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181 変質
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突然現れた男に、妻がびくっと肩を震わせた。
妻をかばうようにロズが立ち上がると、サミューも俺のそばに控える。
黒ずくめの男は、俺たちに向かって一礼した後、魔王の足元にひざまずいた。
魔王が男に何か耳打ちすると、男は頷き、また影の中に消えていった。
「彼は?」
俺が問いかけると、魔王は「直属の諜報部隊のひとりだ」と答えた。
なんでも彼には影移動の能力があるらしく、陰のある場所を自由に行き来できるという。
それが本当であれば、確かに情報収集にもってこいの能力だといえる。
魔王は先ほどの男を娘のもとへ向かわせ、俺たちの話が本当か確かめさせることにしたらしい。
男が戻るのを待つあいだ、俺は気になっていることを魔王に訊ねることにした。
「詩織と柚乃は、よく似ているだろう?」
「ああ、そうだな」
「……ならばなぜ、お前以外の誰も二人の関係性を疑わないんだ?」
はじめて魔王城にきてから、疑問だったのだ。
妻と娘は、一目で親子だと分かるほど見た目がよく似ている。
それにもかかわらず、妻を見て娘と結びつける者が一人もいないことが不思議だった。
ノアが隠蔽魔法をかけたのかとも思ったが、そんなことをするのであれば、前もって教えてくれるだろう。
それならば、転移の際に娘の姿が大きく変化したのかもしれないと思っていた。
しかし魔王が妻と娘を混同したことから、それもまた誤りなのだとわかった。
魔王はじっと俺を見つめたあと、ポツリと「毒素の影響だ」と答えた。
「毒素?」
魔王領に充満している毒素が、人間の身体に悪影響を及ぼすことは知っている。
毒素に苦しむ娘を、魔王が救ってくれたこともアリーに聞いていた。
「……毒素の件では、娘が世話になったそうだな。感謝する。でも毒素の影響とはどういうことだ?」
感謝の意味を込めて頭を下げたあと、質問を続ける俺のことを、魔王は意外そうに見ていた。
どうしたのかと問うと「いや……」と言葉を濁される。
不審に思ったが、追求せずに質問の回答を待つ。
「この地の毒素は、我々魔族には全くの無害だが、人間にとっては命を脅かす危険のあるものだ。ユノも浄化の魔法道具を身に着けるまで、毒素の影響を受けて苦しんでいた」
「ああ」
「毒素は何も、体調不良だけを引き起こすものではない。長時間毒素にさらされ続けると、見た目に変化が起こることがある」
「娘の見た目にも変化が?」
「ああ。髪と目の色がそれぞれ変化した。初めて会ったころのユノは黒髪黒目だったが、今は白銀の髪に金の瞳になっている。保護した当初はユノの存在自体周知していなかったため、もともとの彼女の容姿を知るものは我を含め数名しかおらぬ」
魔王の説明は、筋が通っているように思える。
顔立ちがいくら似ていても、髪の色も目の色も違えば、大きく印象は異なるだろう。
ほかの者が気づかなくても無理はない。
ちなみに、浄化の魔法道具の効果をもってしても、すでに変化した髪と目の色は戻すことができなかったそうだ。
健康に問題がないことは定期的な診察で確認していると告げられ、安堵のため息がこぼれた。
「それに」
魔王が付け加える。
「貴殿らとユノでは、魔力の質が大きく異なる」
そう言い切った魔王の瞳には、わずかな動揺が見て取れた。
魔力の質は、遺伝に大きく由来するという。
そのため、魔力によって身内かどうか容易に区別できるのが一般的なのだそうだ。
俺が娘の親だといったとき、魔王が軽くあしらったのも、俺と娘の魔力がてんで別物だったせいなのかもしれない。
「それは転移者ゆえの理由かな」
疑問に答えたのは、ノアだった。
「柚乃ちゃんはこの世界の神の手によって転移したから、神の魔力が混ざりこんでいるんだろう。対して伊月くんと詩織ちゃんの場合、元の世界の神と僕が加護を与えているからね。それぞれ大きな力の影響を受け、魔力の質が変容してしまったんだと思うよ」
妻をかばうようにロズが立ち上がると、サミューも俺のそばに控える。
黒ずくめの男は、俺たちに向かって一礼した後、魔王の足元にひざまずいた。
魔王が男に何か耳打ちすると、男は頷き、また影の中に消えていった。
「彼は?」
俺が問いかけると、魔王は「直属の諜報部隊のひとりだ」と答えた。
なんでも彼には影移動の能力があるらしく、陰のある場所を自由に行き来できるという。
それが本当であれば、確かに情報収集にもってこいの能力だといえる。
魔王は先ほどの男を娘のもとへ向かわせ、俺たちの話が本当か確かめさせることにしたらしい。
男が戻るのを待つあいだ、俺は気になっていることを魔王に訊ねることにした。
「詩織と柚乃は、よく似ているだろう?」
「ああ、そうだな」
「……ならばなぜ、お前以外の誰も二人の関係性を疑わないんだ?」
はじめて魔王城にきてから、疑問だったのだ。
妻と娘は、一目で親子だと分かるほど見た目がよく似ている。
それにもかかわらず、妻を見て娘と結びつける者が一人もいないことが不思議だった。
ノアが隠蔽魔法をかけたのかとも思ったが、そんなことをするのであれば、前もって教えてくれるだろう。
それならば、転移の際に娘の姿が大きく変化したのかもしれないと思っていた。
しかし魔王が妻と娘を混同したことから、それもまた誤りなのだとわかった。
魔王はじっと俺を見つめたあと、ポツリと「毒素の影響だ」と答えた。
「毒素?」
魔王領に充満している毒素が、人間の身体に悪影響を及ぼすことは知っている。
毒素に苦しむ娘を、魔王が救ってくれたこともアリーに聞いていた。
「……毒素の件では、娘が世話になったそうだな。感謝する。でも毒素の影響とはどういうことだ?」
感謝の意味を込めて頭を下げたあと、質問を続ける俺のことを、魔王は意外そうに見ていた。
どうしたのかと問うと「いや……」と言葉を濁される。
不審に思ったが、追求せずに質問の回答を待つ。
「この地の毒素は、我々魔族には全くの無害だが、人間にとっては命を脅かす危険のあるものだ。ユノも浄化の魔法道具を身に着けるまで、毒素の影響を受けて苦しんでいた」
「ああ」
「毒素は何も、体調不良だけを引き起こすものではない。長時間毒素にさらされ続けると、見た目に変化が起こることがある」
「娘の見た目にも変化が?」
「ああ。髪と目の色がそれぞれ変化した。初めて会ったころのユノは黒髪黒目だったが、今は白銀の髪に金の瞳になっている。保護した当初はユノの存在自体周知していなかったため、もともとの彼女の容姿を知るものは我を含め数名しかおらぬ」
魔王の説明は、筋が通っているように思える。
顔立ちがいくら似ていても、髪の色も目の色も違えば、大きく印象は異なるだろう。
ほかの者が気づかなくても無理はない。
ちなみに、浄化の魔法道具の効果をもってしても、すでに変化した髪と目の色は戻すことができなかったそうだ。
健康に問題がないことは定期的な診察で確認していると告げられ、安堵のため息がこぼれた。
「それに」
魔王が付け加える。
「貴殿らとユノでは、魔力の質が大きく異なる」
そう言い切った魔王の瞳には、わずかな動揺が見て取れた。
魔力の質は、遺伝に大きく由来するという。
そのため、魔力によって身内かどうか容易に区別できるのが一般的なのだそうだ。
俺が娘の親だといったとき、魔王が軽くあしらったのも、俺と娘の魔力がてんで別物だったせいなのかもしれない。
「それは転移者ゆえの理由かな」
疑問に答えたのは、ノアだった。
「柚乃ちゃんはこの世界の神の手によって転移したから、神の魔力が混ざりこんでいるんだろう。対して伊月くんと詩織ちゃんの場合、元の世界の神と僕が加護を与えているからね。それぞれ大きな力の影響を受け、魔力の質が変容してしまったんだと思うよ」
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