この国では魔力を譲渡できる

ととせ

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 シエラがシャーリに魔力を譲渡してから、二人の立場は逆転した。

『いいか、シエラ。これは俺達三人だけの秘密だ。ローベル王家の命令だぞ』

 そうロルフから念を押されてしまえば、シエラは何も言い返す事ができなかった。

 学園でシエラは魔法実技は全て「病気で力が使えない」で押し通すしかなく、そんなシエラに周囲は次第に「本当は彼女が庶子なのでは」という疑惑の目を向けるようになっていった。
 貴族の子女達が集うお茶会に呼ばれることもなくなり、夜会の招待状も王家が主催するものしか届かなくなった。

 てっきりロルフが庇ってくれるかと思いきや、彼は実技に出られないシエラを無視し、聞こえよがしに「出来損ない」と罵る有様だ。

 招待された夜会には全てシャーリを伴い、まるで婚約者のように扱っていると数少ない友人が憤りながらシエラに教えてくれた。けれど家でも外でも味方が皆無に近いシエラには、どうすることもできない。

 シャーリはといえば、入学直後から魔力を好き勝手に使い早速問題児として注目を集めてしまう。
 彼女の使う魔法は花を咲かせたり、身につけている宝石を輝かせたりといった他愛ないものばかり。
 だからといって無闇に使って良いものではないと、教師から再三注意を受けていたのをシエラも目撃している。

 それに対して怒り狂ったのは、何故かロルフだった。

 業を煮やした校長が直接シャーリに苦言を呈したことを「俺の大切なシャーリを傷つけた罪」と糾弾し、その場で解任したのである。
 校長解任は生徒の親たちに衝撃を与えたが、以前から厳しすぎると噂があったこともありいつの間にか有耶無耶になってしまった。
 何よりシャーリの使う遊びのような魔法を「次に無断使用したら退学」と宣告したことも、校長への逆風となった。

***

(色々あったけれど、それも今日でおしまい)

 明日の準備をしていたシエラは、はあ、とらしくなくため息を吐く。
 卒業をしたら、自分はロルフと結婚するのだ。
 既に彼に対して愛も情もない。おそらくそれは彼も同じ事だから、責めるつもりもなかった。

(既に離宮は完成してると聞いてるから、そこにシャーリが住むのかしら? いえ、私かもしれないわね)

 ロルフとシャーリーが恋仲というのは周知の事実となっている。
 誰もが認めるお似合いの恋人。そしてシエラはといえば、二人の恋路を邪魔する名ばかりの公爵令嬢。
 今シエラの味方をしてくれるのは、幼い頃から一緒に淑女教育を受けた友人の数名だけ。
 その彼女たちにも「婚約や社交に障りがあっては申し訳ない」と説明して、表向きは接触を断っていた。

 父は毎晩のように何処かへ出かけては、明け方に酔っ払って帰ってくる。
 継母は社交に精を出し、今では公爵夫人気取りで振る舞っている。ここ数年は、市井で見つけた顔の良い役者や詩人のパトロンとなって、彼らを伴い夜会へと出かけていく。

 双方に愛がないのは明白だが、父は社交という面倒ごとを継母に押し付けているのでそれなりに利害は一致して上手くいっているようだ。
 きっと自分もロルフと結婚すれば、形だけとはいえ夫婦として振る舞ってくれるだろう。エスコートもなしで夜会へ赴き、踊ることもなく密やかに帰宅する事もなくなる筈だ。

「これ以上、悪くなる事なんてないわ」

 自分に言い聞かせるようにシエラは鏡に映る自分に声をかける。

「お嬢様、お客様がお見えになりました。王家直属の騎士の方だそうですが、いかがしましょう?」

 扉の向こうから困惑した様子の侍女の声が聞こえる。
 本来であれば父が対応するのだけれど、今日はまだ帰宅していない。というかここ数日は馴染みの娼館に入り浸っていると、執事から報告が上がっている。

「客間にお通しして。着替えたらすぐに行きます」

 シエラはそう支持すると、侍女を数人呼んで急ぎ身支度を調える。爵位は父に取られたが、女主人として恥ずかしくない装いに身を包むと階段を下りて客間へと向かう。

「お待たせして申し訳ございません。生憎父は不在ですので、私シエラがお話しを伺います」

 待っていたのは王家の騎士服に身を包んだ一人の青年だった。歳はシエラの少し上くらいだが、年齢よりずっと落ちついた雰囲気の持ち主だ。

「突然の訪問をお許しくださり、感謝いたします。王家直属の騎士団から派遣されましたフランツと申します。平民への魔力譲渡の件に関して、シエラ嬢に話を伺いたいのですが……」

 貴族同士の魔力譲渡は双方の合意だけですむ。しかし平民に譲渡する場合は、見届け人が必要となる。
 シエラとシャーリの場合は、ロルフが実質見届け人の立場だが彼は譲渡自体を否定する筈だ。
 何故なら認めてしまえば、シャーリが平民である事が公になってしまう。

「証拠は揃っています。庇い立てせず正直に話していただきたい」

 彼の言葉にシエラはあきらめ顔で静かに頷いた。
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