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45話。どうやら近くの村で何か大事件が起こりつつあるらしい
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「芸にケチをつけられたそうだけど、何が駄目だったの? 脚を折られるってよっぽどだと思うんだけど」
「いやあ、それが、広場に立派な木があったから、木と木の間にロープを張って、その上を歩いて渡ったんですよ」
「うん」
「フン」
「こう、ふらついて落っこちそうになったり、本当に落ちたっ、と見せかけて手でロープをつかんでひょいっと上に戻ったりして客を沸かせていたんです」
「うんうん」
「フンフン」
「そうしたら、近くの立派な建物から男達がぞろぞろと出てきて『中を覗いたな』とか『こんなところで商売をするな』とか『誰の許可を得てそんなことしてるんだ』と言いがかりをつけられてしまって」
「うーわ」
「ヒーン」
「ロープを切られて真っ逆さま。脚を折って動けなくなったら、殴る蹴るされて、それからついには、剣を持った人が出てきたんです」
「ええっ?」
「ブヒヒッ?」
「『あ。これまずい。殺される』と思って、息を止めて死んだフリをしたんですよ。いやー、芸が身を助けるというのはまさにこのこと。それで、アーサーさんと会ったところまで荷車で運ばれて、『ここに死体を転がしておけば、馬鹿が転落して頭を打って死んだと思うだろう』と」
「大事件じゃねえか!」
「ブヒヒンブヒーブルルルッ!」
「この馬も、大事件起きてません?! 理解力高すぎません?!」
「気にするな。俺が家に入ったら、一緒に入ってくるような馬鹿馬だぞ」
「それはそれで賢いと思うんですが。そうだ。家と言えば」
「うん?」
「ヒン?」
「俺を捨てた男のひとりが『殺す必要あったんですか?』と言ったら、もう一方が『アレを見たかもしれないんだ。殺すしかない。あのお方の野望の妨げになるかもしれないものは排除する』『そうっすね。あんなところでロープを張るのが悪いんすね』『そうだ。この世界をあのお方が支配するまで、どんな些細な障害も排除する』とか言ってましたね」
「大事件じゃねえか!」
「ブヒヒン、ブヒーブルルルッ!」
「はははっ! やっぱ、そうですか? 危ないから引き返した方がいいかもしれませんよ」
「いや、俺は強いから大丈夫。今の話を聞いて放置はできない。その村の怪しい屋敷の隣にある広場まで案内してくれ。調査してみる」
「いやいや、危ないですよ。最低でも4人が俺を殺そうとしたんですよ?」
「俺は世直しの旅をしている最中なんだよ」
「だからって、そんな」
「それに元領主の息子としては、領地で事件が起きているなら、放っておけないよ」
「え? 元領主の息子?」
「ああ」
「元、とはどういうことで?」
「追放されたんだよ。直後に領主の館は牛頭巨人に襲撃されて崩壊した」
「大事件じゃねえか!」
「あははははははっ!」
「ブヒヒヒヒヒヒッ!」
\ グッドコミュニケーション /
パンを口に含んで喉を渇かせていたジャロンさんがそろそろ飲めそうになってきたので、いったん休憩を兼ねて停止。馬たちにそこらの草を食ってもらう。
ジャロンさんは回復ポーションを飲んだ。
「お、おお。足の痛みが消えて立てますよっと、あら? あらら?」
馬揺れに酔ったらしく、少しの間ゆらゆらしていた。
「大丈夫です? 夜中にトイレ行く人みたいになってますよ。よろめいた拍子にシャルロットやサフィに触れたら、ブッ殺すからな」
「怖ッ! へへへっ。いやあ、まだ馬に乗っているみたいだ」
なんとか真っ直ぐ立てるようになると、ジャロンさんは、ブランシュネージュに水を飲ませていたシャルロットの方へ体を向ける。
「シャルロットさん回復ポーションをありがとうございました」
「いや。気にするな。日が昇るように当たり前のことをしたまでだ。貴方が回復した姿を見せてくれた。そのことが何よりの礼となる」
「これは、ささやかながらのお礼です」
ポンッと、ジャロンさんは手に花を出した。
俺はジャロンの後頭部をにらみつける。
あと一歩でも進めば、その頭が破裂するぜ?
「しかしこれを貴方に渡したら私はアーサーさんに怒られてしまう。ということで、これはアーサーさんに」
ジャロンさんは振り返り、花を俺の髪に挿した。
俺は受け入れるしかなかった。
もし拒絶したら、彼はシャルロットに渡そうとし、俺は本当に嫉妬する。
「ブヒヒッ」
ムシャムシャ。
花はわずかの髪と一緒に、メルディに食われた。
ジャロンさんは今度はサフィの方へ進む。
「サフィさん。私を見つけてくれてありがとう。貴女がいなければ私は今頃、誰にも気づかれずに死んでいました」
「みゃ。どういたしましてみゃ」
ジャロンさんはシャルロットだけでなくサフィにも頭を下げた。
うむ。年下の獣人に感謝を伝えて頭を下げられるなら、この人はいい人だ。
そして再び俺の頭に花が挿されて、髪の毛とともにメルディに食われた。
「ここまで運んでくれたお馬さん達もありがとう」
ジャロンさんは俺の頭に3本の花を挿した。
俺は俺の馬3頭に髪の毛ごと花を食われた。
\ グッドコミュニケーション /
「いやあ、パンと水で腹が膨れたから、お次は寝床がほしい。うははっ」
もちろん冗談だろう。昼間だし、こんな野原で寝床がほしいはずがない。
しかし世の中には冗談が通じない人がいる。
「うむ。では布団を出そう」
シャルロットが魔法の革袋を出したから、俺はその手をそっと押さえた。
「今のは冗談だって、うふんっ……」
すっかり忘れていたが、俺はシャルロットに触れたら意識を失うんだった。
「いやあ、それが、広場に立派な木があったから、木と木の間にロープを張って、その上を歩いて渡ったんですよ」
「うん」
「フン」
「こう、ふらついて落っこちそうになったり、本当に落ちたっ、と見せかけて手でロープをつかんでひょいっと上に戻ったりして客を沸かせていたんです」
「うんうん」
「フンフン」
「そうしたら、近くの立派な建物から男達がぞろぞろと出てきて『中を覗いたな』とか『こんなところで商売をするな』とか『誰の許可を得てそんなことしてるんだ』と言いがかりをつけられてしまって」
「うーわ」
「ヒーン」
「ロープを切られて真っ逆さま。脚を折って動けなくなったら、殴る蹴るされて、それからついには、剣を持った人が出てきたんです」
「ええっ?」
「ブヒヒッ?」
「『あ。これまずい。殺される』と思って、息を止めて死んだフリをしたんですよ。いやー、芸が身を助けるというのはまさにこのこと。それで、アーサーさんと会ったところまで荷車で運ばれて、『ここに死体を転がしておけば、馬鹿が転落して頭を打って死んだと思うだろう』と」
「大事件じゃねえか!」
「ブヒヒンブヒーブルルルッ!」
「この馬も、大事件起きてません?! 理解力高すぎません?!」
「気にするな。俺が家に入ったら、一緒に入ってくるような馬鹿馬だぞ」
「それはそれで賢いと思うんですが。そうだ。家と言えば」
「うん?」
「ヒン?」
「俺を捨てた男のひとりが『殺す必要あったんですか?』と言ったら、もう一方が『アレを見たかもしれないんだ。殺すしかない。あのお方の野望の妨げになるかもしれないものは排除する』『そうっすね。あんなところでロープを張るのが悪いんすね』『そうだ。この世界をあのお方が支配するまで、どんな些細な障害も排除する』とか言ってましたね」
「大事件じゃねえか!」
「ブヒヒン、ブヒーブルルルッ!」
「はははっ! やっぱ、そうですか? 危ないから引き返した方がいいかもしれませんよ」
「いや、俺は強いから大丈夫。今の話を聞いて放置はできない。その村の怪しい屋敷の隣にある広場まで案内してくれ。調査してみる」
「いやいや、危ないですよ。最低でも4人が俺を殺そうとしたんですよ?」
「俺は世直しの旅をしている最中なんだよ」
「だからって、そんな」
「それに元領主の息子としては、領地で事件が起きているなら、放っておけないよ」
「え? 元領主の息子?」
「ああ」
「元、とはどういうことで?」
「追放されたんだよ。直後に領主の館は牛頭巨人に襲撃されて崩壊した」
「大事件じゃねえか!」
「あははははははっ!」
「ブヒヒヒヒヒヒッ!」
\ グッドコミュニケーション /
パンを口に含んで喉を渇かせていたジャロンさんがそろそろ飲めそうになってきたので、いったん休憩を兼ねて停止。馬たちにそこらの草を食ってもらう。
ジャロンさんは回復ポーションを飲んだ。
「お、おお。足の痛みが消えて立てますよっと、あら? あらら?」
馬揺れに酔ったらしく、少しの間ゆらゆらしていた。
「大丈夫です? 夜中にトイレ行く人みたいになってますよ。よろめいた拍子にシャルロットやサフィに触れたら、ブッ殺すからな」
「怖ッ! へへへっ。いやあ、まだ馬に乗っているみたいだ」
なんとか真っ直ぐ立てるようになると、ジャロンさんは、ブランシュネージュに水を飲ませていたシャルロットの方へ体を向ける。
「シャルロットさん回復ポーションをありがとうございました」
「いや。気にするな。日が昇るように当たり前のことをしたまでだ。貴方が回復した姿を見せてくれた。そのことが何よりの礼となる」
「これは、ささやかながらのお礼です」
ポンッと、ジャロンさんは手に花を出した。
俺はジャロンの後頭部をにらみつける。
あと一歩でも進めば、その頭が破裂するぜ?
「しかしこれを貴方に渡したら私はアーサーさんに怒られてしまう。ということで、これはアーサーさんに」
ジャロンさんは振り返り、花を俺の髪に挿した。
俺は受け入れるしかなかった。
もし拒絶したら、彼はシャルロットに渡そうとし、俺は本当に嫉妬する。
「ブヒヒッ」
ムシャムシャ。
花はわずかの髪と一緒に、メルディに食われた。
ジャロンさんは今度はサフィの方へ進む。
「サフィさん。私を見つけてくれてありがとう。貴女がいなければ私は今頃、誰にも気づかれずに死んでいました」
「みゃ。どういたしましてみゃ」
ジャロンさんはシャルロットだけでなくサフィにも頭を下げた。
うむ。年下の獣人に感謝を伝えて頭を下げられるなら、この人はいい人だ。
そして再び俺の頭に花が挿されて、髪の毛とともにメルディに食われた。
「ここまで運んでくれたお馬さん達もありがとう」
ジャロンさんは俺の頭に3本の花を挿した。
俺は俺の馬3頭に髪の毛ごと花を食われた。
\ グッドコミュニケーション /
「いやあ、パンと水で腹が膨れたから、お次は寝床がほしい。うははっ」
もちろん冗談だろう。昼間だし、こんな野原で寝床がほしいはずがない。
しかし世の中には冗談が通じない人がいる。
「うむ。では布団を出そう」
シャルロットが魔法の革袋を出したから、俺はその手をそっと押さえた。
「今のは冗談だって、うふんっ……」
すっかり忘れていたが、俺はシャルロットに触れたら意識を失うんだった。
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