娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち

文字の大きさ
99 / 266

93 散策

しおりを挟む
 それから数日は、平和なものだった。


 ロエナがシャルロッテにと用意した教師から、俺と妻もいっしょにこの世界について学んだ。
 正直、事前にノアから必要な知識は叩き込まれていたから、改めて学ぶ必要はなかったが、シャルロッテが心細そうな顔をしていたので、同席することにした。

 机を並べて勉強していると、シャルロッテが「なんだか学校みたい」と嬉しそうに笑った。
 シャルロッテに憑依してからはもちろん、茜のころも病気になってからは入院している期間のほうが長く、学校にはほとんど通えていなかったらしい。
 少し寂しそうな顔をしたシャルロッテに、胸が痛んだ。

 それは様子を見に来ていたロエナも同じだったようだ。
 落ち着いたら学校へ通えるように手続きしましょう、とロエナがシャルロッテに提案すると、シャルロッテが目を輝かせた。


「学校へ行ったら、友だちもできますか?」

「ええ、きっといいお友だちができますよ」


 そう言ってロエナが笑うと、シャルロッテは紅潮した頬を両手でおさえた。
 まだ見ぬ友人を思い浮かべては、嬉しそうな顔をする。


「詩織も!詩織もシャルロッテちゃんのお友だちになる!」


 妻がそう言って手を挙げると、シャルロッテは目を丸くした。
 そして心底嬉しそうに「詩織ちゃん!仲良くしてね」と笑った。

 そんなふたりを、俺とロエナは微笑ましく眺めていた。


 ロエナが用意した教師は、初老の温和そうな紳士だった。
 継母を連想させないようにと、女性の教師は避けたのだと、あとになってロエナが教えてくれた。

 はじめは緊張していたシャルロッテも、すぐに教師に懐いたようだった。
 本人曰く、茜時代の小学校の担任に雰囲気が似ているらしい。
 茜の家庭環境を知り、両親に働きかけたり、茜の話を親身になって聞いてくれたりと、いい先生だったようだ。







 事件が起こったのは、ノアが姿を消して1週間ほど経った頃だった。

 街へ行ってみたいとのシャルロッテの希望を叶えるため、俺たちは城下町へ繰り出していた。
 さすがにお姫様を連れ出すわけにはいかないとロエナの同行は断ったのだが、見事な男装姿でついてきてしまった。
 随分慣れている様子を見るに、常習犯なのかもしれない。

 ロエナのそばには、護衛騎士が呆れた様子で立っている。


 ともに行動するのは、俺と妻、シャルロッテ、ロエナ、護衛騎士の5人。
 さらに数人の騎士が、距離を取って周りを固めている。
 これほど厳重であれば、ある程度のことは大丈夫だろう。

 ちなみにシャルロッテを虐待していたダルモーテ侯爵家の面々はすでに領地に戻ったらしい。
 街で鉢合わせてトラブルになることもないだろうと判断され、今回外出の許可がでたのだ。


「詩織ちゃん、みてみて!あっちにかわいいお店がある!」

「シャル!こっちのお菓子もおいしそうだよ!」


 この数日で、妻とシャルロッテは随分仲良くなった。
 ふたりできゃっきゃとはしゃぎながら、あっちへふらふら、こっちへふらふら歩き回っている。

 俺たちは保護者として、楽しそうなふたりのあとをついていく。


「羨ましくなりますね」


 そういったのは、ロエナだった。

 ロエナもシャルロッテと仲良くなろうと、このところ、時間を見つけてはシャルロッテの元を訪れていた。
 お茶会のあの日、ユージの話で盛り上がったこともあり、すぐに仲良くなれるとロエナは思っていたことだろう。
 しかしシャルロッテは、どうしても落ち着いた大人な雰囲気のロエナに継母を重ねてしまうようだ。
 ロエナが近づくと、反射的にシャルロッテは身を固くしてしまう。
 シャルロッテ自身もロエナと仲良くしたい様子なのだが、なかなかうまくいかないふたりに、見ている方がもどかしくなる。

 落ち込みつつも、シャルロッテのペースを尊重して無理強いしないロエナに、俺は同情しつつも感心していた。
 そして、ふとあることに気づいた。


「その格好なら、あまり警戒されないんじゃないですか?」


 シャルロッテは、大人の女性に恐怖心を抱いているようだった。
 男性に対する警戒心は女性に比べると低いようで、俺や護衛騎士と話すときはあまり緊張している様子はない。
 それに今のロエナの見た目は、かっこいいお兄さんにしかみえない。


「なるほど、一理ありますね。では、思い切って話し方も変えたほうがいいでしょうか?」

「より印象が変わるかもしれませんね」

「なら、遠慮なく。本当はこっちのほうが楽なんだ。姫のときは、周りの目を気にしなくてはならないからな」


 少し荒っぽい話しぶりは、普段のロエナからは想像がつかない。
 ニヤッと笑った姿は、ちょっと不良っぽくて、男の俺でもドキッとしてしまう。
 現に、待ちゆく女性たちの熱い視線をロエナが一身に集めている。


「シャルロッテ嬢、あんまりよそ見してると転ぶぞ!」


 ロエナの声に、シャルロッテが振り返る。
 そして少し驚いた顔をしつつも、笑顔を返した。
 いつものような硬い微笑みじゃなく、明るいひまわりのような笑顔だった。

 ロエナはそれが嬉しかったのか、シャルロッテに手を伸ばした。
 そして、はぐれないように手を繋ごうと提案する。
 いきなり攻めすぎているような気がしたが、シャルロッテはすんなりロエナの手をとった。


「姫様、お兄ちゃんみたいです」


 少し恥ずかしそうに、シャルロッテは言った。


「ユージともこうやって手を繋いだのか?」

「はい。迷子にならないようにって」

「ふふ、そうか。……今日は、姫様じゃなくて、ローって呼んでもらおうかな?」

「ロー?」

「そう。この格好で姫は変だろ?」

「たしかに。じゃあ、私のこともシャルって呼んでください!」

「いいのか?」

「はい!今日だけじゃなくて、姫様に戻ってもそう呼んでくれたら嬉しいです」

「わかった。そうしよう、シャル。今日は私のことを兄だと思ってくれていいぞ」


 そう言ったロエナは、この日一番の笑顔だった。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成
ファンタジー
「異世界転生して天下を統一したら元の世界に戻してあげる」 大学生の明彦(あきひこ)は火事で死亡した後、転生の女神にそう言われて異世界転生する。 だが転生したのはなんと14歳の女の子。しかも筋力1&武器装備不可! 降り立った場所は国は三国が争う中心地の激戦区で、頼みの綱のスキルは『相手の情報を調べる本』という攻撃力が皆無のサーチスキルというありさま。 とにかく生き延びるため、知識と口先で超弱小国オムカ王国に取り入り安全を確保。 そして知力と魅力を駆使――知力の天才軍師『諸葛孔明』&魅力の救国の乙女『ジャンヌ・ダルク』となり元の世界に戻るために、兵を率いたり謀略調略なんでもして大陸制覇を目指す!! ……のはずが、女の子同士でいちゃいちゃしたり、襲われたり、恥ずかしい目にあわされたり、脱がされたり、揉まれたり、コスプレしたり、男性相手にときめいたり、元カノ(?)とすれ違ったりと全然関係ないことを色々やってたり。 お風呂回か水着回はなぜか1章に1話以上存在したりします。もちろんシリアスな場面もそれなりに。 毎日更新予定。 ※過去に別サイトで展開していたものの加筆修正版となります。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

処理中です...