命導の鴉

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第一章 輝葬師

二幕 「ラフ・フローゼル」  五

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 翌朝、カーテンの隙間から入る日差しを受けて、アスは目を覚ました。

 ベッドから降り、体を伸ばす。久々にベッドで休んだおかげか体がかなり軽い。横を見るとヴェルノとジゼルはまだ寝息をたてていた。

 アスは顔を洗うために部屋を出て洗面所に向かう。顔を洗って部屋に戻ろうとすると、宿の外がなにやらガヤガヤと騒がしい。

 アスは外の様子が気になったため、そちらに足を向けた。

 宿の外に出ると、朝の日差しがアスに降り注いだ。

 その眩しさで薄目となる中、宿の前の広場で雑談したり荷を確認したりする兵士達の姿が見えた。

 どうやら中隊が全員集まっているようで広場はかなり騒然としている。

「おはよう、昨日はよく眠れたかい?」

 後ろからの突然の声に、アスが驚きながら振り返ると、宿の軒下で壁に寄りかかって広場の兵士を眺めるガフディの姿があった。

 外に出る際にガフディに気づかず横を通り抜けたようだ。

「あっ、ガフディさん、おはようございます。昨夜はありがとうございました。おかげでゆっくり休むことができました」

「そうか、それはよかったよ」

 アスが会釈をすると、ガフディは顎の髭を触りながらニッコリ微笑んだ。

「ところで兵士の皆さんは、何をされているんですか?」

 アスは広場に集まる兵士達に視線を向けた。

「ハインツ以外はこれから王都に戻るんだ。もうここでやることもなくなったしね。だから今はみんな出立の準備をしているところだよ」

「そうなんですか・・・。ガフディさんも戻るんですか?」

「いや、見送りだけだ。私は今回の件について、責任者的立場になるから処理が完了するまではこの村にいるよ。ああ、そうだ。昨日、君のお父さんに言われて手配しておいた物があるんだ。昼には間違いなく準備できるから出発前に村の双極分枝に来てほしいと伝えておいてくれないか?」

「手配した物?」

 アスは不思議な表情をうかべる。

「大した物じゃない、例の植物を切断するための大剣だよ。本体を切断するには今持ってるグラディウスじゃ心許ないってんで昨日準備をお願いされたんだ」

「そうなんですね。わかりました、伝えておきます」

「ありがとう、頼んだよ。・・・さてと、それじゃあ私は出発する兵士を見送ってくるよ」

 そう言うとガフディはアスに手を振って、広場で整列を始めた兵士たちのもとへ向かった。

 まもなく、ハインツの代わりに隊を指揮をしている副官らしき男の号令で兵士たちは村を出発した。

 沿道には王都に帰還する兵士を見ようと村人や旅人が数人集まっており、行軍する兵士たちに各々手を振ったりするなどして兵士を送り出していた。



 アス達は宿で早めの昼食を済ませると、ガフディに言われた通りに村の双極分枝と呼ばれる施設を訪れた。

 建物の中に入ってすぐ左手に受付用の小さな窓口があり、その奥に三、四人程度が執務できる程度の小さな部屋がある。

 中では職員らしき人物が書類と睨めっこしていた。

 通路を挟んで正面には漆喰で縁取りされた観音開きの厳かな扉があり、その扉の前に女性の職員が一名立っていた。

 部屋の名前を示すプレートには輝創床と記載されている。

 扉の前に立っていた職員がこちらに気づき近づいてくる。

「もしかして、ヴェルノさんですか?」

「ええ、ガフディさんに用があって伺いました」ヴェルノが頷いて応える。

「すみません。本来ならご案内するところですが、ただいま輝胎の儀を行なっておりますので、職員は持ち場を離れられません。話は聞いておりますので、どうぞそのまま右手通路の奥にある部屋にお進みください」

 職員は申し訳なさそうな顔で一礼した。

「わかりました。新しく宿る命が健やかなることをお祈りいたします」

 ヴェルノは女性に礼を返してから、案内された通路を進み始めた。

 アスとジゼルも父に倣って女性に一礼してから後を追った。

「輝胎の儀って?」

「ん?」

 ヴェルノは立ち止まり、後ろを歩いていたアスの方を振り返る。

「そうか、アスは知らなかったか。輝胎の儀っていうのは、母親の胎内に宿った子供の肉体に輝核を融合させる・・・、つまりこれから誕生する子供に命の火を灯すための儀式をいうんだよ」

「へぇ、じゃあ今まさに一つの命が誕生しようとしているところなんだ」

「ああ、だから人にとって、とても重要で尊い儀式なんだよ」

 輝胎の儀の意味を知ったアスは先ほどの輝創床の方に体を向けると、健やかな命が宿りますようにと気持ちを込めて改めて一礼した。

 三人は再び通路を奥へ進み、突き当たりの部屋に入った。

 部屋は小じんまりとした会議室で、中央に大きなテーブルがある。その周囲を取り囲むように置かれた椅子にガフディとハインツが座っていた。

 会議室の窓からは太陽の光が差し込んでおり、室内はそれなりに明るい。

「おお、来たか。依頼されていたものはそこに置いてあるよ」

 ガフディが立ち上がって、目の前のテーブルを指すと幅三十センチ、長さ一メートル程度の刀身を持った大剣が置かれていた。

「でかっ!」

 ジゼルが目を見開いて大剣をみる。

 ヴェルノは剣に近づき、片手でその剣の柄を握ると力を込めて持ち上げた。

「うん、いいな。思ったより軽い」

 そう言いながらヴェルノは軽く剣を上下させる。

「お父さん、そんなでかい剣で戦うの?」

「いや、これはトドメ用に使う。流石にこれを振り回しては戦えないよ」

 ヴェルノは苦笑いをしながら、大剣を背負い、鞘のベルトを体にくくりつけた。

「準備ができたなら早速現地へいくぞ」

 ハインツが椅子から立ち上がり、少しきつめの声でアス達に出発を促す。

「よし、それじゃ行くか。ガフディ、朗報を持って帰るよ」

 ヴェルノはガフディに笑みを送った。

「ああ、気をつけてな。みんなよろしく頼むよ」

 ガフディに見送られながら一行は双極分枝を出立した。
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