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69 鮮やかな笑顔でお別れを
「スキル<善悪の瞳>では、善は青、悪は赤のオーラで示される。伊月くんと詩織ちゃんは、純粋な善。由佳里ちゃんは、善が9、悪が1って感じかな?」
「私、悪が混ざってるんだ……」
「悪って言っても、何も悪いものじゃない。悪意や憎しみなんてものも分類されるけど、怒りの感情もおおまかにわければ悪になるからね」
「怒り……」
「そう。でも、君は怒っていい。無理に許す必要はない」
ノアの言葉に、由佳里はほっとしたようだった。
神々や王子など、信じていた人に裏切られたばかりなのだ。
吹っ切れた顔をしていても、由佳里の中の怒りの感情が消えないのは仕方がないことだろう。
それでも、善が大きく上回っている。
それはきっとすごいことだ。
「あと動物は善悪にはこだわらないから、色分けはされない。あくまで人間を対象にしたスキルだよ。僕は……人間じゃないけど人間に化けてるから、バグが起きちゃったんじゃないかな」
「バグ……」
「僕が善か悪かは、ないしょってことだね」
冗談っぽく言ったあと、ノアはまじめな顔をしてネルに忠告した。
「人の感情は複雑だから、その瞳に映るオーラの色もその時々で変わるだろう。だからこそ、スキルの力だけに頼って、人を判断しないこと。赤いオーラには、相応の事情が隠れていることもある。難しいかもしれないけど、その事情を無視しないであげて」
「はい……!」
「ネルくんならできるって、信じているよ」
ノアの言葉に、ネルが深々と頭を下げた。
そして最後に「自分のオーラは見えないからね」と告げる。
だからこそ、自分の言動を省みることを忘れないようにと。
ネルは一言「肝に銘じます」と返した。
力強い瞳だった。
時間はかかるかもしれないが、彼はきっと成し遂げるだろう。
そんな予感がした。
「じゃあ、今度こそお別れだね」
ノアが言う。
由佳里は改めて、ネルに感謝と別れを告げた。
ネルも同様に、由佳里に深く感謝し、そして由佳里のこれからの人生の幸福を願った。
そしてネルは、俺と妻にも頭を下げてくれた。
聖女を救ってくださったことに感謝しますと、晴れやかな顔で。
「いや、俺たちはとくには。ほとんどノアのおかげだし……」
「そんなことない!」
横から口を出したのは、由佳里だった。
「私のために神様たちに怒ってくれて、私の気持ちに寄り添ってくれて、嬉しかった」
「……うん」
「娘さんが見つかること、向こうの世界で願ってる」
「ありがとう……」
涙が出そうだった。
由佳里の姿に、娘が重なる。
柚乃も、異世界でつらい生活をしているのだろうか?
誰かに騙されて、苦しい思いをしているかもしれないと思うと、胸が張り裂けそうだった。
俺は無理やり笑顔を浮かべて「元気でね」と言った。
由佳里は困ったように微笑んで「作り笑いが下手だね」と呟く。
「娘さん、今の私くらいの歳なんだよね?」
「ああ、ごめん……」
「何が?私に娘さんを重ねちゃったこと?」
「……」
「別にいいのに。私もちょっとだけ、伊月さんと詩織さんに両親を重ねてみてたし」
「そうなの?」
「うん。見た目若すぎるけどね」
クスクスと楽しそうに由佳里が笑って、俺は少し心が軽くなった気がした。
由佳里は妻の手を取って「ありがとう」と言った。
妻はにっこり笑って由佳里を抱きしめ「ばいばい」と小さく囁いた。
その仕草が大人っぽくて、以前の記憶が戻ったのかと思った。
でも俺を振り向いた妻は、へらっと呑気に笑っていて、気のせいだと理解する。
俺は、由佳里に3通の手紙を託した。
1通は由佳里の両親である川西夫妻に、もう1通は異世界転移被害者の会の会長佐々木に、そして最後の1通は義母に向けて書いたものだ。
川西夫妻を通して、残りの2通を佐々木に渡してほしいと頼む。
佐々木がきっと義母にも手紙を届けてくれることだろう。
由佳里は「もちろん!任せておいて」と胸を張った。
そのときふと、異世界のものをもとの世界に持ち込めるのか不安になり、ノアをちらりと窺った。
ノアは俺の視線の意図に気づいたのか「大丈夫だよ」と笑みを返し、指をパチンと鳴らす。
現れたのは、もはや見慣れてきた白い扉。
異世界をつなぐ特別な扉だ。
ひとりでに開いた扉の先は、白い光に包まれて見えない。
由佳里は不安気な顔をしていたが「大丈夫」とノアに背中を押され、覚悟を決めたように一歩を踏み出した。
そんな由佳里の背中に「待て……!」と苦し気な声が投げかけられた。
由佳里が振り向くと、床に転がった状態で王子が由佳里に手を伸ばしていた。
荒い息を立てながら「行くな」とか「俺を見捨てるつもりか」などと訴えている。
由佳里は泣きながら呟き続ける王子に、にっこりと鮮やかな笑顔を返した。
そして踵を返し、しっかりとした足取りで扉をくぐった。
王子が何を言っても、もう振り返ることはなかった。
由佳里の姿が光の中に消えていくと、扉も跡形もなく消え去る。
それを王子は、絶望の眼差しで見つめていた。
ノアは「それじゃあ、僕たちも行くね」とネルに別れを告げる。
「この場を離れれば、君が聖女の護衛騎士だったことは他人から忘れ去られる。清い心を忘れず、君の成すべきことするんだよ」
そんなノアの言葉に、ネルはしっかり頷き、俺たちに深く頭を下げた。
ノアがもう一度指を鳴らすと、再び白い扉が現れた。
次の異世界へ続く扉だ。
妻の手を取り、迷いなく扉に足を踏み入れる。
光に包まれながら、ふと後ろ振り向くと、ネルがまだ頭を下げていた。
彼らの世界に安寧が訪れることを願いつつ、俺はまぶしさに耐えられなくなって、瞳を閉じた。
次は一体、どんな世界なのだろう。
柚乃のいる世界だったら、どんなにいいことか……。
そんなことを思いながら。
「私、悪が混ざってるんだ……」
「悪って言っても、何も悪いものじゃない。悪意や憎しみなんてものも分類されるけど、怒りの感情もおおまかにわければ悪になるからね」
「怒り……」
「そう。でも、君は怒っていい。無理に許す必要はない」
ノアの言葉に、由佳里はほっとしたようだった。
神々や王子など、信じていた人に裏切られたばかりなのだ。
吹っ切れた顔をしていても、由佳里の中の怒りの感情が消えないのは仕方がないことだろう。
それでも、善が大きく上回っている。
それはきっとすごいことだ。
「あと動物は善悪にはこだわらないから、色分けはされない。あくまで人間を対象にしたスキルだよ。僕は……人間じゃないけど人間に化けてるから、バグが起きちゃったんじゃないかな」
「バグ……」
「僕が善か悪かは、ないしょってことだね」
冗談っぽく言ったあと、ノアはまじめな顔をしてネルに忠告した。
「人の感情は複雑だから、その瞳に映るオーラの色もその時々で変わるだろう。だからこそ、スキルの力だけに頼って、人を判断しないこと。赤いオーラには、相応の事情が隠れていることもある。難しいかもしれないけど、その事情を無視しないであげて」
「はい……!」
「ネルくんならできるって、信じているよ」
ノアの言葉に、ネルが深々と頭を下げた。
そして最後に「自分のオーラは見えないからね」と告げる。
だからこそ、自分の言動を省みることを忘れないようにと。
ネルは一言「肝に銘じます」と返した。
力強い瞳だった。
時間はかかるかもしれないが、彼はきっと成し遂げるだろう。
そんな予感がした。
「じゃあ、今度こそお別れだね」
ノアが言う。
由佳里は改めて、ネルに感謝と別れを告げた。
ネルも同様に、由佳里に深く感謝し、そして由佳里のこれからの人生の幸福を願った。
そしてネルは、俺と妻にも頭を下げてくれた。
聖女を救ってくださったことに感謝しますと、晴れやかな顔で。
「いや、俺たちはとくには。ほとんどノアのおかげだし……」
「そんなことない!」
横から口を出したのは、由佳里だった。
「私のために神様たちに怒ってくれて、私の気持ちに寄り添ってくれて、嬉しかった」
「……うん」
「娘さんが見つかること、向こうの世界で願ってる」
「ありがとう……」
涙が出そうだった。
由佳里の姿に、娘が重なる。
柚乃も、異世界でつらい生活をしているのだろうか?
誰かに騙されて、苦しい思いをしているかもしれないと思うと、胸が張り裂けそうだった。
俺は無理やり笑顔を浮かべて「元気でね」と言った。
由佳里は困ったように微笑んで「作り笑いが下手だね」と呟く。
「娘さん、今の私くらいの歳なんだよね?」
「ああ、ごめん……」
「何が?私に娘さんを重ねちゃったこと?」
「……」
「別にいいのに。私もちょっとだけ、伊月さんと詩織さんに両親を重ねてみてたし」
「そうなの?」
「うん。見た目若すぎるけどね」
クスクスと楽しそうに由佳里が笑って、俺は少し心が軽くなった気がした。
由佳里は妻の手を取って「ありがとう」と言った。
妻はにっこり笑って由佳里を抱きしめ「ばいばい」と小さく囁いた。
その仕草が大人っぽくて、以前の記憶が戻ったのかと思った。
でも俺を振り向いた妻は、へらっと呑気に笑っていて、気のせいだと理解する。
俺は、由佳里に3通の手紙を託した。
1通は由佳里の両親である川西夫妻に、もう1通は異世界転移被害者の会の会長佐々木に、そして最後の1通は義母に向けて書いたものだ。
川西夫妻を通して、残りの2通を佐々木に渡してほしいと頼む。
佐々木がきっと義母にも手紙を届けてくれることだろう。
由佳里は「もちろん!任せておいて」と胸を張った。
そのときふと、異世界のものをもとの世界に持ち込めるのか不安になり、ノアをちらりと窺った。
ノアは俺の視線の意図に気づいたのか「大丈夫だよ」と笑みを返し、指をパチンと鳴らす。
現れたのは、もはや見慣れてきた白い扉。
異世界をつなぐ特別な扉だ。
ひとりでに開いた扉の先は、白い光に包まれて見えない。
由佳里は不安気な顔をしていたが「大丈夫」とノアに背中を押され、覚悟を決めたように一歩を踏み出した。
そんな由佳里の背中に「待て……!」と苦し気な声が投げかけられた。
由佳里が振り向くと、床に転がった状態で王子が由佳里に手を伸ばしていた。
荒い息を立てながら「行くな」とか「俺を見捨てるつもりか」などと訴えている。
由佳里は泣きながら呟き続ける王子に、にっこりと鮮やかな笑顔を返した。
そして踵を返し、しっかりとした足取りで扉をくぐった。
王子が何を言っても、もう振り返ることはなかった。
由佳里の姿が光の中に消えていくと、扉も跡形もなく消え去る。
それを王子は、絶望の眼差しで見つめていた。
ノアは「それじゃあ、僕たちも行くね」とネルに別れを告げる。
「この場を離れれば、君が聖女の護衛騎士だったことは他人から忘れ去られる。清い心を忘れず、君の成すべきことするんだよ」
そんなノアの言葉に、ネルはしっかり頷き、俺たちに深く頭を下げた。
ノアがもう一度指を鳴らすと、再び白い扉が現れた。
次の異世界へ続く扉だ。
妻の手を取り、迷いなく扉に足を踏み入れる。
光に包まれながら、ふと後ろ振り向くと、ネルがまだ頭を下げていた。
彼らの世界に安寧が訪れることを願いつつ、俺はまぶしさに耐えられなくなって、瞳を閉じた。
次は一体、どんな世界なのだろう。
柚乃のいる世界だったら、どんなにいいことか……。
そんなことを思いながら。
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