娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち

文字の大きさ
205 / 266

182 待ちわびた瞬間

しおりを挟む
 魔王と話していて、軽い違和感を覚えた。
 当初魔王は俺たちを「貴様ら」と呼んでいたのに、さっきは「貴殿ら」と呼ばれた気がする。
 それに、俺たちを睨みつけるような視線もすっかり鳴りを潜めて、今はどこか気まずそうな視線を向けられているように感じていた。


「ところで」


 少し低い声で、ノアが言った。


「ここには、魔法陣が隠されているよね?それもものすごく強力なやつ」

「ああ」


 魔王はあっさり、ノアの言葉を認めた。
 俺は思わず、どこにそんなものが隠されているのかと辺りを見渡す。
 しかし、そんなものはどこにも見当たらない。
 戸惑っていると『隠匿の魔法が使われてる』とサミューが終えてくれた。
 この小屋を覆うほどの大きな魔法陣が、地面に描かれているのだそうだ。


「この小屋はそもそも、魔法陣の上に建てられたものだ。歴代魔王の手にも負えない脅威が訪れたとき、この場に封印できるようにな」

「……それ、言ってよかったのか?」

「いいも悪いも、そもそもこの程度では足止めもできないだろう」


 諦めたように言う魔王に「よくわかってるね」とノアが笑いかける。
 加えて「無理に使おうとしたら、壊してやろうと思ってたのに」なんて続けるのだから、恐ろしい限りだ。

 そこまで話したところで、先程の男が再び影の中から姿を現した。
 そういう能力だと理解していても、ビビってしまうのはどうしようもない。


「確認がとれました」

「……やはりな」


 魔王は男と短くやりとりをしたあと、俺たちに向かって頭を下げた。


「数々の非礼、心よりお詫びする」

「ということは、柚乃ちゃんの話と僕らの話が一致したのかな?」

「ああ。……すぐ彼女のもとへ案内しよう」


 魔王は立ち上がり、踵を返して歩き始めた。
 どうやら直々に連れて行ってくれるらしい。
 急な展開に戸惑いつつも、急いでそのあとを追う。

 道すがら、何人かの魔族とすれ違った。
 彼らは一様に、魔王と連れ立って歩いている俺たちに窺うような視線を向けてくる。


「え、皆様、どうされたんですか?!」


 俺たちの姿を目にとめたのか、後ろの方から慌てた様子でアリーが駆けつけてきた。
 俺たちが魔王に失礼でも働いたと思ったのか、俺たちと魔王を交互に見ておろおろしている。
 その様子を見る限り、俺たちをさらった魔王の作戦をアリーは知らずにいたようだ。


「心配はいらない。持ち場に戻れ」

「ですが……」

「彼らとはちょっとした縁があってな。賓客として過ごしてもらうことになった。連行しているわけではない。新しい部屋が決まったら知らせるから、後のことは頼む」


 魔王の言葉に、アリーがほっとしたように微笑んだ。
 そして「かしこまりました」と頭を下げる。

 俺たちの部屋は、娘の近くに改めて用意してくれるそうだ。
 ありがたく思いつつも、魔王と娘の部屋が隣だと聞いて、なんとも不快な気分になった。
 ずっと考えようにしているとある可能性が、現実味を帯びていくようで、頭をふっていやな想像を追い出す。


「伊月くん、さっきから百面相しているよ」


 ノアがくすくす笑いながら言う。
 だが仕方がないだろう。
 入ってくる情報が多すぎて、感情がごちゃまぜになっているのだ。

 ふと自分の手を見ると、小刻みに震えていた。
 娘にようやく会える喜びのためか、それとも漠然とした不安感のせいか。
 ぎゅっと拳を握りしめ、顔を上げる。

 目の前には、虹色の膜のようなもので覆われたゲートが佇んでいる。
 これが、以前アリーが話していた結界なのだろう。
 魔王が俺たち一人一人に手をかざすと、手の甲に文様が浮かび上がった。
 この文様が、結界の通行許可証の役割を果たすらしい。

 ゲートをくぐるとき、なんとも言えない抵抗のようなものを感じたが、そういう仕様なのだという。
 ちなみに、文様のない者は結界に触れた瞬間弾かれるそうだから、よくできている。


 結界を抜けてしばらく歩いた先は突き当りになっていて、ドアがふたつ並んでいた。
 左が魔王、そして右が娘の部屋だという。
 娘の部屋の前には、侍女だと名乗る落ち着いた雰囲気の女性が立っていた。

 そして俺たちを見て頭を下げると、扉越しに「お越しになりました」と声をかけた。
 中からは娘とは異なる女性の声で「どうぞ」と返事が聞こえる。
 それを確認してから、侍女はゆっくりと扉を開いた。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

処理中です...