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54 疑いの種
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「家まで送っていくよ。」
ノアが男の子に言った。
男の子は遠慮したが、悪い奴に絡まれたら大変だと言われ、しぶしぶ了承した。
「ところで、君、名前は?」
ノアが訊ねる。
男の子ははっとして、答える。
「名乗ってなかったな。俺はエメル!よろしくな。」
「よろしく。僕はノア、こっちが伊月くん、詩織ちゃん、そしてコトラ。」
互いに自己紹介を済ませ、エメルの案内で彼の家へ向かう。
屋台の店主が「スラムのガキ」と言っていた通り、エメルの足はスラム街の奥へと進んでいった。
もしかしたらエメルとの出会いが、ノアの言っていた「下準備」だったのかもしれない。
壊れたまま放置された壁と、今にも崩れそうな屋根でなんとか家の形を保っているそこが、エメルの家だという。
エメルはドア代わりのカーテンをめくり「ただいま!」と元気に声を上げる。
しかし中からは何も返事は帰ってこず、周囲に人影もない。
エメルの家族も、さっきの兵士たちに連れていかれたのだろうか?
困惑するエメルにどう声をかけようか悩んでいると「あれ?」と聞き覚えのある声がした。
振り向くと、昨日の少女と大男、そして青年の3人がたっていた。
少女は驚いたような顔をしていたが、大男はやはり無表情で、青年は眉間にしわを寄せている。
「こんなところでどうしたの?」
声をかける少女に、膝を折って頭を下げる。
この国では、一市民が聖女と口を利くことなど恐れ多いというのが常識なのだと、昨日ノアに教わった。
だから、気軽に返事を返すわけにはいかず、こうして礼を尽くす態度を示さなくてはならないのだ。
「ちょっ!今日はお忍びだから、そんなにかしこまらないで。昨日みたいに気楽に接してよ!ね、アランもネルもいいでしょ?」
「……君がそう望むなら。」
「聖女様の御心のままに。」
どうやらこの青年がアラン、大男がネルというらしい。
ふたりが了承したところで、俺たちは顔を上げる。
「それで、あなたたちはこんなところで何をしているの?」
少女の問いかけに、ノアが答える。
「男の子を家まで送り届けていたところです。」
「男の子?」
「ええ、街で偶然出会い、成り行きで。ただ、家族が不在のようで、どうしようかと途方に暮れていたところだったのです。」
「そうなの…。あ、それならいい考えがあるわ!これからこの奥の広場で炊き出しをするの。その子の家族もくるかもしれないから、いっしょに行かない?」
「喜んでお手伝いをさせていただきます。」
「人手は足りているけど……手伝ってくれるなら、遠慮なく。助かるわ。」
こっちよ、という少女のあとをみんなでついていく。
エメルが不安そうな顔をしていたので、手をつないで歩いた。
なんだか柚乃の小さかった頃が思い出されて、少し切ない。
広場では、もうだいぶ炊き出しの準備が進んでいた。
先程の兵士たちが中心となり、テントの下で調理を進めている。
「彼らも私の旅の仲間なの。さ、先にこの子の家族を探しましょう。特徴を教えてもらえる?」
少女がエメルに優しく問いかけるが、エメルは辺りを見回して怯えている。
そんなエメルに少女が戸惑い「どうかした?」と質問を変えると、震える声でエメルが答えた。
「……ここに住んでいるはずの人が誰もいない…。見たこともない人ばっかり……いっぱいいる…。」
それはそうだろう。
先程兵士たちが、住人を隔離するところを満たし、エキストラを招き入れるところも目撃した。
なんなら、今作業しているのは兵士たちだが、会場の準備をしていたのはエキストラたちだった。
「どういうこと…?」
少女が強張った声を出す。
「だから、スラムの人なんて一人もいない!家族もいない!こいつら誰なんだよ!」
エメルがパニック状態になって叫び、俺にしがみついてきた。
家に帰っても家族がいないわ、炊き出し場所に集まっている住人は全員知らないやつだわで、限界だったようだ。
俺は落ち着かせるようにエメルの頭を撫でる。
「無礼な…!」
近くにいた兵士が、剣に手をかける。
少女がとっさに「待って!」と叫ぶと、兵士はぴたっと動きを止めた。
「落ち着いて、話を聞かせてくれない?」
少女がなおもエメルに語り掛ける。
しかしエメルは俺にくっついたまま、黙り込んでいる。
代わりに、ノアが口を開いた。
「彼らは、本当にここの住人なんですか?」
「……どういうこと?」
「いろんな街を旅してきましたが、彼らの身なりはきれいすぎると思いまして。」
「……そう?」
「エメルの身なりと比べてみてください。彼らは髪や肌の艶もあるし、痩せてもいない。服も多少古びているものの、ボロというほどではありません。しかしエメルは、そうではない。
それに、僕は数日前にもスラム街にきたのですが、そのとき見かけた住人はみな、エメルのような恰好をしていましたよ。彼らのように健康的な見た目の人は、ほとんどいなかったんじゃないかな。」
「じゃあ、もし彼らが偽物だったとしてら、本物の住人はどこにいるってわけ?」
「どこでしょう?僕より、彼らに聞いてみた方が早いのでは?」
ノアの言葉に、少女は息をのんだ。
その瞳には、確かに動揺の色が浮かんでいた。
ノアが男の子に言った。
男の子は遠慮したが、悪い奴に絡まれたら大変だと言われ、しぶしぶ了承した。
「ところで、君、名前は?」
ノアが訊ねる。
男の子ははっとして、答える。
「名乗ってなかったな。俺はエメル!よろしくな。」
「よろしく。僕はノア、こっちが伊月くん、詩織ちゃん、そしてコトラ。」
互いに自己紹介を済ませ、エメルの案内で彼の家へ向かう。
屋台の店主が「スラムのガキ」と言っていた通り、エメルの足はスラム街の奥へと進んでいった。
もしかしたらエメルとの出会いが、ノアの言っていた「下準備」だったのかもしれない。
壊れたまま放置された壁と、今にも崩れそうな屋根でなんとか家の形を保っているそこが、エメルの家だという。
エメルはドア代わりのカーテンをめくり「ただいま!」と元気に声を上げる。
しかし中からは何も返事は帰ってこず、周囲に人影もない。
エメルの家族も、さっきの兵士たちに連れていかれたのだろうか?
困惑するエメルにどう声をかけようか悩んでいると「あれ?」と聞き覚えのある声がした。
振り向くと、昨日の少女と大男、そして青年の3人がたっていた。
少女は驚いたような顔をしていたが、大男はやはり無表情で、青年は眉間にしわを寄せている。
「こんなところでどうしたの?」
声をかける少女に、膝を折って頭を下げる。
この国では、一市民が聖女と口を利くことなど恐れ多いというのが常識なのだと、昨日ノアに教わった。
だから、気軽に返事を返すわけにはいかず、こうして礼を尽くす態度を示さなくてはならないのだ。
「ちょっ!今日はお忍びだから、そんなにかしこまらないで。昨日みたいに気楽に接してよ!ね、アランもネルもいいでしょ?」
「……君がそう望むなら。」
「聖女様の御心のままに。」
どうやらこの青年がアラン、大男がネルというらしい。
ふたりが了承したところで、俺たちは顔を上げる。
「それで、あなたたちはこんなところで何をしているの?」
少女の問いかけに、ノアが答える。
「男の子を家まで送り届けていたところです。」
「男の子?」
「ええ、街で偶然出会い、成り行きで。ただ、家族が不在のようで、どうしようかと途方に暮れていたところだったのです。」
「そうなの…。あ、それならいい考えがあるわ!これからこの奥の広場で炊き出しをするの。その子の家族もくるかもしれないから、いっしょに行かない?」
「喜んでお手伝いをさせていただきます。」
「人手は足りているけど……手伝ってくれるなら、遠慮なく。助かるわ。」
こっちよ、という少女のあとをみんなでついていく。
エメルが不安そうな顔をしていたので、手をつないで歩いた。
なんだか柚乃の小さかった頃が思い出されて、少し切ない。
広場では、もうだいぶ炊き出しの準備が進んでいた。
先程の兵士たちが中心となり、テントの下で調理を進めている。
「彼らも私の旅の仲間なの。さ、先にこの子の家族を探しましょう。特徴を教えてもらえる?」
少女がエメルに優しく問いかけるが、エメルは辺りを見回して怯えている。
そんなエメルに少女が戸惑い「どうかした?」と質問を変えると、震える声でエメルが答えた。
「……ここに住んでいるはずの人が誰もいない…。見たこともない人ばっかり……いっぱいいる…。」
それはそうだろう。
先程兵士たちが、住人を隔離するところを満たし、エキストラを招き入れるところも目撃した。
なんなら、今作業しているのは兵士たちだが、会場の準備をしていたのはエキストラたちだった。
「どういうこと…?」
少女が強張った声を出す。
「だから、スラムの人なんて一人もいない!家族もいない!こいつら誰なんだよ!」
エメルがパニック状態になって叫び、俺にしがみついてきた。
家に帰っても家族がいないわ、炊き出し場所に集まっている住人は全員知らないやつだわで、限界だったようだ。
俺は落ち着かせるようにエメルの頭を撫でる。
「無礼な…!」
近くにいた兵士が、剣に手をかける。
少女がとっさに「待って!」と叫ぶと、兵士はぴたっと動きを止めた。
「落ち着いて、話を聞かせてくれない?」
少女がなおもエメルに語り掛ける。
しかしエメルは俺にくっついたまま、黙り込んでいる。
代わりに、ノアが口を開いた。
「彼らは、本当にここの住人なんですか?」
「……どういうこと?」
「いろんな街を旅してきましたが、彼らの身なりはきれいすぎると思いまして。」
「……そう?」
「エメルの身なりと比べてみてください。彼らは髪や肌の艶もあるし、痩せてもいない。服も多少古びているものの、ボロというほどではありません。しかしエメルは、そうではない。
それに、僕は数日前にもスラム街にきたのですが、そのとき見かけた住人はみな、エメルのような恰好をしていましたよ。彼らのように健康的な見た目の人は、ほとんどいなかったんじゃないかな。」
「じゃあ、もし彼らが偽物だったとしてら、本物の住人はどこにいるってわけ?」
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その瞳には、確かに動揺の色が浮かんでいた。
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