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その時、身体が急に何かに引き伸ばされるような感覚が襲った。
だけど、この感覚は何度も経験している。
新たな物語が始まる際に、起こる現象だったはず。
「ああ、時間が来たようだね。君はまた学園入学時に戻され、新たな物語が始まる。でも、悲劇を回避するために君がすべきことがなにか、もう分かっているよね?」
「……ええ。私はできる限り《読者》の憎しみを集めないようにしなければならない。《悪役令嬢》として期待されるような行動をしてはならない。そうね?」
「ああ、その通りだ。聡明なアンティローゼ」
私の名を呼ぶ声は、優しさに満ちていた。
彼の言葉に、どこか懐かしさを覚える。昔よく感じていた、だけど久しく感じていなかった懐かしさが、胸の奥を締め付けた。
しかし理由を知る前に、彼の言葉が思考を遮った。
「俺の大好きだった《全ての愛を君に》の世界を正しい結末に……君を――に――」
声が遠く、はっきりと聞こえなくなる。
しかし最後に告げた彼の声は、どこか泣きそうだった。
私の意識はここで途切れてしまった。
*
気が付いたら、私は鏡台の前に座っていた。
私の後ろには誰かがいて、長い金色の髪をくしで梳かしている。
「今日は、アンティローゼ様の入学式ですわね。殿下と送られる学園生活は、きっと楽しいものになるでしょう」
心の底から楽しそうに言いながら私の髪を整える侍女。
どうやら、
(……戻ってきたのね、入学式の日に)
不可思議な現象を、自然と受け入れていた。
だって、もう何度も繰り返してきた光景だったから。
入学式の時、こうやって楽しそうに髪を梳かしてくれた侍女が、次第に暗く沈んだ声へと変わり、最後は無言で身支度を手伝ってくれていたのを思い出す。
夢であればいいと、今でも思う。
私の幻想であれば、どれだけ良かったことか。
お出かけのご用意をします、と告げて侍女が部屋を出ると、私一人になった。綺麗に整えられた鏡の中の自分を見つめながら、今まで繰り返してきた悲劇を、暗闇の中で私に生き残る助言をくれた彼の声を思い出す。
(この世界は物語。そして私は……《悪役令嬢》)
立ち上がると、窓から外を見た。
今この瞬間も《読者》という存在が、私を見ているのだろうか。
いや、主人公であるルシアの物語を追っているのかもしれない。
でも、どちらでもいい。
「……もう、あなたたちの思惑には乗らない。私は、《悪役令嬢》の役を降りさせて頂くわ」
《読者》という神に等しい存在を思い、私は窓枠を掴む手に力を入れた。
だけど、この感覚は何度も経験している。
新たな物語が始まる際に、起こる現象だったはず。
「ああ、時間が来たようだね。君はまた学園入学時に戻され、新たな物語が始まる。でも、悲劇を回避するために君がすべきことがなにか、もう分かっているよね?」
「……ええ。私はできる限り《読者》の憎しみを集めないようにしなければならない。《悪役令嬢》として期待されるような行動をしてはならない。そうね?」
「ああ、その通りだ。聡明なアンティローゼ」
私の名を呼ぶ声は、優しさに満ちていた。
彼の言葉に、どこか懐かしさを覚える。昔よく感じていた、だけど久しく感じていなかった懐かしさが、胸の奥を締め付けた。
しかし理由を知る前に、彼の言葉が思考を遮った。
「俺の大好きだった《全ての愛を君に》の世界を正しい結末に……君を――に――」
声が遠く、はっきりと聞こえなくなる。
しかし最後に告げた彼の声は、どこか泣きそうだった。
私の意識はここで途切れてしまった。
*
気が付いたら、私は鏡台の前に座っていた。
私の後ろには誰かがいて、長い金色の髪をくしで梳かしている。
「今日は、アンティローゼ様の入学式ですわね。殿下と送られる学園生活は、きっと楽しいものになるでしょう」
心の底から楽しそうに言いながら私の髪を整える侍女。
どうやら、
(……戻ってきたのね、入学式の日に)
不可思議な現象を、自然と受け入れていた。
だって、もう何度も繰り返してきた光景だったから。
入学式の時、こうやって楽しそうに髪を梳かしてくれた侍女が、次第に暗く沈んだ声へと変わり、最後は無言で身支度を手伝ってくれていたのを思い出す。
夢であればいいと、今でも思う。
私の幻想であれば、どれだけ良かったことか。
お出かけのご用意をします、と告げて侍女が部屋を出ると、私一人になった。綺麗に整えられた鏡の中の自分を見つめながら、今まで繰り返してきた悲劇を、暗闇の中で私に生き残る助言をくれた彼の声を思い出す。
(この世界は物語。そして私は……《悪役令嬢》)
立ち上がると、窓から外を見た。
今この瞬間も《読者》という存在が、私を見ているのだろうか。
いや、主人公であるルシアの物語を追っているのかもしれない。
でも、どちらでもいい。
「……もう、あなたたちの思惑には乗らない。私は、《悪役令嬢》の役を降りさせて頂くわ」
《読者》という神に等しい存在を思い、私は窓枠を掴む手に力を入れた。
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