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「お姉様。はやく魔力をちょうだい!」
既にシエラは貴族学園の試験を終えている。小等部までは魔力に関する授業は座学だけなので、庶子でも通うことは許されている。
しかし中等部からは実技が加わるので、入学試験という形で魔力量を測るのだ。けれどシャーリは「具合が悪い」と言ってその試験を延ばし延ばしにしてきた。
そして今日のお茶会では、最後にクラス分けの発表もされる。
つまりそれまでに魔力量を測れなければ、シャーリは貴族学院に入学できないどころか「貴族だ」という嘘がバレてしまう。
「早くしろ! シャーリは病で魔力を失ったのだろう? だったらお前も学園では病気を理由に魔法の実技は欠席すればいい」
(病で魔力を失うなんて、あり得ないのに……)
嘘に嘘を重ねて平然としているシャーリと、それを微塵も疑っていないロルフをシエラは黙って見つめる。
「なんだその目は! 言いたいことがあるなら、はっきり言ったらどうだ!」
癇癪を起こして地団駄を踏むロルフを前に、シエラは心の奥が冷えていくのを感じる。
(ロルフ殿下は、こんな子どもじみた言動をする方ではなかったのに。シャーリに感化されてしまったのね)
王命で決められた婚約だから、そう親しくしていた訳ではなかった。けれど高位の貴族では良くあることだし、少しずつ互いを知っていければとシエラは考えていた。
「分かりました」
「やったー! これでわたしも、ロルフ様と一緒にこれからも勉強できるわね」
「ああ、ずっと一緒だよシャーリ」
(ずっと?)
ロルフの言葉が気にかかったが、問うより早くシャーリがシエラの腕を引っ張る。
「お姉様、早く魔力をちょうだい!」
「どうすればいいのだ?」
(そんなことも知らないで欲しがっていたの? 座学で習ったはずなのに)
この国では魔力を譲渡できる。
譲渡する側、される側。双方の合意があれば、立会人も書類を交わすこともなく一瞬で行えるのだ。
「私が「シャーリに、魔力の全てを差し上げます」と言ったら、シャーリは「シエラから全ての魔力を受け入れます」と答えればいいのよ」
「それだけ?」
「ええ」
あまりに簡単な方法に、シャーリとロルフは顔を見合わせている。
シエラも初めて習ったときには同級生と共にきょとんとしたものだ。
「何か裏があるのではないだろうな? シエラ、もしシャーリを陥れたら、その命は無いと思え」
「裏も何もございません。不安でしたら、教科書を持って来ましょうか?」
「そんな時間ないわ。そろそろ校長先生がお見えになる頃よ」
慌てるシャーリに、シエラは頷いてみせる。
(これは甘やかしてしまった私の罪でもあるわ。シャーリがこれから魔力を正しく使い生きていけるかどうかは、シャーリ自身が決めること。そして私は、魔力なき公爵令嬢として誹りを受けながら生きることが罰となる)
覚悟を決めたシエラは、真っ直ぐに妹を見つめる。
これから先の人生は、互いに試練の道となるだろう。
「では始めましょう。――シャーリに、魔力の全てを差し上げます」
「シエラから全ての魔力を受け入れます」
次の瞬間、ぱっと閃光が二人の間を駆け抜けた。
そして、魔力の譲渡はシエラの言ったとおり呆気なく終わったのである。
既にシエラは貴族学園の試験を終えている。小等部までは魔力に関する授業は座学だけなので、庶子でも通うことは許されている。
しかし中等部からは実技が加わるので、入学試験という形で魔力量を測るのだ。けれどシャーリは「具合が悪い」と言ってその試験を延ばし延ばしにしてきた。
そして今日のお茶会では、最後にクラス分けの発表もされる。
つまりそれまでに魔力量を測れなければ、シャーリは貴族学院に入学できないどころか「貴族だ」という嘘がバレてしまう。
「早くしろ! シャーリは病で魔力を失ったのだろう? だったらお前も学園では病気を理由に魔法の実技は欠席すればいい」
(病で魔力を失うなんて、あり得ないのに……)
嘘に嘘を重ねて平然としているシャーリと、それを微塵も疑っていないロルフをシエラは黙って見つめる。
「なんだその目は! 言いたいことがあるなら、はっきり言ったらどうだ!」
癇癪を起こして地団駄を踏むロルフを前に、シエラは心の奥が冷えていくのを感じる。
(ロルフ殿下は、こんな子どもじみた言動をする方ではなかったのに。シャーリに感化されてしまったのね)
王命で決められた婚約だから、そう親しくしていた訳ではなかった。けれど高位の貴族では良くあることだし、少しずつ互いを知っていければとシエラは考えていた。
「分かりました」
「やったー! これでわたしも、ロルフ様と一緒にこれからも勉強できるわね」
「ああ、ずっと一緒だよシャーリ」
(ずっと?)
ロルフの言葉が気にかかったが、問うより早くシャーリがシエラの腕を引っ張る。
「お姉様、早く魔力をちょうだい!」
「どうすればいいのだ?」
(そんなことも知らないで欲しがっていたの? 座学で習ったはずなのに)
この国では魔力を譲渡できる。
譲渡する側、される側。双方の合意があれば、立会人も書類を交わすこともなく一瞬で行えるのだ。
「私が「シャーリに、魔力の全てを差し上げます」と言ったら、シャーリは「シエラから全ての魔力を受け入れます」と答えればいいのよ」
「それだけ?」
「ええ」
あまりに簡単な方法に、シャーリとロルフは顔を見合わせている。
シエラも初めて習ったときには同級生と共にきょとんとしたものだ。
「何か裏があるのではないだろうな? シエラ、もしシャーリを陥れたら、その命は無いと思え」
「裏も何もございません。不安でしたら、教科書を持って来ましょうか?」
「そんな時間ないわ。そろそろ校長先生がお見えになる頃よ」
慌てるシャーリに、シエラは頷いてみせる。
(これは甘やかしてしまった私の罪でもあるわ。シャーリがこれから魔力を正しく使い生きていけるかどうかは、シャーリ自身が決めること。そして私は、魔力なき公爵令嬢として誹りを受けながら生きることが罰となる)
覚悟を決めたシエラは、真っ直ぐに妹を見つめる。
これから先の人生は、互いに試練の道となるだろう。
「では始めましょう。――シャーリに、魔力の全てを差し上げます」
「シエラから全ての魔力を受け入れます」
次の瞬間、ぱっと閃光が二人の間を駆け抜けた。
そして、魔力の譲渡はシエラの言ったとおり呆気なく終わったのである。
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