私は《悪役令嬢》の役を降りさせて頂きます

・めぐめぐ・

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(死んだ……のかしら? ということは、ここは死後の世界?)

 思い出した記憶はショックではあったが、冷静に受け入れているのは、死んで自分を客観視できているからだろうか。
 そう思った時、

『また戻って来たね、アンティローゼ』
「だ、誰⁉」

 突然降って来た男性の声に、私は驚いて周囲を見回した。もちろん闇の世界に変化はなく、声の主を見つけることはできない。

 しかし、向こうには私の姿が見えているのだろう。耳の奥をくすぐるような笑い声が空間に響き渡った。

『あははっ、安心して、俺は君の味方だよ。それにしても今回も大変だったね。机の角に頭をぶつけて死ぬなんて。ま、前回あった、ルシアに飛びかかってエリオットに切り捨てられる結末よりかは、まだマシかな?』
「……え? 切り捨てられる……結末?」

 男の言っている意味が分からなかった。
 自分の死を落ち着いた気持ちで受け入れていたのに、一気に脳内が疑問符で一杯になった。

 彼が呆れ声をあげる。

「前回死んだとき、ちゃんと説明したんだけど忘れちゃったのか? 君は恋愛小説の登場人物なんだよ? この世界は全て物語の世界ってわけ」

 声の主は全てを説明してくれた。

 この世界は《全ての愛を君に》という物語なのだという。
 登場人物である私たちが決して気づくことはないのだが、私たちの生活を覗く、いや読む外の者たち――《読者》という存在がたくさんいるのだという。彼らの期待や希望が、私たち登場人物に影響を与えるのだ。

 そして私は今、《悪役令嬢》という女性主人公を虐める立場にある。
 お相手となる男性と女性主人公の邪魔をする、いわば当て馬的な役であり、最後には溜まりに溜まった《読者》からの憎しみや苛立ちを、断罪という形で解放する役目があるのだという。

 始めは信じられなかったが、声の主の説明に触発されたのか、今まで何度も繰り返され続けて来た断罪のシーンが脳内に蘇ったことで、受け入れざるを得なくなった。

 時には処刑され、時には殿下の手によって殺され。
 追放されて野垂れ死に、娼館に売られて死ぬまで男たちの慰み者にされ。

 どれもこれも酷い結末だった。
 声の主が、頭を打って死んだ結末がマシだと言った理由が理解できた。

「……酷すぎる、こ、こんなことって……」
 
 私は顔を手で覆った。
 
 確かに私の行動は《読者》にとって、娯楽のようなものかもしれない。

 しかし、私は本気だった。

 全てエリオット様を愛し取り返したいと思っていたこそ、起こした行動だったはずだった。
 それなのに……

「分かるよ、アンティローゼ。俺も酷すぎると思う。愛する人を奪われた被害者である君が何故、《悪役令嬢》の役をしなければならないんだろうってね」
 
 私の気持ちに共感するように、男の声がとても優しくなった。

「しかし残念ながら《読者》には主人公の一面しか読むことしかできない。誰も《悪役令嬢》側の気持ちや事情など知らないんだ。今、君が悪役令嬢なのは、《読者》が《君》を《悪役令嬢》だと思っているから。彼らが君に《悪役令嬢》の役目を望み、期待する限り、繰り返される悲劇は終わらない。大切な者を奪われ、死ぬ結末は変わらないんだ」
「ど、どうすれば、いいの? どうすれば……」
「……良く思い出して。君が今までルシアにやってきたことを。客観的に見て許される行為だと思う?」

 私は記憶を探った。

 ルシアには、嫉妬心からありとあらゆる嫌がらせをした。

 持ち物を隠すなんて日常茶飯事。
 悪い噂を流したり、階段から突き落とそうとしたり、一度は、ならず者を雇って襲わせようともした。

 ……普通に考えても、常軌を逸している。
 私から見ても、完全に悪役の行動だった。

 同時に自身の幼さ、愚かさが恥ずかしくて堪らなくなった。
 エリオット様だって、私がこんなことをしていたと知ったら、ルシアに心を奪われているとか関係なく、嫌悪を露わにされ、私との関係を見直されることだろう。

 私の心境を察したのか、声の主が苦笑いをした、ように思えた。

「そういうことだよ。《読者》は、君が愛深き故に行った行為に同情しなかった。むしろ悪役である君への憎しみを強め、最後断罪されてスッキリし、《悪役令嬢》に虐げられたルシアの幸せを見たいと思った。だから君は《読者》の希望に知らず知らずのうちに応え、《悪役令嬢》として行動し、破滅に至ったというわけだ」

 彼の言いたいことは良く分かった。
 私は、自分で自分の首を絞めていたわけだ。
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