命導の鴉

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第一章 輝葬師

二幕 「ラフ・フローゼル」  六

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 村を出て、山間の道をしばらく進むと目印らしき杭のところでハインツが立ち止まる。

「ここから森に入る。かなり道が悪いから気をつけて歩け。あと獣や蟲と遭遇する可能性も十分あるが、お前達のお守りはしないからな」

 ハインツはアスとジゼルの方を見て、念を押すように言った。

「はい!」

 アスはこの場に来た以上、守ってもらうつもりは毛頭なかったため、力強くハインツに返事をした。

 自分の身は自分で守る。そう気を引き締めると、アスは腰に帯びたグラディウスの柄を強く握った。

「言われなくても分かってるよ。だいじょーぶ。そういうハインツさんも十分気をつけてね」

 ジゼルの言葉を聞いたハインツの眉間にシワが寄る。

「ならいい。行くぞ!」

 ハインツは怒気をはらむ声色でそう言い放ち、森の中に入っていった。

「一番後ろは俺が歩くから、ジゼル、アスの順でハインツに続いて進んでくれ。ハインツのいう通りここからは十分注意して進むように。いいな?」

 ヴェルノの言葉にアスとジゼルは頷くと、ジゼルはハインツに続いて森に入った。その後ろを追ってアス、ヴェルノも森に入る。

 しばらく森の中を進む。

 空は晴天で強い日差しが森を照り付けていたが、木々が日陰を作ってくれているため、そこまでの暑さを感じない。

 時折森の中を吹き抜ける風が木々の葉を揺らし、葉がカサカサと擦れる音が心地よかった。

 森の道もハインツが念を押していた割には歩きやすかった。

 中隊が駆除活動をした際にそれなりに道を整備してくれていたためだろうか。そんなことを考えながらアスが歩いていると、後ろから父が肩をトントンと叩いてきた。

 振り返ると父が顔を近づけてきて、小声で囁いた。

「お守りはしないとか言いながら、あいつ、結構優しいんだな」

 アスはなんのことかわからず首を傾ける。

「ん?気づいてなかったか。あいつ、俺たちが歩きやすいように邪魔になりそうな草木をそれとなく刈って進んでいるんだ」

 アスはそう言われてから視線を前に向けると、確かにハインツはやたらと丁寧に草木を刈り払いながら進んでいることに気づいた。

 ふと、根はいいやつなんだがな、というガフディの昨日の言葉がアスの頭をよぎる。

「ふふ、ガフディの言うとおり、確かにいいやつだな」

「うん、そうだね」

 草木を刈るハインツの後ろ姿を見ながらアスとヴェルノは笑みをこぼした。



 三十分程度山道を登ると、少し開けた場所に出た。

「ヤツの場所までもうすぐだが、ここで少し休憩していくか?」

 ハインツは振り返り、ヴェルノに確認した。

「そうだな、準備もしたいし、一回休憩しよう」

 ハインツはわかったと応じると、背負っていた鞄をおろす。そして、鞄の中から水筒を取り出し、近くにあった適当な石に腰をかけ水を飲み始めた。

 ヴェルノも担いでいた大剣と鞄をおろし、軽く肩を揉む。

「ジゼルとアスも一旦休憩だ。この暑い中での駆除になるから、水分は十分に補給しておくんだぞ」

 アスとジゼルは頷くと、先の二人に倣って鞄をおろした。

 ジゼルは早速鞄から水筒を取り出しており、父は何かを探すように先ほど置いた自身の鞄を漁り始めていた。

 二人のそんな姿を横目にアスは額に滲んだ汗を拭った。

 開けた場所で木々が少ないこともあって、日が差し込むこの場所は特に暑さを感じる。

 ジゼルが暑いねと言いながら水を注いだカップを持ってきてくれた。

 アスはありがとうと言って水を受け取ると、ゆっくりと喉を潤した。

 アスが一息ついて周りを見渡すとところどころに焚き火の跡があった。

 多分ここは中隊が花の駆除の際に拠点として利用していた場所なのだろう。

 アスは、そんなことをぼんやりと考えながらカップに残った水を全て喉に流し込んだ。

「アス、これを」

 しばらくするとヴェルノが近づいてきて、今しがた鞄から取り出した直径五ミリ程度の白い石がついたピアスをアスに差し出した。

 石は丹念に磨かれており少し光沢がある。

「魔元石・・・、魔操の準備をするの?」

「一応、念のためな」

 アスは頷くと父からピアスを受け取り、自身の耳に装着した。

 アスがピアスの石を摘み念じると、青白い光を一瞬発した後にヒュウと小さな音をたて、消灯した。

「衛浄(えじょう)系か。珍しい系統だな」

 ハインツは鋭い眼光をかすかに緩ませ、アスの耳に付けられたピアスを見た。

「うん、でも魔操自体はそんなに得意じゃないから、あんまり期待しないでくださいね」

 アスは少し照れた表情で鼻の頭をかいた。

 ハインツが少し優しい口調で言葉をかけてくれたことがなんとなく嬉しかった。

「そっちの二人も魔元石を使うのか?」

 ハインツが再び荷物を漁っているヴェルノに声をかけた。

 打ち解けたというわけではないが、ここからは背を預ける仲間になるということを感じているのであろうか、ヴェルノに対する口調もきつくはない。

「ああ、俺とジゼルも魔操は得意とはいえないが斬撃の火力を上げられるし、念のためにな」

 ヴェルノは荷物から赤い石のついたピアスを取り出しジゼルに渡す。さらにもう一つ赤いピアスを出した。

 赤いピアスを装着した二人はアスと同じようにピアスの石を摘み、念じる。こちらは赤い光を発し、そして消灯した。

「二人は熱火系か、植物相手には相性がいいな」

「ハインツさんは?」

 ジゼルが大きな瞳をハインツに向けると、ハインツは懐からピアスを取り出した。

「俺は水氷系だが・・・」

 指でつままれたピアスの石の色は遠目には分かりにくかったが、灰色のように見えた。

「吸排済み?」

 ジゼルの言葉に、ハインツは小さく頷く。

 魔元石は系統に応じた魔力を大気から吸収し、その吸収した魔力を放出することができるが、一度使用すると再錬という措置を施さない限り、再び使用することはできない。灰色は使用(吸排)済みの証であった。

「先日の戦いで既に使用した。予備もない。悪いが魔操でのサポートは期待しないでくれ」

 ハインツは灰色の石がついたピアスを再び懐にしまった。

「そうか。じゃあこれで準備は一応整った形かな。・・・アス、皆にクッションをつけてくれ」

 ヴェルノが先ほどおろした大剣を再び背負いながらアスに指示をだす。

 アスは頷くと両腕を前に突き出し、手を広げた。

 少し念をこめるとピアスは青白く発光し、先ほど大気から吸収した魔力をアスの掌を通じて放出し始めた。

 手をこねるような仕草で青白いモヤのように放出される魔力を操り、それぞれの体を薄い魔力の膜で包み込んだ。

 膜がそれぞれの体に固定されたことを確認すると、アスはふぅっと息を吐き手を降ろした。

 同時にピアスも消灯した。吸収した魔力はまだ残っているようで、石は青白いままだ。

「物理的な攻撃に関してはこれで少しは緩和されるはずです。でも、気休め程度なので、無理はしないでくださいね」

「わかっている」

 アスに注意を促されたハインツはそっけなく応え、腰掛けていた石から立ち上がった。

「それじゃあ、行こうか」

 ヴェルノの言葉に、三人は頷くと、再びハインツを先頭に森を進み始めた。
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