181 / 266
特別編(20)崩壊した日常
しおりを挟む
3つ下の弟の蓮を、佐々木は昔からよく可愛がっていた。
そのくらいの年の差なら喧嘩をすることも多いものだが、佐々木兄弟に関しては例外だった。
佐々木は自分を慕う弟が可愛くて仕方がなかったし、蓮は兄に憧れて反発することはなかった。
意見が衝突しそうになったら、大概の場合お互いが譲り合い、結果遠慮する弟の望みをかなえる形で佐々木が決着させることがほとんどだった。
蓮は昔からよく泣き、やんちゃなところはあるが、人を思いやる心を持つ優しい子どもだった。
だから斎藤だけでなく、斎藤の友人たちからも素直に受け入れられていた。
そんな平和な日常が崩れ去ったのは、蓮が桜吹雪の中から伸びてきた腕に引き込まれるように姿を消したときだった。
ともにその瞬間を目撃した友人たちといっしょに、佐々木は消えた蓮を探し回った。
しかしどこを探しても見つからない。
そもそも、蓮がいなくなったのは、見晴らしのいい開けた場所だった。
どこにも複数の人間が隠れられる場所などない。
当時は花見の最中で酒も入っていたことから、酔って見間違えたんだろうと思った。
友人たちも同意見だった。
しかしどれだけ探しても蓮が見つからず、連絡もつかない状態が続くにつれ、不安はどんどん大きくなっていった。
異世界転移。
その可能性を最初に口にしたのは、佐々木の友人の一人だった。
佐々木をはじめ、最初はだれも「ふざけている場合じゃないだろ」と相手にしなかった。
しかし当時仲間の一人が撮っていた動画に、確かにそこにいたはずの蓮の姿が一切映っていなかったことをきっかけに「まさか」という思いが佐々木の中で膨らんでいった。
蓮の行方がわからなくなってからすぐに、母親とともに警察に相談にいった。
しかし警察は「ただの家出だろう」とまともに取り合ってはくれなかった。
やんちゃ盛りの蓮は、確かに品行方正とは言えなかったし、友だちと夜遊びに繰り出すこともあった。
ただ、連絡もせずに家を空けたことは一度もない。
佐々木は警察でそう何度も訴えたが、結局「そのうち連絡がくるでしょう」と様子を見るよう勧められるだけだった。
蓮がいなくなってしばらくの間、佐々木は聞き込みなどを通して地道な捜索を続けていた。
蓮の交友関係を当たったり、SNSなどで情報を探ったりしてみたが、手掛かり一つ得られなかった。
そんな中で、どんどん膨らみ続けたのが「異世界転移」という言葉だった。
家出する理由もなく、事件や事故に巻き込まれた痕跡も見当たらない蓮。
そして酒に酔っていたとはいえ、あの日確かに見た蓮が攫われる瞬間。
もしかして、という疑いは次第に確信へと変わっていった。
それからまもなくして、佐々木は異世界転移被害者の会の立ち上げを決めたのだ。
仮に蓮が異世界転移したのであれば、同じような被害者がいる可能性がある。
同じ被害に遭った家族なら、蓮行方を追うための手掛かりとなる情報を持っているかもしれないと佐々木は思った。
そんな佐々木を、母親や友人たちはひどく心配した。
蓮が見つからないから、心を壊したのだと思ったのだろう。
怪しげな会を立ち上げるのではなく、少し療養したらどうかと提案された。
蓮の行方は、友人たちが協力して探し続けるからと。
しかし佐々木は首を縦にはふらず、被害者の会の活動に没頭していった。
異世界転移というワードの物珍しさからか、ホームページやSNSを通じて情報を求める佐々木のもとには多くの反響が寄せられた。
しかしそのほとんどは冷やかしや批判で、まともに話を取り合ってくれるものは少数だった。
ときには怪しげな宗教団体や自称霊能者、オカルト雑誌の記者なんかから連絡がくることもあった。
それでもたまに、本当の異世界転移被害者家族だと思われる者からのコンタクトがあった。
佐々木は一人一人からじっくりと話を聞き、信頼できるものだけを会員として認め、定期的に開催する被害者の会の会合に招待した。
そうして少しずつ会員は増えていったが、転移の場所やきっかけ、方法なんかはてんでバラバラで、蓮の行方を追う手掛かりを得ることはできずにいた。
やるせなさともどかしさに押しつぶされそうな日々の中、異世界転移被害者家族として佐々木にコンタクトを取ってきたのが、瀬野伊月という男だった。
そのくらいの年の差なら喧嘩をすることも多いものだが、佐々木兄弟に関しては例外だった。
佐々木は自分を慕う弟が可愛くて仕方がなかったし、蓮は兄に憧れて反発することはなかった。
意見が衝突しそうになったら、大概の場合お互いが譲り合い、結果遠慮する弟の望みをかなえる形で佐々木が決着させることがほとんどだった。
蓮は昔からよく泣き、やんちゃなところはあるが、人を思いやる心を持つ優しい子どもだった。
だから斎藤だけでなく、斎藤の友人たちからも素直に受け入れられていた。
そんな平和な日常が崩れ去ったのは、蓮が桜吹雪の中から伸びてきた腕に引き込まれるように姿を消したときだった。
ともにその瞬間を目撃した友人たちといっしょに、佐々木は消えた蓮を探し回った。
しかしどこを探しても見つからない。
そもそも、蓮がいなくなったのは、見晴らしのいい開けた場所だった。
どこにも複数の人間が隠れられる場所などない。
当時は花見の最中で酒も入っていたことから、酔って見間違えたんだろうと思った。
友人たちも同意見だった。
しかしどれだけ探しても蓮が見つからず、連絡もつかない状態が続くにつれ、不安はどんどん大きくなっていった。
異世界転移。
その可能性を最初に口にしたのは、佐々木の友人の一人だった。
佐々木をはじめ、最初はだれも「ふざけている場合じゃないだろ」と相手にしなかった。
しかし当時仲間の一人が撮っていた動画に、確かにそこにいたはずの蓮の姿が一切映っていなかったことをきっかけに「まさか」という思いが佐々木の中で膨らんでいった。
蓮の行方がわからなくなってからすぐに、母親とともに警察に相談にいった。
しかし警察は「ただの家出だろう」とまともに取り合ってはくれなかった。
やんちゃ盛りの蓮は、確かに品行方正とは言えなかったし、友だちと夜遊びに繰り出すこともあった。
ただ、連絡もせずに家を空けたことは一度もない。
佐々木は警察でそう何度も訴えたが、結局「そのうち連絡がくるでしょう」と様子を見るよう勧められるだけだった。
蓮がいなくなってしばらくの間、佐々木は聞き込みなどを通して地道な捜索を続けていた。
蓮の交友関係を当たったり、SNSなどで情報を探ったりしてみたが、手掛かり一つ得られなかった。
そんな中で、どんどん膨らみ続けたのが「異世界転移」という言葉だった。
家出する理由もなく、事件や事故に巻き込まれた痕跡も見当たらない蓮。
そして酒に酔っていたとはいえ、あの日確かに見た蓮が攫われる瞬間。
もしかして、という疑いは次第に確信へと変わっていった。
それからまもなくして、佐々木は異世界転移被害者の会の立ち上げを決めたのだ。
仮に蓮が異世界転移したのであれば、同じような被害者がいる可能性がある。
同じ被害に遭った家族なら、蓮行方を追うための手掛かりとなる情報を持っているかもしれないと佐々木は思った。
そんな佐々木を、母親や友人たちはひどく心配した。
蓮が見つからないから、心を壊したのだと思ったのだろう。
怪しげな会を立ち上げるのではなく、少し療養したらどうかと提案された。
蓮の行方は、友人たちが協力して探し続けるからと。
しかし佐々木は首を縦にはふらず、被害者の会の活動に没頭していった。
異世界転移というワードの物珍しさからか、ホームページやSNSを通じて情報を求める佐々木のもとには多くの反響が寄せられた。
しかしそのほとんどは冷やかしや批判で、まともに話を取り合ってくれるものは少数だった。
ときには怪しげな宗教団体や自称霊能者、オカルト雑誌の記者なんかから連絡がくることもあった。
それでもたまに、本当の異世界転移被害者家族だと思われる者からのコンタクトがあった。
佐々木は一人一人からじっくりと話を聞き、信頼できるものだけを会員として認め、定期的に開催する被害者の会の会合に招待した。
そうして少しずつ会員は増えていったが、転移の場所やきっかけ、方法なんかはてんでバラバラで、蓮の行方を追う手掛かりを得ることはできずにいた。
やるせなさともどかしさに押しつぶされそうな日々の中、異世界転移被害者家族として佐々木にコンタクトを取ってきたのが、瀬野伊月という男だった。
22
あなたにおすすめの小説
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果
安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。
そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。
煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。
学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。
ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。
ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は……
基本的には、ほのぼのです。
設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる