虚弱体質で偽聖女だと追放された私は、隣国でモフモフ守護獣様の白き聖女になりました

・めぐめぐ・

文字の大きさ
35 / 44

第35話 祖国にて5(別視点)

しおりを挟む
 オズベルトは、婚約者であるキアラの元に向かっていた。

 ここ最近、美しい婚約者とはずっと会えずにいた。

 その理由はいつも体調不良。
 何度か見舞いを申し出たが、ことごとく断られていた。

 当初はそれほど体調が悪いのかと心配していたのだが、これだけ立て続けに断られると、心配よりも怒りが沸いてきた。

(私の申し出を断るなど……)

 何一つ不自由なことはなく、思うがまま与えられてきたオズベルトにとって、思うように物事が進まないことはあり得なかったのだ。

 供儀には出ているようで、それもオズベルトが怒りを抱く要因となっていた。

 シィに力を与えられるのに、何故王太子である自分とは会えないのか。確かに守護獣は偉大だが、自分はいずれこの国の王となる。ないがしろにするなど、不敬にもほどがある。

 だから今日は、あえて自分の訪問は告げずにいた。

 部屋の前につき、キアラにオズベルトの訪問を伝えようとした神官を手で制すると、オズベルトはキアラの部屋に飛び込んだ。
 部屋に入るときは必ず許可をとるよう、命令されていた神官にとって、止める間もない一瞬の出来事だった。

「きゃぁっ!」

 キアラの甲高い悲鳴が部屋に響くが、オズベルトはお構いなしに中へと進んでいった。

 キアラはベッドにいた。
 突然の侵入者に驚いたのだろう。ベッドの端に身を寄せ、頭から毛布を被っていた。

 自分をぞんざいに扱っていた婚約者が怯える姿を見て、オズベルトの溜飲が少しだけ下がった。声色を和らげ、優しく語りかける。

「私だよ、キアラ」
「お、オズベルト……殿下?」
「ああ、そうだ」

 しかしキアラは、毛布をますます深く被り、小さく縮こまった。
 てっきりベッドから飛び出し、自分に抱きついてくるだろうと考えていたオズベルトは拍子抜けした。
 それに、毛布をかぶった体が思ったよりも小さく感じるのは、長い間会っていなかったからだろうか。

 毛布の中から、キアラのくぐもった声が聞こえた。

「本日のご、ご訪問はお聞きしておりませんが……」
「君が心配で心配で、申し訳ないが約束をせずに来てしまったんだ。体調はどうだ?」
「そ、それが……まだ体調が思わしくなくて……う、うるものであればいけませんから、オズベルト様。今日はお引き取りください……」

 キアラの言葉を聞き、オズベルトの眉間に深い皺が寄った。

(せっかく心配してきてやったのに、帰れとは……それに毛布を頭から被ったまま、顔すら見せないとは!)

 こちらは、忙しい間を縫ってやって来たのだ。
 収まったはずの怒りが、また膨れ上がるのを感じる。

 オズベルトは怒りのまま、無言でベッドに近づくと、キアラが被っていた毛布を無理矢理剥いだ。

 そこにいたのは――白髪交じりの艶を失った髪の老婆。

「い、いやぁぁぁっ!! 見ないで……見ないでくださいっ!!」

 キアラが絶叫しながら、両手で自分の顔を覆った。しかし顔を覆う両手に刻まれているのは、到底二十代とは思えない深い皺とくすんだ肌。それもカサカサで白い粉を吹いている。

 オズベルトは、言葉を失った。
 あまりの衝撃に、体が平衡感覚を失う。ゆっくりと後ずさりしながら……しかし一瞬見えた衝撃的な光景を脳裏に映しながら、声をうわずらせる。

「お、お前は……一体……」

 そう言いつつも、自分の中に答えはあった。
 
「も、もしかして……キアラ……なのか? そ、その姿は、一体……」
「わ、分かりません……! 主治医は……病気ではなく、老化だと……」
「ろう、か?」

 意味が分からなかった。

 全てを見られ、キアラも諦めたのだろう。
 覆っていた両手を下ろすと、すっかり瞼が弛み、小さくなった双眸をオズベルトに向けた。

「で、でも必ずや元の姿に戻りますから! 必ずや……!」

 そう言って皺だらけの手を伸ばすキアラを見て、オズベルトはヒィっと声を上げ、後ずさった。

「く、来る、な……来るな来るな来るなっ!!」
「お、オズベルト殿下っ!! そんなことを仰らないでください! 必ず、元の姿に……」

 なおも縋ろうとするキアラに、オズベルトは伸ばされた手を振り払うと、吐き捨てた。

「うるさいっ!! 気味が悪い!! こんなことなら……あの平民偽聖女のほうがマシだっ!!」

 手を振り払われたキアラは、呆気なく崩れ落ちた。
 それを見下ろし、肩で息をしながら、オズベルトが叫んだ。

「お、お前との婚約は破棄だっ! この……醜い老婆めっ!!」

 そう宣言すると、オズベルトは逃げるように部屋を出て行った。

 部屋のドアが閉まる瞬間、キアラの断末魔のような絶叫が聞こえたが、足早に進んでいくにつれて、それも聞こえなくなっていった。

 先ほどの光景が、脳裏に焼き付いて離れない。

 美しかった婚約者が、老婆になった。
 艶やかだった肌がたるみ、張りも無くなっていた。
 伸びやかな声も、しゃがれて聞こえにくくなっていた。

 キアラだと思ってみなければ、気づかないほどだった。それほど、無残なほどに変わり果てた姿をしていた。

(一体いつからだ? いつからあんなことになったんだ?)

 キアラがオズベルトとの面会を断りだしてから、約二ヶ月ほどが経っていただろうか。

 ふと引っかかったのは、自分と会うとき、いつもどこか疲れた顔をしていた婚約者の姿。

 直接訊ねたこともあったが、キアラが大丈夫だと言い張ったため、それ以上追求しなかった。しかしあの頃から彼女の様子がおかしくなった気がする。

 オズベルトは足を止めると、目的地を変えた。

 彼が訪れたのは、ベアトリスの部屋だった。
 護衛の声を無視し部屋にはいるとそこには、キアラと同じように老婆になったベアトリスが、ベッドの上に横たわっていた。

「でん、か……?」

 弱々しい声を出しながら、オズベルトに向かって手を伸ばす。その様子が、キアラに迫られたときの記憶と重なり、オズベルトは咄嗟に部屋から逃げ出した。

 緊張で呼吸が速くなる。
 恐怖で逃げ出したくなる気持ちを抑えつつ、オズベルトが向かった先は、ロディシアの部屋。

 部屋に入るのを躊躇したが、意を決しドアを開ける。

 やはりと言うべきか、老婆がいた。魂が抜けたような様子で呆然と椅子に座っていたが、オズベルトの姿を見た瞬間、慌てて立ち上がり、カーテシーをした。

 ロディシアは、先ほどの二人と違いまだマシだった。歳はとっているが、体の自由は利くようだ。

「どういうことだ、お前の姿は……いや、聖女たち皆が、急に歳をとって……一体どうなっているんだ!?」
「ご覧になられたのですね、他のお二人のことも……」

 弛んだ頬を無理矢理上に引っ張ったような笑みを浮かべ、ロディシアが呟く。そして無言で首を横に振った。

「理由は……分かりません。ただ、供儀を行うたびに疲れは酷くなり……やがて老化という形で、体にも変化が出てくるようになったのです」

 ロディシアは薄く笑いながら、自身の両手に視線を落とした。
 まさか……とオズベルトが呟く。

「供儀……のせいだというのか? しかし、今までそんなことはなかっただろ? 供儀の後に疲れるなど、あの偽聖女じゃあるまいし……」

 そう言った瞬間、オズベルトはあることに気づいて口を閉ざした。

 確証などない。
 間違いに決まっている。

 そう何度も心の中で呟いても、拭うことの出来ない焦燥感。

 彼の気持ちが顔に出ていたのだろう。
 ロディシアは自虐的に笑う。

「残りの二人も仰っていました。供儀の後、初めて疲れを感じたのは……聖女が三人になってから。つまり――」

 自身の体を抱きしめると、キアラと同じ濁った瞳でオズベルトを睨みつけた。

「あの偽聖女――セレスティアルをあなた様が追放なされてからです」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

罰として醜い辺境伯との婚約を命じられましたが、むしろ望むところです! ~私が聖女と同じ力があるからと復縁を迫っても、もう遅い~

上下左右
恋愛
「貴様のような疫病神との婚約は破棄させてもらう!」  触れた魔道具を壊す体質のせいで、三度の婚約破棄を経験した公爵令嬢エリス。家族からも見限られ、罰として鬼将軍クラウス辺境伯への嫁入りを命じられてしまう。  しかしエリスは周囲の評価など意にも介さない。 「顔なんて目と鼻と口がついていれば十分」だと縁談を受け入れる。  だが実際に嫁いでみると、鬼将軍の顔は認識阻害の魔術によって醜くなっていただけで、魔術無力化の特性を持つエリスは、彼が本当は美しい青年だと見抜いていた。  一方、エリスの特異な体質に、元婚約者の伯爵が気づく。それは伝説の聖女と同じ力で、領地の繁栄を約束するものだった。  伯爵は自分から婚約を破棄したにも関わらず、その決定を覆すために復縁するための画策を始めるのだが・・・後悔してももう遅いと、ざまぁな展開に発展していくのだった  本作は不遇だった令嬢が、最恐将軍に溺愛されて、幸せになるまでのハッピーエンドの物語である ※※小説家になろうでも連載中※※

婚約破棄された堅物令嬢ですが、鬼の騎士団長の娘として宮廷の陰謀を暴くのに忙しいので、美貌のカストラート(実は王子)に溺愛される暇はありません

綾森れん
恋愛
「お前のような真面目くさった女はいらない。婚約は破棄させてもらう!」 婚約者だった公爵令息に冷酷に言い放たれたリラ・プリマヴェーラ。 だが、彼女の心にあったのは悲しみではなく―― 十年前の王族暗殺事件を調査したいという情熱だった。 伯爵令嬢であるリラは、鉄の掟を守る『鬼の騎士団長』の娘。 彼女には恋よりも何よりも優先すべき使命があった。それは、十年前に幼い王子が暗殺された事件の真相を暴き、父を、そして王国を陰謀から救うこと。 婚約破棄直後、彼女の前に現れたのは、天使の歌声を持つ美貌のカストラート(去勢歌手)、アルカンジェロだった。 彼が十年前の事件について密かに調べていることを、リラは知ってしまう。 真相を探るため、リラは彼を自分の音楽教師として迎え入れ、距離を縮めていく。 事件解決の協力者として彼と接するうち、リラは謎めいたアルカンジェロに危機を救われることになる。 しかし、リラは知らない。 アルカンジェロの正体が、十年前に暗殺されたはずの第三王子であることを。 そして彼にとってリラこそが、初恋の女性であることを。 彼は十年間、密かにリラを想い続けていたのだ。 王位を狙う者たちから身を隠すため、声楽の技術を駆使して、教会歌手として大聖堂で生き延びてきたアルカンジェロだったが、王家を巡る不穏な陰謀が静かに動き始めていた。 捜査に猪突猛進な堅物令嬢と、彼女を影から支え執着を見せる、カストラート歌手のふりをした王子。 宮廷の闇を切り裂く二人の恋と事件の行方は――? ※本作は、過去に投稿していた『真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています』の設定・キャラクター・構成を大幅に改稿し、新作として再構成したものです。 物語の結末やキャラクターの掘り下げを強化しておりますので、初めての方も、以前お読みいただいた方もお楽しみいただけます。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました

AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」 公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。 死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった! 人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……? 「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」 こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。 一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。

捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています

h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。 自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。 しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━? 「おかえりなさいませ、皇太子殿下」 「は? 皇太子? 誰が?」 「俺と婚約してほしいんだが」 「はい?」 なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。

聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~

夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力! 絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。 最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り! 追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?

「神に見捨てられた無能の職業は追放!」隣国で“優秀な女性”だと溺愛される

佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢アンナ・ローレンスはグランベル王国第一王子ダニエル・クロムハートに突然の婚約破棄を言い渡された。 その理由はアンナの職業にあった。職業至上主義の世界でアンナは無能と言われる職業を成人の儀で神に与えられた。その日からアンナは転落人生を歩むことになった。公爵家の家族に使用人はアンナに冷たい態度を取り始める。 アンナにはレイチェルという妹がいた。そのレイチェルの職業は神に選ばれた人しかなれない特別な職業と言われる聖女。アンナとレイチェルは才能を比較された。姉のアンナは能力が劣っていると言われて苦しい日常を送る。 そして幼馴染でもある婚約者のダニエルをレイチェルに取られて最終的には公爵家当主の父ジョセフによって公爵家を追放されてしまった。 貴族から平民に落とされたアンナは旅に出て違う国で新しい生活をスタートする。一方アンナが出て行った公爵家では様々な問題が発生する。実はアンナは一人で公爵家のあらゆる仕事をこなしていた。使用人たちはアンナに無能だからとぞんざいに扱って仕事を押し付けていた。

聖女だけど、偽物にされたので隣国を栄えさせて見返します

陽炎氷柱
恋愛
同級生に生活をめちゃくちゃにされた聖川心白(ひじりかわこはく)は、よりによってその張本人と一緒に異世界召喚されてしまう。 「聖女はどちらだ」と尋ねてきた偉そうな人に、我先にと名乗り出した同級生は心白に偽物の烙印を押した。そればかりか同級生は異世界に身一つで心白を追放し、暗殺まで仕掛けてくる。 命からがら逃げた心白は宮廷魔導士と名乗る男に助けられるが、彼は心白こそが本物の聖女だと言う。へえ、じゃあ私は同級生のためにあんな目に遭わされたの? そうして復讐を誓った心白は少しずつ力をつけていき…………なぜか隣国の王宮に居た。どうして。

処理中です...