娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち

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90 兄妹

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 コンコンコン、とノックの音が響いた。
 傍に控えていたメイドが、ドアの外を確認する。

 診察を終えたシャルロッテが戻ってきたらしい。
 部屋に入れてもいいか問われ、ロエナが了承した。


 戻ってきたシャルロッテを、ロエナが手招きする。
 シャルロッテは、ロエナの目の前のモニターを不思議そうに眺めた。

 そしてその中に、よく知った顔を見つけ、心から驚いた様子だった。


「お、お兄ちゃん……」


 か細く、今にも消え入りそうな声で、シャルロッテが言った。
 勇司は恐る恐るといった様子で『……茜?』と妹の名を呼ぶ。

 シャルロッテの目からはポロポロ涙がこぼれ落ちる。
 そして何度も何度も、兄を呼んだ。

 勇司はただ、優しく返事を返していた。
 彼の頬にも、涙が伝っている。

 お互い、自分の命を駆けるほど思い合っている兄妹だ。
 姿は変わっても、生きてまた会話ができるということが嬉しくて仕方がない様子だった。


『茜……苦労かけて、ごめんな。今までずっと、つらかっただろ……』

「ううん。お兄ちゃん、私のためにたくさんありがとう。お兄ちゃんが魔王を倒した勇者様だって知って、私、すごくびっくりした」

『でも、お前を助けられなかった』

「そんなことない。お兄ちゃんが頑張らなかったら、私はこうして元気に動けるようにはならなかった」

『けどお前、ひどい扱いを……』

「それでも!またお兄ちゃんと話せるだけで、十分だよ」


 迷いなく言い切る妹に、兄はふっと笑った。


『これからさ、俺がそっちで暮らせるようにしてもらえるらしい』

「え、お兄ちゃんがこっちに?」

『ああ。そしたらさ、また俺と家族になってくれるか?』

「……私の家族は、今も昔もお兄ちゃんだけだよ」


 そうして兄妹は、会えなかった時間を埋めるように、今までの話をした。
 時間は気にしなくていい、というノアの配慮に、2人揃って頭を下げたのを見て、やはり兄妹なのだと思った。


「私は、この世界ではシャルロッテとして生きていくって決めたの」


 そういう妹の言葉に、勇司は頷いて、その名前を呼んだ。


『わかったよ、シャルロッテ。今までたくさん頑張ってきたな。……愛称は、シャルでいいか?』

「うん!」







 積もる話があるだろうと、俺たちはそっと退出した。
 そしてノアが、近くにいた使用人に王と話ができないかと訊ねた。
 使用人は戸惑いつつも確認してくれ、無事了承の返事を届けてくれた。
 そのまま応接間に案内される。

 ソファに座って待っていると、まもなく王が現れた。


「それで、何用かな?」


 問いかけた王に、ノアが「忙しいのにごめんね」とあまり気にしていない様子で言う。


「勇司くんが戻ってきたあとのことを確認しておこうと思って」

「ああ。なるほど」

「さっき本人に確認したら、こっちにきてくれるって」

「そうか。……って、さっき?!」

「そうそう」


 王の慌てた様子に、ノアが楽しそうに笑う。
 王はため息を付いて、状況を飲み込んだようだ。


「ユージには、爵位を授けようと思っている。それなりに位の高い爵位をな」

「反対されないかな?」

「問題ないだろう。彼は世界を救った英雄だ。ないがしろにするほうが、反感を買うだろう。それに……」

「それに?」

「姫が嫁ぐ相手だ。それなりの地位が必要になる」


 ふっと王が笑った。
 吹っ切れたような、でも少しさみしそうな父親の顔だった。


「それならよかった。ちなみに、結婚に反対しなくてよかったの?」

「父親としては反対したい気もするが……娘がいかにユージを想っているかは、今まで見てきたからな。反対すれば親子の縁を切られかねん。あれはああ見えて、一度決めたことは曲げんからな」


 確かに、駆け落ちされるよりは、結婚を認めてそばにいてもらいたい。
 それもまた親心だろうと共感した。
 俺の生暖かい視線に気づいたのか、王が俺を見て笑った。


「そういえば、そなたにも年頃の娘がいたのだったな。その見た目だから、忘れそうになる」

「ええ。お気持ち、お察しします」

「ふ、ありがとう」


 そう笑う王の顔には「お前にもいずれそんな日がくるぞ」と書いてあるような気がしたが、気のせいだと思うことにしよう。
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