雫物語~鳳凰戦型~

くろぷり

文字の大きさ
31 / 65
騎士への道

王立ベルヘイム騎士養成学校7

しおりを挟む

「ザハール、付いて来なくてもいいんだぞ。お前はまだ剣術を学んでいない。オレ達がいても危険には変わりない」

「そうね……でも、ザハちゃんは言って聞くような子じゃないわ。クスター、イヴァン、守ってあげて」

ザハール達は、ベルヘイム西北にある洞窟の入口に立っていた。

人影は4つ……背の高い影が2つ、少し身長の低い細身の影が1つ、そして小さな影が1つ……

夕暮れのオレンジの光の浴びて、影が伸びている。

「馬鹿にすんじゃねーよ! 洞窟の中のモンスター程度、オレだって倒せるぜ! 兄貴が神剣を持つ姿を一番に見たいんだよ。オレは付いて行くぜ!」

「アレナもクスターも、じゃじゃ馬な弟がいると苦労するな。まぁ、2人ともオレとクスターの後ろを付いて来な。必ず守ってやるぜ」

人影の正体はラトヴァラ兄弟であるクスター、アレナ、ザハールの3人と……

クスターの親友でアレナの恋人である、金髪でニヒルな顔立ちのイヴァン・シュラーメク。

彼らは、炎の洞窟と呼ばれる場所の入口に立っている。

炎の洞窟……と言う割には、洞窟の中からは冷たい風が吹いており、その風が身体に当たる度に身がブルッと震えた。

「そろそろ、卒業試験が始まっちまう。騎士養成学校史上最強のクスターが、神剣ティルフィングを継承するべきだ。雑魚な先輩達に、万が一でも渡っちまったら最悪だ」

「悪いなイヴァン。付き合わせてしまって……オレ1人なら、なんとかなると思ったんだが……」

クスターは弟と妹を見て、そして深い溜息をつく。

「えー、回復魔法が使える私がいた方がいいでしょ? 薬草を買うにしたって、高いんだから……それに、卒業試験に使う程度の洞窟なら楽勝でしょ?」

「だと、クスター気にするな。アレナが行くなら、彼女を守る為にオレも行く。ある意味、デートみたいなモンさ」

イヴァンとアレナは、目を合わせて笑う。

神剣ティルフィングが眠る洞窟は、ベルヘイム騎士養成学校の卒業試験に使われる。

4人一組で洞窟に入り、ティルフィングを守る炎の前に置かれた印を持って帰ってくるという試験だ。

洞窟中に住まうモンスターに倒されるようでは、ヨトゥンと戦う騎士にはなれない……そして、運良くティルフィングに認められる者がいれば騎士団の戦力アップに繋がる。

来年卒業のクスターは、今年の卒業生にティルフィングが取られる前に洞窟に忍び込み、ティルフィングを持って来ようと思い立った。

本来、洞窟の前には侵入禁止の封印がかかっているのだが、その日は外れている。

何故か……学校としても、出来れば学内最強と呼ばれるクスターにティルフィングを渡したい……つまり、黙認したのだ。

「しかも、オレの言った通りだろ。先公の聞こえる場所で洞窟探検の話をすりゃ、封印を解いておくだろうってな。学校としても、クスターにティルフィングを使わせたいのさ」

そう言うと、イヴァンは洞窟に足を踏み入れる。

「行こうぜ、兄貴! 明日っから、オレはMyth knightの弟って自慢出来るぜ!」

走り出すザハールの背を見ながら、クスターはバスタード・ソードの柄に手を置いて気を引き締めた。


「凄い炎……これじゃ、中に入ってティルフィングを持って来るのは無理ね……こんな炎の中で、剣は溶けないのかしら……」

「神剣だからな……溶ける筈はないが、流石に持って帰るのは無理そうだな。ティルフィングに認められれば、炎は消えるのだろうか……」

炎の前で立ち尽くすアレナとクスター。

消える様子のない炎に、途方に暮れる。

「ティルフィングを護る炎の前まで着けば、何らかの方法が提示されると思ったんだが……何も無いな。本当に炎に囲まれているだけで、何も無い」

ティルフィングを護る炎の周りを一周したイヴァンも、何の方法も見つけられず戻って来た。

「炎の一番上も見えない。飛び越えるのも無理そうだね。兄貴、どうすんだよ?」

「つまり、ここにいる誰もがティルフィングに認められなかったって事だろう。オレは、神剣を持つ器じゃなかったって事さ」

噴き上げられる様に立つ炎は、天井が見えない洞窟の……その天井まで伸びているのではと思わせる程に頂点が見えない。

そして炎の壁は厚く、飛び込んでも消し炭になるのは間違いないが……

「ひょっとしたら、炎に飛び込む勇気を試されているのかもしれん。まずオレが飛び込んでみる。可能性を感じたら、クスターも飛び込んでみてくれ!」

「ちょっと、何を考えているのイヴァン! こんなところで死んじゃダメ! 一度戻って、何か対策を考えましょ? 炎に飛び込まなければ手に入らないなら、今年は取られる事ないよ」

炎に飛び込もうとするイヴァンの腕をアレナは思い切り掴み、その動きを制止する。

「イヴァン、アレナの言う通りだ。命までかける必要はないさ。それに今年の卒業生に、炎に飛び込める勇気のある奴はいない。先輩に失礼かもしれんが、実際オレより強い奴もいないしな……」

アレナとクスターに止められたイヴァンは俯きながら頷くと、踵を返す。

その時……

(血を……よこせ……我に……血を……)

突然、頭の中に言葉が入って来た。

「なんだ、今のは?」

「クスターも聞こえた? 頭の中に声が響いたような……変な感覚……でも、血って……」

クスターとアレナは振り返って、再び炎の……その先を見つめる。

「兄貴……なんだったんだよ、今の……なんか、こえーよ!」

「ティルフィング……まさか、神剣ではなく……」

クスターはザハールの頭を抱き寄せながら、後退りした。

その顔は、炎で赤く染まっているのに青ざめている。

「アレナ、イヴァン! 洞窟の外に出るぞ! 何か、ヤバイ気がする!」

後退るクスターの頭に、更に言葉が響く。

(血だ……我に大量の血を飲ませよ……我を求めし者よ……血を……その対価に、力を与えてやるぞ……血を……我に……)

禍々しい言葉に耳を塞ぐが、直接脳内に響き渡った。

「くそっ! アレナ、イヴァン……走れ!」

クスターが叫んだと同時に、女性の悲鳴が洞窟内に木霊する。

か弱く、絶望的で、哀しみが篭ったその声は、クスター達の足を止めるに充分だった……

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます

天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。 王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。 影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。 私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あなたが残した世界で

天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。 八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。

処理中です...