娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち

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68 善悪の瞳

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 ノアは少し考える仕草をしたあとで、指をパチンと鳴らした。
 しかし、何かも起こらない。
 不思議に思ってノアを見ると、平然とした顔をしている。
 その様子を見るに、魔法に失敗したわけではないらしい。


「何をしたんだ?」


 俺が訊ねると、ノアは「他人からのネルくんの認識をいじったんだ」と答えた。
 どういうことか理解に悩んでいると、詳しく教えてくれた。


「ネルくんは、そこに転がっている王子から敵認定されているでしょ?だからこのまま神の使者として行動してもらおうとしても、妨害が入る可能性が高い。そうならないよう、ネルくんの存在をぼやかしたんだ」

「ぼやかす?」

「そう。聖女の護衛に、大きな男がいたのは覚えているけど、顔と名前が思い出せない、みたいな感じかな?つまり、聖女の護衛とネルくんが直接結びつかないようにしたってこと」

「なるほど。それなら、個人的な攻撃を受ける可能性がなくなる……。でも、家族とか知人とか、違和感を覚える人もいるんじゃ……」

「そうだね。ネルくんの知り合いには、ネルくんは最近兵士をやめて冒険者として活動してるっていう設定になってる」

「せ、設定……」

「難しかったんだよ?家族のもとを離れて旅する仕事って、そんなにないでしょ?商人とか旅芸人とかも考えたんだけど……ちょっとイメージ違うかなって。冒険者ならぴったりでしょ」


 うんうん、とノアが自画自賛する。
 ネルはそんなノアをぽかんと見ていた。


「なあ、本人の希望は聞かなくてよかったのか?」


 一応そう訊ねる。
 ノアははっとして「え、冒険者嫌だった?変えようか?」とネルに問いかける。

 ネルは少し慌てた様子のノアに、ふっと笑みをこぼした。


「冒険者でかまいません。旅をしながら鍛錬を積もうと思ったら、冒険者の方が都合がいい。腕にも多少覚えがありますので」

「ほんと?よかった。巡礼ついでに、困ってる街の人も助けてあげて。できる範囲でいいから」

「……今まで、多くの人が破滅するのをただ黙ってみていることしかできませんでした。その贖罪のためにも、出来る限りのことをするつもりです」


 ネルは今までずっと、耐えていたのだ。
 護衛騎士としての役割を最優先するため、目の前で救いを求める人を切り捨てるのは、どれほどつらかったことだろう。

 ノアはそんなネルに「サービスだよ」と淡く光る小さな玉を差し出す。
 ネルが恐る恐る手に取ると、あっというまに手のひらに吸い込まれるように消えてしまった。


「こ、これは……?」


 不安気なネルに、ノアが解説する。


「これはスキルの素みたいなものかな?これを取り込んだものは、スキルを得ることができるんだ」

「スキル?」

「そう。君に与えたのは<善悪の瞳>っていうスキルだよ。その名の通り、人の善悪を色で見極めることができる能力なんだ。これから教会の腐敗を暴くのに、きっと役立つはずだよ。試しに、周りの人をみてごらん。おもしろいよ」


 そうノアに促され、ネルが俺たちに視線を向ける。
 禍々しい色をしていたらどうしよう、と心配になった。

 しかしネルの表情は、まるで何か美しいものを見ているかのようだった。


「……ど、どんな色なんだ……?」


 気になって問いかけると、ネルは恍惚とした様子で呟いた。


「すごく……すごく、きれいな色です。濁りのない、美しい海のような……。それに水面が反射するように、キラキラとした光も見えます」

「それは、俺が?それとも、彼女……妻が?」


 ネルの視線は、俺と妻に向けられていた。
 ネルのいう美しい青は、どちらの色なのだろう?


「おふたりともです。おふたりとも、同じきれいな青色です」


 妻と思わず顔を見合わせる。
 妻は俺とおそろいがうれしいのか、満面の笑顔だ。


「わ、私は?」


 少し興奮した様子で、由佳里が問いかける。


「聖女様は、鮮やかな紫色をなさっています。青が濃い紫色。まるで夜空のような美しい色です」

「……そうなんだ」


 美しいと言われて、由佳里も嬉しそうだった。
 続けて、コトラには色がついておらず、ノアは澄みきった緑色をしていると教えてくれた。

 それぞれの色には、どんな意味があるのだろうか?
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