娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち

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94 予想外の遭遇

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「……あら?」


 手をつないで歩くシャルロッテとロエナの前を歩いていた少女が、ふと後ろを振り向いた。
 そして、じっとシャルロッテを見つめたかと思えば、小さな声で「……やっぱり」と呟いた。

 ロエナがシャルロッテを背に庇い、少女に何か用があるのかと問いかける。
 少女は眉をひそめ、あからさまに不快そうな顔をした。
 見た目からして、貴族の子女だろう。
 平民の服装をしているロエナに話しかけられたことが嫌だったのだろう。


「平民の分際で、私に気軽に声をかけるなんて……生意気ではなくって?」


 まだシャルロッテよりも幼く見える子どもなのに、口ぶりはずいぶん大人びている。
 そばにいる少女の護衛らしき男が、こちらをキッと睨みつけた。

 ロエナは慌てる様子もなく「それはどうもすみませんね」と軽く謝罪した。
 少女は納得いかなかったようだが、ふんっと鼻を鳴らして標的を切り替える。


「なんとも失礼な方を連れていらっしゃるのね、シャルロッテ嬢」

「……え……」


 名前を呼ばれ、シャルロッテが身を固くする。
 目の前の少女が誰なのか記憶をたどっているらしいが、思い浮かぶ相手はいなかったようだ。


「あなたは……?」

「あら、覚えていらっしゃらないの?間抜けだっていう話は、本当でしたのね」


 少女は呆れたようにため息をついた。


「私はあなたの妹のカロリーナ嬢のお友だちですわ。お屋敷にお邪魔したとき、シャルロッテ嬢にもお会いしたことがありますのに……」

「……も、申し訳ありません」

「そんなことより、こんなところで何を?その平民どもは一体何ですの?」

「えっと……彼らは、その……」


 どう説明すればいいものか悩むシャルロッテに、少女が軽蔑の眼差しを向ける。


「もしかして、家出でもなさったの?」

「……」

「まあ、本当に?それで彼らといっしょにいるの?あなた、貴族としての誇りはないの?」


 やれやれといった調子で、少女が左右に首を振る。
 そして小馬鹿にしたように「これだから、教養のないものは」と吐き捨てた。
 

「こっちへいらっしゃい」


 少女が命令するような口調でシャルロッテに言う。


「家まで送って差し上げますわ」

「いえ、私は……」

「……平民と過ごす方がいいと?あなたのような方は知らないかもしれないけれど、貴族には貴族の義務というものがあるのよ」

「……義務?それはどんな?」


 少女の物言いに耐えかねて、ロエナが問いかける。
 少女はロエナを一瞥し、シャルロッテに視線を戻す。


「いったいどういう躾をしていますの?私の話を遮るなんて……ふう、まあいいわ。シャルロッテ嬢、貴族の娘に生まれたからには、家のためになる結婚をしなくてはならないのよ」

「け、結婚……ですか?」

「ええ。カロリーナ嬢に聞いているわ。あなた、成人したら北の辺境伯様の後妻になることが決まっているのでしょう?」

「北の辺境伯様……?」

「あら、ご存じなかったの?」


 北の辺境伯については、数日前シャルロッテの家庭教師による歴史の授業で習っていた。
 先の戦争で大きな武勲をあげた英雄だったはずだが、たしか彼は……。


「辺境伯は、もう50を超えているが?そこにまだ10歳のシャルが嫁ぐことになっているだと?」

「シャル?……ずいぶんなれなれしい……もしかして、あなた……」


 親しげなふたりの様子に、少女はよからぬ想像をしたらしい。


「あなたね、婚約者というものがありながら、そんな顔だけの男と……!困るのはあなたの家族や領地民なのよ?……早くこっちに来なさい!」


 声を荒げる少女に、シャルロッテは今にも倒れそうなほど顔を青くしている。
 限界だ。
 俺は深呼吸をして、少女の前に進み出た。
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