娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち

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 俺は簡単に今までの経緯を勇司に説明した。
 彼は驚きつつも、この状況に狼狽えることはない。
 さすがは異世界経験者といったところだろうか。

 妹がもう元の世界へ戻れないこと。
 肉体を失って別人に憑依したこと。
 虐待を受けていたが保護されたこと。

 勇司は怒りに震えながらも、黙って話を聞いていた。
 虐待については詳細まで語らなかったが、それでも聞くに堪えない話だったと思う。


『それで、俺がそっちの世界へ行くにはどうしたらいいんだ?』

「こっちに来てくれるのか?」

『当たり前だろ。俺にとっての家族は、茜だけだ』


 茜が両親に放置されて悲しんでいたのと裏腹に、勇司は強い期待をかけられて育ったという。
 しかし茜が消え、勇司が存在かすらなかったことになっている茜を探し回っていることを知ると、両親は手のひらを返して勇司を早々に切り捨てた。
 精神科病院へ入院させ、今は絶縁状態なのだという。

 元々勇司は、自分と茜の扱いに差をつける両親に不満を持っていた。
 だから家族としての情よりも、世間体を気にする両親に嫌気が差したらしい。
 もう両親に対する未練はないと語った。


「友だちとかは?」

『ほぼいない。数少ないダチも、入院前後で離れていった』

「そっか……」


 何とも悲しい話だ。
 彼のもとに残ったのは、希薄な人間関係だけだという。

 初めて会ったときの、勇司の暗い顔を思い出す。
 妹を失った悲しみに加え、途方もない孤独が彼を苦しめていたのだ。


『……それで、妹は……?』


 勇司の質問に、医師の診察中だと答える。
 勇司は少し寂しそうに「どんな姿してるんだろ」と呟いた。

 シャルロッテの容姿は、愛らしかった。
 栄養失調で痩せこけてはいるが、それでも整った顔立ちをしている。
 だから余計に、継母と腹違いの妹の気に障ったのかもしれない。

 しかしシャルロッテの容姿は、日本人のそれとはかけ離れている。
 茜の頃の面影は、おそらくまったくないだろう。


『でも元気で生きていてくれるなら、それでいい……』


 茜の闘病生活は過酷なものだったという。
 元気に走り回ることはおろか、最期はまともに歩くことすら叶わなかったそうだ。
 食事制限も満足にとれず、高熱や体の痛みに苦しむ日々。
 毎日のようにお見舞いに通っていた勇司は、そんな妹をずっと見てきた。
 いつ命を落とすかわからない妹をただ黙ってみていることしかできない毎日は、どれほど彼の心を傷つけたことだろう。


「戻って来るまで繋いでいてあげるよ」


 ノアが優しく言った。
 勇司とノアは初対面のはずだが、ノアは勇司についてよく知っていた。
 勇司にもノアの存在については話していたので、疑問もなくノアの言葉を受け入れ、頭を下げる。

 そして、ふっと笑みを漏らした。


「どうしたんだ?」


 問いかけた俺に、勇司はくっくっくっと笑う。
 そうしてひとしきり笑いを噛み殺したあと、面白そうに言った。


『いや、本当にめっちゃ若返ってんだなって思ったら、急に笑えてきて』

「あ、そうか。……よくひと目で俺だって気づけたね」

『まあ、予備知識があったからな。それに瀬野さん……若返ってもあんまり顔変わってなかったし』

「そ、それはどっちの意味だろう……」


 元々老けているのか、それとも若く見えていたのか。
 勇司が笑って誤魔化し、返事をくれなかったので余計に気になったが、食い下がるのは恥ずかしくて我慢した。

 勇司によると、最近、異世界転移被害者の会の会合が開かれたらしい。
 特別ゲストとして、異世界からの帰還者を招いて。
 彼らの口から、俺たちの消息や見た目なんかについても話を聞いていたらしい。


『本当に異世界に行ったって聞いたときは、驚いたよ』

「そっか……」

『みんな驚いてたけど、生き証人が3人もいるからな。希望は大きいと思う。自分の家族も、同じように帰ってきてくれるんじゃないかって』


 俺が同じ立場でも、同じように期待をかけるだろう。
 願わくば、次は自分の娘でありますようにと。

 改めて、自分の背負う使命の重さを感じた。
 俺にとっては娘の救出につながる一歩だが、それだけではない。
 異世界転移被害者家族の1人として、ほかのみんなの思いを背負っていることを忘れないようにしようと固く心に誓った。
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