娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち

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220 晩餐

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 その日はそのまま、みんなで夕食をとることになった。
 普段の夕食と比べるとずいぶん遅い時間だったが、魔王を待っていて食べ損ねていたのだ。

 神は遠慮していたが、女性陣に押し切られるようにして席に着き、気まずそうな顔をしている。
 それがなんとも、いたずらをして叱られた子どものそれに似ていて、俺はこっそり笑ってしまった。

 隠し部屋に隔離されているあいだは、いつ訪れるかわからない神の襲撃に備えて緊張していた。
 だからこそ、これほど和やかな食事は久しぶりだ。
 和気あいあいと盛り上がる食卓を眺めながら、俺は目を細める。

 娘が連れ去られたあの日から、どれほどこんな日を待ち望んだことだろう。
 にじみ出る涙を隠すようにぬぐうと、隣の席のノアが俺の肩を優しく叩いた。

 よく頑張ったね、とその瞳が雄弁に語りかけてくる。
 俺は苦笑して「これ以上涙腺を刺激しないでくれ」とノアに耳打ちした。
 ノアはふふっと楽しそうに笑い、ひらひらと手を振って答えた。


 食事も終わり、お茶を用意してもらったころ、俺は妻と顔を見合わせた。
 妻は淡く微笑み、こくりと頷く。
 俺も頷き返し、口を開いた。


「なあ、柚乃?」

「ん?なあに?」


 満腹で気分がいいのか、娘の口調は明るい。
 妊娠中で体調にばらつきはあるが、今日は「せっかくの食事会だから」とノアに回復魔法をかけてもらい、ずいぶん落ち着いているようだ。
 満腹になっても気分が悪くならないのは久しぶりだと話していたことから、おなかの中で子どもを育てることの苦労を改めて実感する。


「パパとママは、明日日本に戻るよ」


 穏やかな口調を意識しながら、娘に伝えた。
 これは食事会の前に、妻と話して決めたことだった。

 娘は想定外だったのか、戸惑った様子で「どうして?」と問いかける。


「この世界で、柚乃を守ってくれる人がたくさんいることがわかった。だから俺たちは、安心して向こうに帰れる」

「……でも、でももう少しくらい……っ」

「そうね、もう少しあなたのそばにいてあげたい」


 妻が答えると、娘は「だったら……」と声を上げたが、妻の顔を見て決断は覆らないと悟ったのだろう。
 悲し気に顔を伏せてしまった。


「それほどまでに急がなくてもよいのではないか?部屋はこのまま隠し部屋を使ってくれて構わないし、不満があれば別の部屋を用意させよう」


 困り顔で魔王が提案した。
 サーシャも「不安定な時期だ。両親がそばにいてくれると、ユノも安心だろう」と援護する。

 しかし俺と妻は、そろって首を横に振った。


「ありがたい申し出だが、遠慮させてもらうよ」

「確かに、妊娠中の娘をおいていくのは心配だわ。でも、ノアくんがくれた鍵があれば、様子を見に来ることもできるしね」

「しかしっ」


 引き留める魔王に、俺はふっと微笑んでみせる。


「娘のことは、君に任せる。何かあれば、すぐに鍵を使って知らせてほしい」


 俺たちの意志が固いことがわかったのか、魔王は曇り顔ながら了承してくれた。
 俺と妻は、サーシャと神にも改めて「娘をお願いします」と頭を下げる。

 サーシャは納得がいかないようで「心配なら残ればいいものを」と眉をひそめた。
 妻はその言葉に頷きながらも、微笑んで続ける。


「向こうで、帰りを待っている人がいるの」

「……帰りを?」

「ええ。娘を探しに行く私たちを見送り、状況も知らないまま待ち続けてくれている母に、早く娘の無事を知らせてあげたいの」


 その言葉に、サーシャは目を見開いた。
 そして申し訳なさそうに眉を下げる。


「……それは……気づかなくて申し訳ない。早く知らせてやるべきだ。ユノのことは、こちらに任せてほしい」


 サーシャの言葉に、妻はにっこりと笑ってみせた。
 娘は「おばあちゃん……」と瞳に涙を浮かべている。

 妻は娘に向かって「おばあちゃんも、すごく心配していたのよ」と笑いかけた。


「そう、異世界転移被害者の会を見つけてくれたのも、お義母さんだったしな」


 俺が付け加えると、娘は驚いた顔をした。
 そしてしばしの沈黙のあと、気合を入れるように自身の頬を軽く叩く。


「……わがまま言ってごめん。いつまでもおばあちゃんを待たせるわけにはいかないもんね」


 そう言って笑った娘は、晴れやかな表情をしていた。
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