命導の鴉

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第一章 輝葬師

二幕 「ラフ・フローゼル」  四

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 料理を食べ終わった後、ヴェルノはガフディと明日の打ち合わせするとのことだったので、アスはジゼルと共にガフディが準備してくれた部屋へ向かった。

 部屋は三人で泊まるには少しこじんまりとした大きさだったが、綺麗に清掃されており十分に快適だった。

 アスは荷物をベッドの脇に置いて上着を脱ぐと、すぐにベッドに体を預ける。下山で疲れきった体が重力から解放され、筋肉の緊張が和らいでいく感覚が心地よかった。

「先にお風呂行こうかな」

 一緒に部屋に入ったジゼルが自分の荷物から着替えを取り出す。

 二人は先ほど部屋に来る途中で宿に大浴場があることを確認していた。

「それじゃあ行ってくるね~♪」

 ジゼルはさっさと準備を整えると、鼻歌を交えながら部屋の扉に向かう。

 アスはベッドに体を預けたまま、いってらっしゃいと手を振ってジゼルを見送った。

 部屋の扉が閉まるとアスは天井を眺めながら、明日のことを考えた。

 ラフ・フローゼル・・・。

 王都中隊の誰もが手に負えなかった相手。本当に父がそれを駆除できるのだろうかと不安感が募る。

 危険な場所みたいだし、自分は連れて行ってもらえないのだろう。

 怪我はしないだろうか、無事帰って来れるだろうか、最悪戻ってこないなんてことは・・・。

 考えれば考えるほど、アスの思考は悪い方向に進み、次第にその心は不安で張り裂けそうになった。

 アスは目をつむり、そういった思考を振り払うかのように布団を被った。

 どんな状況であってもせめて一緒にいたい、アスは強くそう願っていた。



「アス、起きて。お風呂入らないの?」

 目を開けるとジゼルが肩を揺すりながら自分に声をかけていた。あのまま、眠ってしまったようだ。

「お風呂から戻ってきたら寝てるんだもん、びっくりしちゃった。疲れてるかもしれないけど、お風呂だけは入ってきたら?お風呂、結構広くてよかったよ」

 優しくそう告げるジゼルの濡れた髪からはいい香りがした。時間にして一時間弱程度だろうか、アスは目を擦りながら顔を上げる。

「・・・うん、そうだね。・・・お風呂にいってくる」

 アスは体を起こすとベッドの脇に置いた荷物を手元に引っ張り、中から着替えを出す。

 途中で手を止めると、不安げな表情で、ジゼルの方を見た。

「お姉ちゃん、明日お父さん大丈夫かな?」

「ん?うーん、多分大丈夫じゃないかな。ああ見えてお父さん結構強いし」

「さっきの話・・・、ハインツさん、すごく強そうだったのに、何も出来なかったって言ってたから、ちょっと心配」

「そっか、でもお父さんも出来ないことを安請け合いするようなタイプじゃないし十分勝算はあるんだと思うよ」

「それならいいんだけど・・・」

 二人がそんな話をしていると、ただいまと話題の人物が部屋に戻ってきた。

「ちょっと打ち合わせをするつもりが、昔話に花が咲いてしまって遅くなってしまったよ。あはは」

 ヴェルノは少しお酒が入っているようで、いつもより陽気な口調で二人に話しかける。

「お父さん、明日大丈夫?アスが心配しているよ」

「そうなのか?」

 ヴェルノがアスを見ると、アスが不安そうな顔で父を見ていた。

「大丈夫。問題ないよ」

 ヴェルノはにっこり微笑むと、ベッドに腰かけて話を続けた。

「さっきガフディとも話をしたんだが、明日は二人も連れて行こうと考えている。こんな機会はあまりないし二人の良い経験になると思うよ」

「ほんと?一緒に行ってもいいの?」

「ああ、一緒に行こう」

 父と一緒にいられるということを心の底から喜んだアスの表情は一気に晴れやかになった。

「なんだ、そういうことか。アスはお父さんと離れるのが寂しかったのか」

 得心のいった顔をしたジゼルがアスの隣に座る。

「この、寂しがりやめ」

 ジゼルはアスの額を指でちょんとついた。

 アスはつかれた額を摩りながら、ちょっと照れた表情をした。

「そういうことだから、二人とも今日はゆっくり体を休めてくれ。特にジゼルは近辺に群集していることが想定される花や蕾をハインツと共に処理してもらう予定だからそのつもりでな」

「え?そうなの?私は見てるだけじゃないの?」

 さらっと重要事項を伝えるヴェルノにジゼルが困惑した表情を見せる。

「おいおい、一応ジゼルは輝葬師の俺を守る『輝葬衛士(きそうえじ)』なんだから見てるだけってのはないだろ?ちゃんとサポートしてもらうよ」

「・・・りょ、りょーかい」

 ジゼルは見てるだけというあてが外れたこともあってか気の抜けた返事をした。

 ヴェルノはその返事に頷くと、次にアスにも声をかける。

「アスはできる限りでいいから、ジゼルのお手伝いを頼むよ」

「うん!お姉ちゃん、明日一緒に頑張ろうね」

「う、うん、そうだね」

 アスはやる気に満ちた目をしながらジゼルに声をかけたが、ジゼルはこれまた気の抜けた返事をした。
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