7 / 12
7
しおりを挟む
「では今度は私からお聞きいたします。殿下。将来、国を背負ってたつ御方が女にうつつを抜かし、挙句の果てに女の嘘を鵜呑みにして、このような場で己の無能を晒すなど……これら醜態を見た者たちが、あなたを信頼し、ついて来るとお思いか⁉」
「そ、それは……」
殿下が言い淀んでいる。
しかし私は彼の言葉を待たず、エリオット様を盾にするように隠れているルシアに鋭い視線を向けた。
「そしてルシア。あなたが殿下の寵愛を得たのをいいことに、好き勝手振舞っていたと聞いています。権力を笠に身勝手にふるまう者が、仮に殿下が御認めになっても、皆があなたを王妃として認めてくれると思っているのですか? 将来の王妃としてこの国を支えていけると思いますか⁉」
私たちを取り囲む者たちが、大きく頷いている。
皆が、私の味方だった。
私は、両手を広げて周囲を見回した。そして視線を上に向けながら言葉を続ける。
そう。
この瞬間なら、主人公であるルシアの一面だけを追っている《読者》に、私の言葉が届いているはず。
この場にいる皆が、殿下とルシアの行動をおかしいと思っているのだ。《読者》にそれが伝わらないわけがない。
「殿下、私と婚約破棄をなさっても結構です。元々は、国益のために結ばれた縁談。ルシアと結ばれることで更なる国の発展が望めるなら、私は喜んで身を引きましょう。しかし、この状況が本当に国にとって最善といえるのでしょうか? 私にはそうは思えません。恐らくここにいる皆がそう思っているでしょう。本当にルシアと結ばれたいのであれば、皆があなたたち二人を認める筋の通った方法をとるべきでした。こんな方法、ただワガママを無理やり押し通そうとしているようにしか思えません!」
「黙れ、アンティローゼっ‼ 国などもうどうでもいい! 私はルシアと結ばれさえすればそれでいいんだっ‼」
殿下の瞳が怪しく光った。
どう考えても、正気を保った瞳ではなかった。いつも優しく輝いていた黒い瞳から正気の光が失せ、何かに操られているかのように虚ろになっている。
ようやく私は理解した。
殿下は心変わりしたのではない。
何かに――いや、ルシアによって操られているのではないかと。
殿下の手がゆっくりと、腰に差している剣に触れる。
別の物語で、彼に切られた記憶が蘇り私は身体を硬直させた。
しかし、ここで引くわけにはいかなかった。
操られていると分かったのなら尚更。
「殿下、どうか目を覚ましてくださいっ! 国と民を第一に考えていた聡明でお優しい殿下に、どうかお戻りくださいっ‼ あなたが正気に戻るなら、私は喜んでこの命を捧げましょうっ‼」
両手を広げ、振り下ろされる剣先を身に受けようとした時、殿下の手が止まった。
剣を上に掲げたまま、両腕を震わせながら、私を見つめている。
黒い瞳に光が戻り、目尻から涙が溢れていた。
「あ、あんてぃ……ろーぜ……」
「え、エリオット……様?」
殿下の名を呼んだ瞬間、
「エリオット様っ‼」
ルシアの金切り声が響きわたった。
殿下の瞳から光がなくなった。剣を掲げる両手から震えが止まり、光のない瞳が私を捉える。
(もう……駄目だ)
今回も失敗だった。
でも次はあるのだろうか?
分からなかった。
ただ心に浮かんだのは、
(エリオット様、ごめんなさい……あなたを救うことができなかった……でも、あなたの心が変わったわけではなかったと知れただけでも良かったです。私はずっと、あなたを愛しています)
どれだけ打ち消そうとしても消えなかった、エリオット様への想い。
政略結婚でも、ともに愛を育んでいこうと仰ってくださった、優しい微笑み。
死を受け入れ、微笑んだ時、
「殿下、ご無礼をどうかお許しくださいっ‼」
そう叫ぶ親友ミシェルの声が響き渡ったかと思うと、眩い光がホール一面を一杯にした。
目の前が真っ白になり、そのまま私は気を失った。
「そ、それは……」
殿下が言い淀んでいる。
しかし私は彼の言葉を待たず、エリオット様を盾にするように隠れているルシアに鋭い視線を向けた。
「そしてルシア。あなたが殿下の寵愛を得たのをいいことに、好き勝手振舞っていたと聞いています。権力を笠に身勝手にふるまう者が、仮に殿下が御認めになっても、皆があなたを王妃として認めてくれると思っているのですか? 将来の王妃としてこの国を支えていけると思いますか⁉」
私たちを取り囲む者たちが、大きく頷いている。
皆が、私の味方だった。
私は、両手を広げて周囲を見回した。そして視線を上に向けながら言葉を続ける。
そう。
この瞬間なら、主人公であるルシアの一面だけを追っている《読者》に、私の言葉が届いているはず。
この場にいる皆が、殿下とルシアの行動をおかしいと思っているのだ。《読者》にそれが伝わらないわけがない。
「殿下、私と婚約破棄をなさっても結構です。元々は、国益のために結ばれた縁談。ルシアと結ばれることで更なる国の発展が望めるなら、私は喜んで身を引きましょう。しかし、この状況が本当に国にとって最善といえるのでしょうか? 私にはそうは思えません。恐らくここにいる皆がそう思っているでしょう。本当にルシアと結ばれたいのであれば、皆があなたたち二人を認める筋の通った方法をとるべきでした。こんな方法、ただワガママを無理やり押し通そうとしているようにしか思えません!」
「黙れ、アンティローゼっ‼ 国などもうどうでもいい! 私はルシアと結ばれさえすればそれでいいんだっ‼」
殿下の瞳が怪しく光った。
どう考えても、正気を保った瞳ではなかった。いつも優しく輝いていた黒い瞳から正気の光が失せ、何かに操られているかのように虚ろになっている。
ようやく私は理解した。
殿下は心変わりしたのではない。
何かに――いや、ルシアによって操られているのではないかと。
殿下の手がゆっくりと、腰に差している剣に触れる。
別の物語で、彼に切られた記憶が蘇り私は身体を硬直させた。
しかし、ここで引くわけにはいかなかった。
操られていると分かったのなら尚更。
「殿下、どうか目を覚ましてくださいっ! 国と民を第一に考えていた聡明でお優しい殿下に、どうかお戻りくださいっ‼ あなたが正気に戻るなら、私は喜んでこの命を捧げましょうっ‼」
両手を広げ、振り下ろされる剣先を身に受けようとした時、殿下の手が止まった。
剣を上に掲げたまま、両腕を震わせながら、私を見つめている。
黒い瞳に光が戻り、目尻から涙が溢れていた。
「あ、あんてぃ……ろーぜ……」
「え、エリオット……様?」
殿下の名を呼んだ瞬間、
「エリオット様っ‼」
ルシアの金切り声が響きわたった。
殿下の瞳から光がなくなった。剣を掲げる両手から震えが止まり、光のない瞳が私を捉える。
(もう……駄目だ)
今回も失敗だった。
でも次はあるのだろうか?
分からなかった。
ただ心に浮かんだのは、
(エリオット様、ごめんなさい……あなたを救うことができなかった……でも、あなたの心が変わったわけではなかったと知れただけでも良かったです。私はずっと、あなたを愛しています)
どれだけ打ち消そうとしても消えなかった、エリオット様への想い。
政略結婚でも、ともに愛を育んでいこうと仰ってくださった、優しい微笑み。
死を受け入れ、微笑んだ時、
「殿下、ご無礼をどうかお許しくださいっ‼」
そう叫ぶ親友ミシェルの声が響き渡ったかと思うと、眩い光がホール一面を一杯にした。
目の前が真っ白になり、そのまま私は気を失った。
219
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に相応しいエンディング
無色
恋愛
月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。
ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。
さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。
ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。
だが彼らは愚かにも知らなかった。
ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。
そして、待ち受けるエンディングを。
平手打ちされたので、婚約破棄宣言に拳でお答えしました
Megumi
恋愛
婚約破棄を告げられ、婚約者に平手打ちされた——その瞬間。
伯爵令嬢イヴの拳が炸裂した。
理不尽に耐える淑女の時代は、もう終わり。
これは“我慢しない令嬢”が、これまでの常識を覆す話。
酔って婚約破棄されましたが本望です!
神々廻
恋愛
「こ...んやく破棄する..........」
偶然、婚約者が友達と一緒にお酒を飲んでいる所に偶然居合わせると何と、私と婚約破棄するなどと言っているではありませんか!
それなら婚約破棄してやりますよ!!
悪役令嬢ですが、今日も元婚約者とヒロインにざまぁされました(なお、全員私を溺愛しています)
ほーみ
恋愛
「レティシア・エルフォード! お前との婚約は破棄する!」
王太子アレクシス・ヴォルフェンがそう宣言した瞬間、広間はざわめいた。私は静かに紅茶を口にしながら、その言葉を聞き流す。どうやら、今日もまた「ざまぁ」される日らしい。
ここは王宮の舞踏会場。華やかな装飾と甘い香りが漂う中、私はまたしても断罪劇の主役に据えられていた。目の前では、王太子が優雅に微笑みながら、私に婚約破棄を突きつけている。その隣には、栗色の髪をふわりと揺らした少女――リリア・エヴァンスが涙ぐんでいた。
ただの婚約破棄なんてため息しか出ませんわ
アキナヌカ
恋愛
私、ユディリーア・パヴォーネ・スカラバイオスは、金の髪に美しい蒼い瞳を持つ公爵令嬢だ。だが今は通っていた学園の最後になる記念の舞踏会、そこで暇を持て余して公爵令嬢であるのに壁の花となっていた。それもこれも私の婚約者である第一王子が私を放っておいたからだった、そして遅れてやってきたヴァイン様は私との婚約破棄を言いだした、その傍には男爵令嬢がくっついていた、だが私はそんな宣言にため息をつくことしかできなかった。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる