命導の鴉

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第一章 輝葬師

二幕 「ラフ・フローゼル」  七

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 先ほど休憩した場所から五分程度進んだ場所でハインツが足を止め、十メートル程度前方を指差した。

「あそこに群生している紅い花がラフ・フローゼルだ。その中央に馬鹿でかい花があるのがわかるか?あれが昨日言っていたやつだ」

 指差す方を見ると、群生する紅い花の中で一際目立って大きい花がいるのがすぐにわかった。

「何あのデカさ!?あれで花なの?しかも全然可愛くないし」

 ジゼルは目を大きくあけ興奮気味に前方の巨大な花を見た。

 紅い花びらには紫の不気味な斑の模様があり、花というのもおこがましいぐらいにおぞましい見た目だ。

 花の部分だけでも三メートル程度の大きさがあり、全長では七~八メートルと巨大だ。

 更に周りを警戒するかのように直径二十センチはありそうな太い触手が十本程度、ウネウネとうごめいている。

 その周りに群生している花は一回り小さいが、それでも全長二、三メートル程度の大きさがあった。

 それらの花も触手をウネウネと動かしており、その光景はかなり衝撃的だった。

「確かにあのデカさと見た目では花としての愛らしさは感じられないな」

 前方を見据えるヴェルノの表情には少し余裕があるようにも感じられた。

「この辺りからやつの射程に入るがどうするんだ?」

「とりあえず俺が行くよ」

 背負っていた大剣を下ろしたヴェルノが腰のグラディウスを鞘から抜いて、躊躇することなく前に進み出した。

「お、おい!待て!」

 ハインツが慌てて止めるがヴェルノは意に介さず進む。

「不用心すぎるぞ!」

 ハインツが大声を発するのと同時に、巨大な花の触手が高速でヴェルノを叩きつける。

 ギィーン!という金属をぶつけ合うような音とともに、触手は上空に弾き飛ばされた。

「大丈夫か!?」

「切断するつもりだったんだが、硬いな」

 ハインツ達が駆け寄ると、ヴェルノは剣で弾き飛ばした触手を見上げて呟いた。

 弾き飛ばされた触手は攻撃の機会を窺うかのように宙でウネウネと動いている。触手の先端には毒針が見えた。

「あの触手の動きが見えるのか!?」

「ああ、思ったより硬いが、速さは問題ない。次は斬る」

 ヴェルノの手が赤色に輝くと赤い魔力の膜がグラディウスの刀身を覆う。次第に熱量が上がり、刀身は真っ赤に染まった。

 ヴェルノはその赤い剣を構えて更に前進した。

 攻撃の機会を伺っていた触手が再びヴェルノを叩きつけようと襲いかかる。

 ヴェルノが構えた剣を振り払うと、ドンという音と共に大地が揺さぶられた。

 切断された触手の先端が勢いそのままに地面に叩きつけられた音だった。

 続けて側面から毒針を剥き出しにした触手がヴェルノを貫こうと襲いかかり、ヴェルノが剣を横に振り払う。

 二つの影が交差した瞬間に触手の先端が切断され付近の木まで吹き飛んだ。

 木はその衝撃に耐えきれずメキメキと音を立てて倒れた。

 ふぅと息を吐くと、ヴェルノは触手を払った剣を正面の花に向けて構えると、刀身にもう一度魔力を注入した。

 一連の光景を見ていたハインツは目を見開いており、目の前で起こっている状況が信じられないといった様子だった。

「あ、あいつ何者だ!?」

 一筋の汗が頬を伝っている。

「よかった。実はちょっと心配してたんだけど、あの程度なら大丈夫そうだね」

「なっ!?」

 ヴェルノの姿を見ながら放ったジゼルの言葉にハインツが驚きの表情で振り返る。

「あの程度って、お前にはあれがそんな風に見えるのか!?」

「うーん、全力でやれば多分私でもなんとかできそうかなって。アスだったら大分苦戦すると思うけど。だからお父さんなら余裕かなって。ねっアス」

「そうだね、触手はかろうじて目で追えるくらいだし、あれを斬るのは僕の力じゃちょっと厳しいかな。お父さんは大丈夫だと思う」

 二人が何を言っているのかわからないといった表情で、ハインツは言葉を失っていた。

「ジゼル!触手の動きが見えるか?」

 前方で淡々と触手を切りながら前進していくヴェルノが、こちらに背を向けながら叫んだ。

「うん、ちゃんと見えてる!」

「よし、それじゃあ、ハインツとアスは周囲の花を駆除してほしい!もしかしたらそっちをこのでかい触手が攻撃するかもしれないからジゼルは駆除する二人を守ってくれ!」

 奥に行くほど、本体の周囲にいる花の触手が連携して手数の多い攻撃をしてくるため、ヴェルノは思うように進めないようだった。

「りょーかい!」

 ジゼルが応答すると、ヴェルノは背を向けたまま左手をあげた。頼んだという意味だろう。

「さっ、前はお父さんに任せて、こっちも駆除を開始しよ。魔力を注ぐから二人とも剣をこっちに出して」

 アスが頷き、グラディウスを鞘から抜くとジゼルに向けた。

 ハインツは先ほどのやりとりの内容がうまく消化できないのか、固まったまま動かない。思考停止に陥っているようにも見えた。

「・・・ハインツさん?」

 ジゼルに名を呼ばれたハインツはハッと我に返り、少し間を置いてからバツが悪そうに長剣を鞘から抜いた。

「ああ、すまない。頼む」

「じゃあ、魔力を注ぐよ」

 ジゼルは手を広げ、赤い魔力を操るとアスとハインツの剣を包み込んだ。

 やがてヴェルノの剣と同じように刀身は真っ赤に染まり、熱気を帯びた。

「遠隔での魔操は苦手・・・というよりできないから、魔力が切れて駆除が難しそうだと思ったら下がってね」

 そう告げると、ジゼルは自身の剣にも魔力を注ぐ。

 真っ赤に染まった剣を構えるとジゼルは凛とした表情でこれから駆除する花々を見据えた。

 アスとハインツもジゼルに合わせて剣を構える。

 やわらかな風が吹き抜け、ジゼルの髪を優しく撫でる。

 森の緑一色の中にあって赤い剣を持ったジゼルの姿は一層映え、美しさと共に気高さをも感じさせた。

 一時の静寂。

「いざ!」

 ジゼルが掛け声と共に群集するラフ・フローゼルに突進する。

「うん!」

「応!」

 アスとハインツも呼応してその後ろに続いた。
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