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結婚式
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「えー、本日はお日柄も良く・・・」
転生したら俺は社交界で無双する、という小説が書けそうなガノダさんも、結婚式となると緊張はするようだ。いつものように貴族の間を縫うようにして歩き、冗談を言って笑わせるのとは、わけが違うのだから。
「ええい! 煩わしい。さっさと乾杯の音頭をとれ、ガノダ!」
息子は如何にも貴族って感じなのに、その父親ときたら豪放磊落。
樹族の騎士(魔法剣士に近い)というジョブだが、筋骨隆々でほぼ戦士に近い隻眼のムダンさんは、すでにワインで酔っていた。乾杯の音頭をとるまでもないな。
「ムダン侯爵、飲み過ぎですよ」
俺が忠告するも、お構いなしでゴブレットを差し出してくる。ワインを注げという事だ。まぁ、注ぐけども。
「今日は祝いの日。無礼講だ! ワシを侯爵と呼ぶな。アルケディアの闘技場で出会った時のように、さん付けでよい。いや、なんならダンでも構わんぞ。ガッハッハ!!」
そう言うとムダンさんは、食べやすく剥き身にしたジャイアントクラブの腕にかぶりついた。
「上手い! 味付けは塩だけなのに、この美味さ! 流石は樹族国一の料理人!」
「素材が良いだけですよ。式前に村を襲撃してきたジャイアントクラブをサーカが【業火】で仕留めたので、これはいいと思って料理に出してみました。カニは鮮度が命です!」
そう。体高二メートルほどの、大きなハサミを持つ蟹が、庭の会場の料理の匂いに誘われて現れたのだ。それを見たサーカが、ドレス姿のまま【業火】を放って丸焼きにした。この蟹を使わない手はない。
「うむ、ワインがすすむわい!」
凡そ、貴族らしくない飲み方で、ゴブレットを空にするムダンさんは、また俺にワインを注げと催促した。
駄目だ、このオッサン。完全に舞い上がっている。そんなに三男坊の結婚が嬉しかったのか。
「えー、父上の言葉を尊重し、細かいことは抜きで、かんぱーい!」
面倒くさくなったのか、ガノダさんもゴチャゴチャ言うのを止めて、乾杯の音頭をとった。
「かんぱーい!」
様々な乾杯の声が会場を満たす。とはいえ、既に酔っている人が殆ど。
ついでに会場を見渡して、料理が足らないテーブルはないかと確認して、何となく主役の二人を眺める。
「ん?」
ガノダさんの横で、人形のように立っているシニシさんが、微かに微笑んでいるように見えた。
おかしいな、と俺は感覚を研ぎ澄ませてみる。因みに俺は元々感覚型地球人な上に上位鑑定指輪のお陰で、ある程度、精霊の気配が読める。
がやがやと煩い式場の中で、あの禍々しさと混乱を発する―――、はずの狂気の精霊の気配が弱まっていくのを感じた。そのせいか、彼女の笑い方は実に自然だ。
「なぁ、サーカ」
俺は隣でステコさんにワインを注ぐサーカに、声をかけてみた。
「なに?」
「お前のお母さん、ちょっと笑ってないか?」
サーカはじっと自分の母親を見るも、素っ気ない返事が返ってきた。
「気のせいだろう。変な期待をさせるな」
そうかな~。俺には微笑んでいるように見えるんだがなぁ。あぁ! あれか、能面の角度によって表情が変わる的なやつ?
「オビオ殿、そこのビシソワーズを取ってくれたまえ」
当たり前だが、忙しい中、考え込む暇をもらえるわけがない。俺は小さなボウルに冷製ジャガイモスープを注ぎ、ステコさんに渡した。
「ほう、これはかなり美味いな。私には式場の熱気は少々暑い。ひんやりしたスープはありがたいな。濃厚なのに後味が爽やかだ。上に乗っているパセリのみじん切りだけでは、この爽やかさを出せまい」
「そうでしょう。ヒジランドにいた時に、霊山オゴソの湧き水を汲んでおいたんです。それをスープに入れました」
「なに? そんな貴重な水を?! 道理でマナの回復量が凄まじいわけだ」
おいおい、これまでに一体どんだけ魔法を使ったら、そこまでマナが枯渇するんだ?
そういうや、昨晩、ステコさんは馬で屋敷まで来ていたな。
前日入りしたのは、何もステコさんだけじゃない。ここには、貴族の奥方様や若い娘もいる。
なるほどね、そういう事か。スタミナを強化する魔法でも使ったか。モテる男は辛いね。ぱっと見、緑ロン毛のインキャな雰囲気があるのにさぁ・・・。まぁよく言えば、陰のあるハンサムってとこか。
ん? なんだ? ステコさんがビシソワーズをスプーンで掬って飲みながら、急に涙を流し始めたぞ。
「どうしたんですか? ステコさん。料理に変なものでも入ってましたか?」
「いや、そうではない。すまんな、無様な泣き顔を見せてしまって。あれが結婚できるとは思わなくてな。嬉し泣きなのだ」
「そういえば、社交的なガノダさんに、これまで浮いた話が無かったのは不思議ですね」
「うむ。ガノダは三男坊で恰幅が良いとはいえ、社交界では一流の振る舞いをするので、貴族の父兄からは常に人気でな。縁談の話で引手数多だった。だが、奴は股間に強烈なコンプレックスを抱えていてな」
「股間に? そういえば、キリマルも似たような事言っていたなぁ。なんなの? キリマル」
俺はステコの横で、樹族の姿をして食事をするキリマルに事情を聞いてみた。キリマルの話は基本的にちゃんと聞いていないので。
「あぁ、奴はワンドリッター家で、いざこざを起こした時に、股間を切り取られたんだ。しかもそれを、料理にしてシルビィの前に出されたんだからよ、トラウマにもなるだろうさ。クハハ!」
クハハ、じゃねぇよ。何、恐ろしい話を楽し気に話してんだよ! 丁度狙ったかのように、ソーセージに勢いよく齧り付いているしさぁ。
「それってシルビィさんも、トラウマでしょうに」
仕事の都合で式を欠席したシルビィさんを不憫に思う。
「あれが、そんな性分と思うかね? 一々四十年前の事なぞ、気にはしないだろう。まぁ本人に聞かなきゃ分からんが」
ステコさんは、泣くのを止めて、大笑いしだした。そのさまを遠巻きに見ている婦人たちから黄色い声が飛ぶ。彼が豪快に笑うってのは、相当珍しい事なのだろう。
「なんて話をしているのだ、レディの前で」
サーカは眉根を寄せて、俺や下品な話をして笑うオッサンたちを睨んだ。
「おっと、失礼。本日の主役である花嫁の―――、その娘の前で下品だったかな。まぁ、事実は事実なのでね。だから、奴は結婚しないと思っていたのだが、ムダン侯爵の命令とはいえ、よくぞ婿養子になると決断したな、と感心していたのだ」
なるほど、そう言う事か。
「見ろ、我が息子を。元々自分勝手な性格だったが、今では健気だ」
急にムダンさんが大声を上げて、自慢げに息子を指さす。
席に着いたガノダさんは、同じく席に着いたシニシさんに、水を飲ませているところだ。
そんな二人を見て、ステコさんは、笑うのを止めてハンカチで目元を拭う。
「ガノダは例の一件以降、コンプレックスを抱える代わりに、障がい者にだけは優しくなりましたよ」
「ほう、それは知らなかった。あれにも自分の利益の関わらない部分で、他人に優しくなれる一面があったとはな。流石はステコ殿。遠くの父親より、近くの親友といったところか」
そう言われて、ステコさんは急に畏まった。まるで今まで言いそびれていた言葉を、口から紡ぎ出そうとしているようだ。
「いつぞやは、私の兄が、ガノダに申し訳ないことをしました」
「何を言う。今更文句は言うまい。ワンドリッターの次兄も、その件で命を落としたのだ。ケジメはついておる。今後も息子を宜しく頼むぞ」
ムダンさんは、周りの目を気にする事なく、政敵であるワンドリッターの息子に頭を下げた。当然、会場にいる他の貴族たちが目を丸くして驚いたのは言うまでもない。
「お止めください、ムダン侯爵。いくら私と父親が不仲とは言え、我らは敵対している間柄ですぞ。ささっ、頭を上げてください」
ステコさんも、驚いて立ち上がり、ムダンさんに近寄ると肩を抱いて、頭を上げるよう促した。
「おお! これは、ムダン家とワンドリッター家の雪解けも間近だな」
ん~。そんな事はないと思うぞ、名も知らぬ貴族のおっさん。
「そうですわね。なんだか、私も気分が和やかになりましたわぁ」
隣の奥さんの気持ちも、わからんでもないが。
ステコさんとムダンさんの尊いやり取りが、式場の雰囲気をより良くしたのは、素晴らしい事だけど、ソラス・ワンドリッターとムダンさんの仲は悪いままだろう。
「ガハハ! ガノダは素晴らしい盟友を持ったものだ! あぁ、良い気分じゃ。おい! ガノダ! 花嫁とキスでもしたらどうだ!」
この星の結婚式全体がそうなのかは知らないけど、どうもここいらの地域では、結婚の誓い等をしないっぽい。大体が親しい者や関係者が集まって宴会をして終わり。結婚という契約やキスは個人的なものと考えられているようだ。
「父上の指図でキスをするのは、なんだか腹が立ちますなぁ」
「煩い、やれ。この式場の親御さんたちも新郎新婦のキスを見て、若き日を思い出したいものでしょう? どうですかな?」
するとキリマルが突然コールしだした。
「キースス、キスス♪ キースス、キスス♪ キースス、キスス♪ アンッ、アハアハ♪」
お前、素面でよくそこまで出来るな。基本的に酒を飲まない(油断が生じるから)くせに、悪ふざけは躊躇なくやりやがる。なんだ、その奇妙な節を付けたキスコールはよっ!
「ほら、旧友のキリベルも、二人のキスを御所望だ。やれ」
「キリマルな」
お! 俺以外で名前ネタツッコミすんの初めて見た。ビチビチと呼ばれていた頃が懐かしいなぁ。
「じゃあ、するけど、妻がキスをした途端に発狂しても、ドン引きしないでくださいよ。皆様」
「せんせん。そうなったら、お前が介護すればいい」
「なんて無責任な父親だ。まぁ最近は具合が良いみたいだから、大丈夫だと思うけど。それでは初めてのキス、イキマース!!」
初めてだったんだ。カズン領に来て数週間経つから、シニシさんとキスぐらいはしているのかと思ったけど。きっと介護をメイドにやらせず、自分の手でやっていたから、そんな暇がなかったのだろう。
というわけで、ガノダさんは顔を真っ赤にして、シニシさんを自分の方へ向けると、軽く唇にキスをした。
転生したら俺は社交界で無双する、という小説が書けそうなガノダさんも、結婚式となると緊張はするようだ。いつものように貴族の間を縫うようにして歩き、冗談を言って笑わせるのとは、わけが違うのだから。
「ええい! 煩わしい。さっさと乾杯の音頭をとれ、ガノダ!」
息子は如何にも貴族って感じなのに、その父親ときたら豪放磊落。
樹族の騎士(魔法剣士に近い)というジョブだが、筋骨隆々でほぼ戦士に近い隻眼のムダンさんは、すでにワインで酔っていた。乾杯の音頭をとるまでもないな。
「ムダン侯爵、飲み過ぎですよ」
俺が忠告するも、お構いなしでゴブレットを差し出してくる。ワインを注げという事だ。まぁ、注ぐけども。
「今日は祝いの日。無礼講だ! ワシを侯爵と呼ぶな。アルケディアの闘技場で出会った時のように、さん付けでよい。いや、なんならダンでも構わんぞ。ガッハッハ!!」
そう言うとムダンさんは、食べやすく剥き身にしたジャイアントクラブの腕にかぶりついた。
「上手い! 味付けは塩だけなのに、この美味さ! 流石は樹族国一の料理人!」
「素材が良いだけですよ。式前に村を襲撃してきたジャイアントクラブをサーカが【業火】で仕留めたので、これはいいと思って料理に出してみました。カニは鮮度が命です!」
そう。体高二メートルほどの、大きなハサミを持つ蟹が、庭の会場の料理の匂いに誘われて現れたのだ。それを見たサーカが、ドレス姿のまま【業火】を放って丸焼きにした。この蟹を使わない手はない。
「うむ、ワインがすすむわい!」
凡そ、貴族らしくない飲み方で、ゴブレットを空にするムダンさんは、また俺にワインを注げと催促した。
駄目だ、このオッサン。完全に舞い上がっている。そんなに三男坊の結婚が嬉しかったのか。
「えー、父上の言葉を尊重し、細かいことは抜きで、かんぱーい!」
面倒くさくなったのか、ガノダさんもゴチャゴチャ言うのを止めて、乾杯の音頭をとった。
「かんぱーい!」
様々な乾杯の声が会場を満たす。とはいえ、既に酔っている人が殆ど。
ついでに会場を見渡して、料理が足らないテーブルはないかと確認して、何となく主役の二人を眺める。
「ん?」
ガノダさんの横で、人形のように立っているシニシさんが、微かに微笑んでいるように見えた。
おかしいな、と俺は感覚を研ぎ澄ませてみる。因みに俺は元々感覚型地球人な上に上位鑑定指輪のお陰で、ある程度、精霊の気配が読める。
がやがやと煩い式場の中で、あの禍々しさと混乱を発する―――、はずの狂気の精霊の気配が弱まっていくのを感じた。そのせいか、彼女の笑い方は実に自然だ。
「なぁ、サーカ」
俺は隣でステコさんにワインを注ぐサーカに、声をかけてみた。
「なに?」
「お前のお母さん、ちょっと笑ってないか?」
サーカはじっと自分の母親を見るも、素っ気ない返事が返ってきた。
「気のせいだろう。変な期待をさせるな」
そうかな~。俺には微笑んでいるように見えるんだがなぁ。あぁ! あれか、能面の角度によって表情が変わる的なやつ?
「オビオ殿、そこのビシソワーズを取ってくれたまえ」
当たり前だが、忙しい中、考え込む暇をもらえるわけがない。俺は小さなボウルに冷製ジャガイモスープを注ぎ、ステコさんに渡した。
「ほう、これはかなり美味いな。私には式場の熱気は少々暑い。ひんやりしたスープはありがたいな。濃厚なのに後味が爽やかだ。上に乗っているパセリのみじん切りだけでは、この爽やかさを出せまい」
「そうでしょう。ヒジランドにいた時に、霊山オゴソの湧き水を汲んでおいたんです。それをスープに入れました」
「なに? そんな貴重な水を?! 道理でマナの回復量が凄まじいわけだ」
おいおい、これまでに一体どんだけ魔法を使ったら、そこまでマナが枯渇するんだ?
そういうや、昨晩、ステコさんは馬で屋敷まで来ていたな。
前日入りしたのは、何もステコさんだけじゃない。ここには、貴族の奥方様や若い娘もいる。
なるほどね、そういう事か。スタミナを強化する魔法でも使ったか。モテる男は辛いね。ぱっと見、緑ロン毛のインキャな雰囲気があるのにさぁ・・・。まぁよく言えば、陰のあるハンサムってとこか。
ん? なんだ? ステコさんがビシソワーズをスプーンで掬って飲みながら、急に涙を流し始めたぞ。
「どうしたんですか? ステコさん。料理に変なものでも入ってましたか?」
「いや、そうではない。すまんな、無様な泣き顔を見せてしまって。あれが結婚できるとは思わなくてな。嬉し泣きなのだ」
「そういえば、社交的なガノダさんに、これまで浮いた話が無かったのは不思議ですね」
「うむ。ガノダは三男坊で恰幅が良いとはいえ、社交界では一流の振る舞いをするので、貴族の父兄からは常に人気でな。縁談の話で引手数多だった。だが、奴は股間に強烈なコンプレックスを抱えていてな」
「股間に? そういえば、キリマルも似たような事言っていたなぁ。なんなの? キリマル」
俺はステコの横で、樹族の姿をして食事をするキリマルに事情を聞いてみた。キリマルの話は基本的にちゃんと聞いていないので。
「あぁ、奴はワンドリッター家で、いざこざを起こした時に、股間を切り取られたんだ。しかもそれを、料理にしてシルビィの前に出されたんだからよ、トラウマにもなるだろうさ。クハハ!」
クハハ、じゃねぇよ。何、恐ろしい話を楽し気に話してんだよ! 丁度狙ったかのように、ソーセージに勢いよく齧り付いているしさぁ。
「それってシルビィさんも、トラウマでしょうに」
仕事の都合で式を欠席したシルビィさんを不憫に思う。
「あれが、そんな性分と思うかね? 一々四十年前の事なぞ、気にはしないだろう。まぁ本人に聞かなきゃ分からんが」
ステコさんは、泣くのを止めて、大笑いしだした。そのさまを遠巻きに見ている婦人たちから黄色い声が飛ぶ。彼が豪快に笑うってのは、相当珍しい事なのだろう。
「なんて話をしているのだ、レディの前で」
サーカは眉根を寄せて、俺や下品な話をして笑うオッサンたちを睨んだ。
「おっと、失礼。本日の主役である花嫁の―――、その娘の前で下品だったかな。まぁ、事実は事実なのでね。だから、奴は結婚しないと思っていたのだが、ムダン侯爵の命令とはいえ、よくぞ婿養子になると決断したな、と感心していたのだ」
なるほど、そう言う事か。
「見ろ、我が息子を。元々自分勝手な性格だったが、今では健気だ」
急にムダンさんが大声を上げて、自慢げに息子を指さす。
席に着いたガノダさんは、同じく席に着いたシニシさんに、水を飲ませているところだ。
そんな二人を見て、ステコさんは、笑うのを止めてハンカチで目元を拭う。
「ガノダは例の一件以降、コンプレックスを抱える代わりに、障がい者にだけは優しくなりましたよ」
「ほう、それは知らなかった。あれにも自分の利益の関わらない部分で、他人に優しくなれる一面があったとはな。流石はステコ殿。遠くの父親より、近くの親友といったところか」
そう言われて、ステコさんは急に畏まった。まるで今まで言いそびれていた言葉を、口から紡ぎ出そうとしているようだ。
「いつぞやは、私の兄が、ガノダに申し訳ないことをしました」
「何を言う。今更文句は言うまい。ワンドリッターの次兄も、その件で命を落としたのだ。ケジメはついておる。今後も息子を宜しく頼むぞ」
ムダンさんは、周りの目を気にする事なく、政敵であるワンドリッターの息子に頭を下げた。当然、会場にいる他の貴族たちが目を丸くして驚いたのは言うまでもない。
「お止めください、ムダン侯爵。いくら私と父親が不仲とは言え、我らは敵対している間柄ですぞ。ささっ、頭を上げてください」
ステコさんも、驚いて立ち上がり、ムダンさんに近寄ると肩を抱いて、頭を上げるよう促した。
「おお! これは、ムダン家とワンドリッター家の雪解けも間近だな」
ん~。そんな事はないと思うぞ、名も知らぬ貴族のおっさん。
「そうですわね。なんだか、私も気分が和やかになりましたわぁ」
隣の奥さんの気持ちも、わからんでもないが。
ステコさんとムダンさんの尊いやり取りが、式場の雰囲気をより良くしたのは、素晴らしい事だけど、ソラス・ワンドリッターとムダンさんの仲は悪いままだろう。
「ガハハ! ガノダは素晴らしい盟友を持ったものだ! あぁ、良い気分じゃ。おい! ガノダ! 花嫁とキスでもしたらどうだ!」
この星の結婚式全体がそうなのかは知らないけど、どうもここいらの地域では、結婚の誓い等をしないっぽい。大体が親しい者や関係者が集まって宴会をして終わり。結婚という契約やキスは個人的なものと考えられているようだ。
「父上の指図でキスをするのは、なんだか腹が立ちますなぁ」
「煩い、やれ。この式場の親御さんたちも新郎新婦のキスを見て、若き日を思い出したいものでしょう? どうですかな?」
するとキリマルが突然コールしだした。
「キースス、キスス♪ キースス、キスス♪ キースス、キスス♪ アンッ、アハアハ♪」
お前、素面でよくそこまで出来るな。基本的に酒を飲まない(油断が生じるから)くせに、悪ふざけは躊躇なくやりやがる。なんだ、その奇妙な節を付けたキスコールはよっ!
「ほら、旧友のキリベルも、二人のキスを御所望だ。やれ」
「キリマルな」
お! 俺以外で名前ネタツッコミすんの初めて見た。ビチビチと呼ばれていた頃が懐かしいなぁ。
「じゃあ、するけど、妻がキスをした途端に発狂しても、ドン引きしないでくださいよ。皆様」
「せんせん。そうなったら、お前が介護すればいい」
「なんて無責任な父親だ。まぁ最近は具合が良いみたいだから、大丈夫だと思うけど。それでは初めてのキス、イキマース!!」
初めてだったんだ。カズン領に来て数週間経つから、シニシさんとキスぐらいはしているのかと思ったけど。きっと介護をメイドにやらせず、自分の手でやっていたから、そんな暇がなかったのだろう。
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