102 / 266
96 暗黙の了解
しおりを挟む
誤解も無事にとけ、散策の続きに戻るため、少女とは別れることにした。
少女は別れ際、シャルロッテの目を見つめて、優しく言った。
「あの……北の辺境伯様のことですが、確かにお年を召されていますが、優しいお方ですのよ。私も何度かお会いしたことがありますが、少なくとも、ダルモーテ侯爵家よりはあなたのことを大事にしてくださるはずよ」
「そうなのですか……?」
「ご存じないかもしれませんが、北の辺境伯様はシャルロッテ嬢の母君の遠縁にあたるお方。社交界に姿を見せないシャルロッテ嬢を心配なさっていると聞いています。婚約に気が進まないのであれば、侯爵様よりも辺境伯様に相談なさった方がいいかもしれないわ」
「あ、ありがとうございます……!」
少女はシャルロッテの異母妹であるカロリーナの友人だと名乗っていたため、これほどシャルロッテを気遣ってくれることは意外だった。
戸惑いつつもお礼を言うシャルロッテに、少女が笑いかける。
「私、時々カロリーナ嬢からあなたのお話を伺ってましたの。詳しくは話してくれませんでしたが、あなたにあまり良い感情を持っていないことは知っていたわ。……それに引っ張られて、失礼な言い方をして本当にごめんなさい」
「いえ、そんな……」
「あなたを屋敷でお見掛けして、カロリーナ嬢と待遇に差をつけられているのは一目でわかったわ。だからこそ、辺境伯様との婚姻は何としても進めた方がいいと思っていたのですが、侯爵様よりも高貴な方に保護されているのなら安心ね」
そして少女は、ロエナに向かってきれいなお辞儀をした。
「姫様、シャルロッテ嬢をどうかよろしくお願いいたします。私で助けになれることがございましたら、何なりとお申し付けくださいませ」
ロエナは少し目を丸くして、少女に顔を上げるように言った。
そして「ありがとう」と優しく微笑んだ。
※
「それにしても……変装には自信があったんだけどな」
大通りを歩きながら、ロエナが言った。
確かに、俺の目から見ても立派な男装だ。
事前に知っていなければ、今のロエナの姿を見て一国の姫だとは気づかないだろう。
しかし兵士や少女は、ロエナの正体を見事に見抜いた。
高貴な身分だということはわかっても、ロエナだと確信を持つのは難しいのではないだろうか?
「ローは有名人ですからね」
さらりと護衛騎士が言った。
「どういうことだ?」
「そのままの意味です。ローの耳には入っていないかもしれませんが、社交界では魅惑の貴公子として有名な噂になっておりますよ」
「……なっ!」
「街で見かけても、声をかけてお忍びの邪魔をしないようにとの暗黙の了解があるのです。現に、今もあちこちから生暖かい視線が送られております」
「……気づかなかった……」
どうやら、ロエナが男装して出歩いていることは、貴族の間では広く知られているらしい。
加えて、男装したロエナは国王にそっくりだ。
シャルロッテを保護しようと頭がいっぱいだった少女は気づくのが遅くなったようだが、気づかれるのも納得の状況だったようだ。
恥ずかしさから悶絶するロエナを見て、くすくすとシャルロッテが笑う。
ロエナはそんなシャルロッテの様子に、観念したのかあきらめたような笑みを浮かべた。
護衛騎士に向かって、小声で「そういうことは早く言え……!」と苦情を入れたのが小さく聞こえたことは、内緒にしておこう。
少女は別れ際、シャルロッテの目を見つめて、優しく言った。
「あの……北の辺境伯様のことですが、確かにお年を召されていますが、優しいお方ですのよ。私も何度かお会いしたことがありますが、少なくとも、ダルモーテ侯爵家よりはあなたのことを大事にしてくださるはずよ」
「そうなのですか……?」
「ご存じないかもしれませんが、北の辺境伯様はシャルロッテ嬢の母君の遠縁にあたるお方。社交界に姿を見せないシャルロッテ嬢を心配なさっていると聞いています。婚約に気が進まないのであれば、侯爵様よりも辺境伯様に相談なさった方がいいかもしれないわ」
「あ、ありがとうございます……!」
少女はシャルロッテの異母妹であるカロリーナの友人だと名乗っていたため、これほどシャルロッテを気遣ってくれることは意外だった。
戸惑いつつもお礼を言うシャルロッテに、少女が笑いかける。
「私、時々カロリーナ嬢からあなたのお話を伺ってましたの。詳しくは話してくれませんでしたが、あなたにあまり良い感情を持っていないことは知っていたわ。……それに引っ張られて、失礼な言い方をして本当にごめんなさい」
「いえ、そんな……」
「あなたを屋敷でお見掛けして、カロリーナ嬢と待遇に差をつけられているのは一目でわかったわ。だからこそ、辺境伯様との婚姻は何としても進めた方がいいと思っていたのですが、侯爵様よりも高貴な方に保護されているのなら安心ね」
そして少女は、ロエナに向かってきれいなお辞儀をした。
「姫様、シャルロッテ嬢をどうかよろしくお願いいたします。私で助けになれることがございましたら、何なりとお申し付けくださいませ」
ロエナは少し目を丸くして、少女に顔を上げるように言った。
そして「ありがとう」と優しく微笑んだ。
※
「それにしても……変装には自信があったんだけどな」
大通りを歩きながら、ロエナが言った。
確かに、俺の目から見ても立派な男装だ。
事前に知っていなければ、今のロエナの姿を見て一国の姫だとは気づかないだろう。
しかし兵士や少女は、ロエナの正体を見事に見抜いた。
高貴な身分だということはわかっても、ロエナだと確信を持つのは難しいのではないだろうか?
「ローは有名人ですからね」
さらりと護衛騎士が言った。
「どういうことだ?」
「そのままの意味です。ローの耳には入っていないかもしれませんが、社交界では魅惑の貴公子として有名な噂になっておりますよ」
「……なっ!」
「街で見かけても、声をかけてお忍びの邪魔をしないようにとの暗黙の了解があるのです。現に、今もあちこちから生暖かい視線が送られております」
「……気づかなかった……」
どうやら、ロエナが男装して出歩いていることは、貴族の間では広く知られているらしい。
加えて、男装したロエナは国王にそっくりだ。
シャルロッテを保護しようと頭がいっぱいだった少女は気づくのが遅くなったようだが、気づかれるのも納得の状況だったようだ。
恥ずかしさから悶絶するロエナを見て、くすくすとシャルロッテが笑う。
ロエナはそんなシャルロッテの様子に、観念したのかあきらめたような笑みを浮かべた。
護衛騎士に向かって、小声で「そういうことは早く言え……!」と苦情を入れたのが小さく聞こえたことは、内緒にしておこう。
12
あなたにおすすめの小説
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果
安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。
そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。
煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。
学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。
ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。
ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は……
基本的には、ほのぼのです。
設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる