私は《悪役令嬢》の役を降りさせて頂きます

・めぐめぐ・

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「では今度は私からお聞きいたします。殿下。将来、国を背負ってたつ御方が女にうつつを抜かし、挙句の果てに女の嘘を鵜呑みにして、このような場で己の無能を晒すなど……これら醜態を見た者たちが、あなたを信頼し、ついて来るとお思いか⁉」
「そ、それは……」

 殿下が言い淀んでいる。
 しかし私は彼の言葉を待たず、エリオット様を盾にするように隠れているルシアに鋭い視線を向けた。

「そしてルシア。あなたが殿下の寵愛を得たのをいいことに、好き勝手振舞っていたと聞いています。権力を笠に身勝手にふるまう者が、仮に殿下が御認めになっても、皆があなたを王妃として認めてくれると思っているのですか? 将来の王妃としてこの国を支えていけると思いますか⁉」

 私たちを取り囲む者たちが、大きく頷いている。
 皆が、私の味方だった。

 私は、両手を広げて周囲を見回した。そして視線を上に向けながら言葉を続ける。
 
 そう。
 この瞬間なら、主人公であるルシアの一面だけを追っている《読者》に、私の言葉が届いているはず。

 この場にいる皆が、殿下とルシアの行動をおかしいと思っているのだ。《読者》にそれが伝わらないわけがない。

「殿下、私と婚約破棄をなさっても結構です。元々は、国益のために結ばれた縁談。ルシアと結ばれることで更なる国の発展が望めるなら、私は喜んで身を引きましょう。しかし、この状況が本当に国にとって最善といえるのでしょうか? 私にはそうは思えません。恐らくここにいる皆がそう思っているでしょう。本当にルシアと結ばれたいのであれば、皆があなたたち二人を認める筋の通った方法をとるべきでした。こんな方法、ただワガママを無理やり押し通そうとしているようにしか思えません!」
「黙れ、アンティローゼっ‼ 国などもうどうでもいい! 私はルシアと結ばれさえすればそれでいいんだっ‼」

 殿下の瞳が怪しく光った。
 どう考えても、正気を保った瞳ではなかった。いつも優しく輝いていた黒い瞳から正気の光が失せ、何かに操られているかのように虚ろになっている。

 ようやく私は理解した。
 殿下は心変わりしたのではない。

 何かに――いや、ルシアによって操られているのではないかと。

 殿下の手がゆっくりと、腰に差している剣に触れる。

 別の物語で、彼に切られた記憶が蘇り私は身体を硬直させた。
 しかし、ここで引くわけにはいかなかった。

 操られていると分かったのなら尚更。

「殿下、どうか目を覚ましてくださいっ! 国と民を第一に考えていた聡明でお優しい殿下に、どうかお戻りくださいっ‼ あなたが正気に戻るなら、私は喜んでこの命を捧げましょうっ‼」

 両手を広げ、振り下ろされる剣先を身に受けようとした時、殿下の手が止まった。
 剣を上に掲げたまま、両腕を震わせながら、私を見つめている。

 黒い瞳に光が戻り、目尻から涙が溢れていた。

「あ、あんてぃ……ろーぜ……」
「え、エリオット……様?」

 殿下の名を呼んだ瞬間、

「エリオット様っ‼」

 ルシアの金切り声が響きわたった。
 殿下の瞳から光がなくなった。剣を掲げる両手から震えが止まり、光のない瞳が私を捉える。

(もう……駄目だ)

 今回も失敗だった。
 でも次はあるのだろうか?

 分からなかった。
 ただ心に浮かんだのは、

(エリオット様、ごめんなさい……あなたを救うことができなかった……でも、あなたの心が変わったわけではなかったと知れただけでも良かったです。私はずっと、あなたを愛しています)

 どれだけ打ち消そうとしても消えなかった、エリオット様への想い。
 政略結婚でも、ともに愛を育んでいこうと仰ってくださった、優しい微笑み。

 死を受け入れ、微笑んだ時、

「殿下、ご無礼をどうかお許しくださいっ‼」

 そう叫ぶ親友ミシェルの声が響き渡ったかと思うと、眩い光がホール一面を一杯にした。
 目の前が真っ白になり、そのまま私は気を失った。
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