から見て、ウィングは収税吏に皮肉を言う。

「実に物々しいですね。いっそこのまま行進して、村を焼き払ったらどうです?」

「これはこれは。神のしもべたる司祭様が、そんな物騒な事を言うものじゃありませんよ。それに遠慮せず言わせてもらいますが、病気が蔓延している村に、誰が行きたがるのです?」

 フードを目深に被った収税吏は、表情一つ見えない。が、不快感は伝わってくる。恐らくはこちらの健康状態を気にしているのだろう。自分が感染するのを恐れているのだ。

「支援を送ってくれなければ、税もこれだけしか払えませんよ」

 ウィングは金貨一枚を机の上に置いて、収税吏に差し出す。

「ええ! これぽっちですか? 司祭様は村人を癒しているのですよね? 住民には格安の治療費を約束しているとはいえ、流石に少なすぎますよ」

「知っているのでしょう? 村に流行る病に、祈りが効かない事を」

 収税吏の肩が微妙に揺れている。笑っているのだ。

「それは、司祭様の信心が足りないから、祈りが届かないのでは? そもそも星のオーガを信仰している時点で・・・。おっと、失礼!」

 神に差はない。悪神だろうが善神だろうが、他人が信仰する神を馬鹿にするのはご法度である。それをこの男は平気で破ったが、それで怒るほど狭量ではない。

「今のは聞かなかった事にしておきますよ。そんな事より、教皇様が我が領地を見放した件について何か知りませんか? 収税吏殿。どうも教皇様の与り知らぬところで、話が進んでいるように思えるのですが」

「さぁ。私はただの役人ですので」

「とはいえ、貴方は僧侶でもある。教皇庁内の話を聞いているでしょう?」

「その辺の事には疎い、という事にしておいてください。知りすぎると・・・、ねぇ? わかりますよね?」

 暖簾に腕押し。まぁ分かっていた事だが、いかなる可能性も捨てない星のオーガの信徒にとって、なんにでもトライするのは当然の行為である。

 これ以上ここにいるのは無意味。領境いの情報収集を兼ねて、税を払いに来たが収穫は少ない。

「こんなに神殿騎士を派遣して、野営も大変でしょうね。こんな辺鄙な村の為に莫大な税金を使って頂き、ありがとうございます。そのお金を村人の治療に使っていただければ、どんなに助かった事やら」

 そう皮肉を言って立ち去ろうとしたウィングの背後で、収税吏が急に悲鳴を上げた。

「うわぁぁ! 司祭様がご乱心なされた! 神殿騎士! 今すぐ、ここに!」

 驚いて振り返ってみると、収税吏が自身に【切り裂きの風】を唱えていた。切れたフードの隙間から、樹族にしては珍しく醜い男の顔が見える。男の口角は不穏な上がり方をしていた。

「なにを・・・」

 そう言いかけて、現状を理解したウィングはワンドではなく、腰のエペを抜いた。

 詰所に突入してきた神殿騎士の鎧の隙間をエペで突き、他の神殿騎士が躊躇している間に、突進して外に出る。

「僕に罪を被せるとは、いよいよ体裁を繕わなくなってきましたねぇ。そして自分の読みの甘さに辟易します。こうなる可能性も予測できたはずなのに」

 左手を天に向け、右手一本でエペを構える司祭の先に立つのを敵は避ける。ウィングは【竜巻】という珍しい魔法の使い手だからだ。

 神殿騎士が付きだしたハルバードを、背を反らして避け、間合いを詰めるとフルフェイスの隙間から目を突いた。

「イギャアアア!!」

 悲鳴は他の神殿騎士を怯えさせる効果があったようだ。誰もが警戒して、ウィングに攻撃を仕掛けようとしなくなった。が、それでも包囲されている事には変わりない。

「フフッ! 三文芝居、面白かったですよ。それにしても汚い手を使いますねぇ、収税吏殿? 誰の入れ知恵ですか?」

「月並みなセリフで申し訳ないのですが、これから死にゆく貴方に教えても意味はありません。ゼッドを前に!」

 どこにいたのか、大柄過ぎる戦士が足音で地響きを立てながら、神殿騎士を押しのけて前にやってきた。

「やっと俺の出番か」

 オーガの騎士か? 樹族国と違って、モティは有能であれば闇側種族も騎士として採用する。あくまで道具として合理的に利用するという意味でだ。

(オーガなら魔法に弱いはず。となると僕の方が有利だ。とはいえ、そう簡単に倒せる相手をモティが用意するわけもないな)

 ウィングはじっくりと大きな騎士を観察する。

 フルフェイスにプレートアーマーを着込んでいる。うっすらと赤い光を帯びているところを見ると、魔法の鎧で間違いない。魔法が通りにくい可能性は大きいだろう。

 そして、この手のタイプが好んで持つのが、こん棒かバトルハンマーだ。

 が、彼が二刀流で段平を持っているところを見ると、純粋なパワーファイターではないという事だ。

「東の大陸の侍でもあるまいに」

「ほぉ、よくわかったな。俺は東の大陸出身だ」

「東の大陸のオーガは、小賢しい輩が多いと聞きますからね。そういった小手先の技が好きなのも頷けますよ」

「なに、サブが侍なだけだ。二刀流獲得の為にな」

「単純な攻撃力の底上げですか、浅はかですね」

「なぁ、いつまでもくっちゃべってないで、死合おうぜ」

 ブロードソードの攻撃が時間差で二段、ウィングのいる場所を狙う。しかし、その攻撃は当たらない。

「残念ですね、ゼッド殿。僕は風属性なんです。回避率は高いですよ?」

「ハ! 何が残念なものか」

 ゼッドは剣で砂を巻き上げて、ウィングの顔にぶつける。

「うっ!」

 一瞬視界を遮られたが、オーガの剛腕から振り下ろされる剣圧を察知して、後ろに飛び退いた。地面を叩く音が二回、辺りに響き渡る。

「惜しい!」

 舌打ちをするゼッドの横薙ぎ二回を、これまた躱してウィングはエペに魔力を込める。魔力はエペに沿って螺旋を描いて、剣先で突然巨大化した。

「切り裂き、巻き上げろ! 【竜巻】!」

 パワーレベルを最大に上げた魔法は、砂埃で視界を遮断しつつも、周囲の神殿騎士を巻き込んでいく。

 小さな災害と言ってもいい程の竜巻の中で、ぐるぐる巻き上げられる神殿騎士の悲鳴がパンニングして、どことなく奇妙な状況だ。

 砂塵の中、ガシャンガシャンと鎧の音を立てて落下していく神殿騎士ではなく、ウィングは大きな影を探した。

「どこだ・・・」

 晴れていく砂煙の中に、大きな影を見つける。

「いた!」

 心の中で、ゼッドのズタボロになった姿を想像し、彼は予想通りそのようになっていた。下手に魔法に抵抗しようとした為に、竜巻は魔法のフルプレートを大破させ、むき出しになった彼の浅黒い肌は血に染まっていた。

 全身の切り傷から出血をしているのだ。失血死してもおかしくない。それでもしっかりと地面に踏ん張って立っている姿に、ウィングは警戒する。

(動いた!)

 ゼッドはまだ戦意を失っていないどころか、体力も残っていた。地面に突き刺していた剣の柄を素早く握ろうとしている。

「そうはさせない! 絡みつけ! 【蔓草】!」

 阻害系土魔法の蔓が、地面からあっという間に伸びて、ゼッドの剣を取り込み、固定してしまった。

 得物を持たない戦士に勝機はない、と油断したその時、ミノタウロスのような太い腕がウィングの鳩尾にめり込んだ。

「一流の戦士ってのは、格闘術にも優れているもんだ。モンクほどではないがな」

 一足で詰めれる距離ではなかったのに、とウィングは胃液を吐きながら、視界が揺らぐ中思う。無駄に太いオーガの脚はそれなりの働きをするという事か。

「残念だったな、司祭様。ところで収税吏殿。この男を好きなように、なぶり殺しにしてもいいんだよな?」

 鼻の低いオーガは、ウィングの両手を片手で掴んで持ち上げると、下品な笑みを浮かべて収税吏に視線を送る。

「オーガの好色にも困ったものですね。ちゃんと止めを刺すのですよ。念のため司祭の武器とワンドは没収しておきますが、油断しないでください。あと見苦しいので我らの見えないところでどうぞ」

「そんなヘマするかよ。はぁ、それにしても、綺麗な顔してんな、兄ちゃん。知ってるぜ? あんた、女になれるんだろ?」

 ゼッドは無造作にウィングの白いローブをたくし上げた。白い肌が露わになる。

「まぁ、今でも女みたいに細いけどな」

 そう言ってゼッドはウィングの薄桜色の乳首を軽く噛んだ。

 できるならば、こういう事はオビオとしたかったと悔やみ、不快感に鳥肌が立て、ウィングは喚く。

「クッ! 気持ちの悪い。殺すなら早くしろ!」

 しかし、ゼッドはそんな気は更々ないといった顔で、自分の低い鼻先を長い舌で舐めた。

「なぁ、司祭様。けつ穴掘られて痛みの中で死ぬか、女の快楽の中で死ぬか、選べよ」
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