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152 いつか元の世界で
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驚きの声を上げた奈央は、今度は堪えきれないという感じで笑い出した。
本人は抑えようとしているらしいが、難しいらしく、手で押さえた口元から笑い声が漏れている。
「……思い切り笑っても構わないよ」
「ふふ、ごめんごめん。なんか意外過ぎて、一周回って笑えてきちゃった」
楽しそうに笑う奈央に、連とラウル、妻は満足そうにしている。
そして今度は、少し先を歩く斎藤の方へそろって駆け出した。
俺はそれを確認し、小声で「ただ、妻はちょっと例外なんだ」と奈央に呟いた。
「例外?」
「うん。本当は俺と同じ年なんだけど、娘が行方不明になって……そのショックで、精神が幼くなっちゃったんだ」
「……え……?」
「異世界転移被害者の会で、旦那さんと会ったことがあるって言ったでしょ?うちはさ、娘が異世界に連れていかれちゃったんだ。それで娘を探して、こうして旅をしているんだよ」
「そうなんだ……。娘さんも、この世界に?」
「いや、違う世界にいるみたい」
ショックを受けた顔をしている奈央に、俺は大丈夫だというように微笑みかけた。
「娘のいる世界に直接行くと、向こうの神に気取られる可能性があるんだって。だから、ほかの世界を経由して痕跡をたどらせにくくする必要があるそうなんだ。……それで、経由する世界にいる転移者に、元の世界へ戻りたいかどうか聞いてくるよう頼まれたんだ」
「……それは……つらいわね。ごめんなさい。本当は私じゃなくて、娘さんを助けたかったでしょうに」
奈央はますます暗い顔になっていく。
俺は「娘には一分一秒でも早く会いたいけど」と前置きしたうえで続ける。
「それでも俺は、被害者の会でいろんな人の話を聞いて、うちの娘だけでなく、みんなの家族も無事に戻ってきてほしいと思ったんだ。だから、奈央さんや蓮くんたちにこうして会えたのは、素直にうれしい。……それに、俺はノアを信じているから。ノアは絶対に、俺たちを娘のもとへ連れて行ってくれる。だったら俺は、今の自分にできることを頑張ろうって決めてるんだ」
「……うん」
頷いた奈央が、その場に立ち止まる。
どうしたのかと、俺も続いて足を止めた。
奈央は俺をまっすぐ見つめ、深々と頭を下げた。
「ちょ、奈央さん……?」
戸惑う俺に、奈央は頭を下げたまま「本当にありがとうございます」と言った。
そしてパッと顔を上げる。
困ったように眉を下げつつも、奈央は優しく微笑んでいた。
「私は先に元の世界へ戻ることになると思うけど、伊月くんが娘さんたちと元の世界へ戻ってきたら、うちの人と一緒にお礼に伺うわね。向こうで会える日を楽しみにしているわ」
「……ありがとう」
「それで、うちの人……元気にしていた?」
遠慮気味に奈央が訊ねる。
どうやら彼女が一番聞きたかったことはこれだったようだ。
無理もないだろう。
ノアの見せた映像に映る亮介は、拳を血だらけにしてうなだれていた。
あんな姿を見て、不安にならないはずがない。
俺はにっこりと笑って「元気そうだったよ」と答えた。
「顔色もよかったし、怪我をしている様子もなかった。旦那さんは奈央さんのことを夢に見るって言ってたから、あの映像は現実じゃなくて夢の世界だったのかもしれない」
「……そっか」
「でも奈央さんのこと、すごく心配しているようだった」
「うん。……本当はね、もうあの人は私のこと、忘れちゃってるかもしれないって思ってたの。口下手で愛情表現なんてほとんどしてくれなかったから、私のことを本当に好きなのかちょっと疑問だったし。幼馴染の腐れ縁でなんとなく結婚しただけなんじゃないかって」
「幼馴染だったんだ?」
「そう。子どものころからずっといっしょにいたから、こんなに長い時間離れていたのって初めてなんだ。……この世界にきて、ずっと寂しくて、あの人が恋しくて……」
切なげな奈央の横顔は、異世界での奈央の孤独を物語っていた。
今まで見知らぬ世界の見知らぬ国の人々のため、誠心誠意尽くしてきた奈央の努力が少しは報われるような気がして、俺はなんだか胸が温かくなった。
本人は抑えようとしているらしいが、難しいらしく、手で押さえた口元から笑い声が漏れている。
「……思い切り笑っても構わないよ」
「ふふ、ごめんごめん。なんか意外過ぎて、一周回って笑えてきちゃった」
楽しそうに笑う奈央に、連とラウル、妻は満足そうにしている。
そして今度は、少し先を歩く斎藤の方へそろって駆け出した。
俺はそれを確認し、小声で「ただ、妻はちょっと例外なんだ」と奈央に呟いた。
「例外?」
「うん。本当は俺と同じ年なんだけど、娘が行方不明になって……そのショックで、精神が幼くなっちゃったんだ」
「……え……?」
「異世界転移被害者の会で、旦那さんと会ったことがあるって言ったでしょ?うちはさ、娘が異世界に連れていかれちゃったんだ。それで娘を探して、こうして旅をしているんだよ」
「そうなんだ……。娘さんも、この世界に?」
「いや、違う世界にいるみたい」
ショックを受けた顔をしている奈央に、俺は大丈夫だというように微笑みかけた。
「娘のいる世界に直接行くと、向こうの神に気取られる可能性があるんだって。だから、ほかの世界を経由して痕跡をたどらせにくくする必要があるそうなんだ。……それで、経由する世界にいる転移者に、元の世界へ戻りたいかどうか聞いてくるよう頼まれたんだ」
「……それは……つらいわね。ごめんなさい。本当は私じゃなくて、娘さんを助けたかったでしょうに」
奈央はますます暗い顔になっていく。
俺は「娘には一分一秒でも早く会いたいけど」と前置きしたうえで続ける。
「それでも俺は、被害者の会でいろんな人の話を聞いて、うちの娘だけでなく、みんなの家族も無事に戻ってきてほしいと思ったんだ。だから、奈央さんや蓮くんたちにこうして会えたのは、素直にうれしい。……それに、俺はノアを信じているから。ノアは絶対に、俺たちを娘のもとへ連れて行ってくれる。だったら俺は、今の自分にできることを頑張ろうって決めてるんだ」
「……うん」
頷いた奈央が、その場に立ち止まる。
どうしたのかと、俺も続いて足を止めた。
奈央は俺をまっすぐ見つめ、深々と頭を下げた。
「ちょ、奈央さん……?」
戸惑う俺に、奈央は頭を下げたまま「本当にありがとうございます」と言った。
そしてパッと顔を上げる。
困ったように眉を下げつつも、奈央は優しく微笑んでいた。
「私は先に元の世界へ戻ることになると思うけど、伊月くんが娘さんたちと元の世界へ戻ってきたら、うちの人と一緒にお礼に伺うわね。向こうで会える日を楽しみにしているわ」
「……ありがとう」
「それで、うちの人……元気にしていた?」
遠慮気味に奈央が訊ねる。
どうやら彼女が一番聞きたかったことはこれだったようだ。
無理もないだろう。
ノアの見せた映像に映る亮介は、拳を血だらけにしてうなだれていた。
あんな姿を見て、不安にならないはずがない。
俺はにっこりと笑って「元気そうだったよ」と答えた。
「顔色もよかったし、怪我をしている様子もなかった。旦那さんは奈央さんのことを夢に見るって言ってたから、あの映像は現実じゃなくて夢の世界だったのかもしれない」
「……そっか」
「でも奈央さんのこと、すごく心配しているようだった」
「うん。……本当はね、もうあの人は私のこと、忘れちゃってるかもしれないって思ってたの。口下手で愛情表現なんてほとんどしてくれなかったから、私のことを本当に好きなのかちょっと疑問だったし。幼馴染の腐れ縁でなんとなく結婚しただけなんじゃないかって」
「幼馴染だったんだ?」
「そう。子どものころからずっといっしょにいたから、こんなに長い時間離れていたのって初めてなんだ。……この世界にきて、ずっと寂しくて、あの人が恋しくて……」
切なげな奈央の横顔は、異世界での奈央の孤独を物語っていた。
今まで見知らぬ世界の見知らぬ国の人々のため、誠心誠意尽くしてきた奈央の努力が少しは報われるような気がして、俺はなんだか胸が温かくなった。
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