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「どうして……こんな目に」
シャンデリア落下の騒動から数日後、リリーナは王宮の一室で沈んだ表情を浮かべていた。美しいドレスを着こなしながらも、その華やかさがどこか色あせて見える。そこへ近づいたのは、リリーナと行動を共にする謎の男だ。彼は控えめに扉を閉め、リリーナの耳元で囁くように言う。
「落ち着いてください。今回の騒動は、あくまで偶発的な事故の可能性もあります。ご自分が狙われたと断定するには早い」
「わかってるわ。でも……あの場でライネル様がかばってくれなかったら、私も危なかった」
リリーナは悔しそうに唇を噛む。公爵家を取り込むはずが、いつの間にかシャンデリア落下という大事に巻き込まれ、まるで自分が被害者であるかのような状況に陥っている。目立ちすぎれば当然、敵も増える。彼女としては、もう少しスマートに事を運びたかったのだろう。
「それにしても……ソフィア・エヴァンス。あの娘は本当に厄介ね。いつもなら、私が操る噂だけで追い詰められるはずなのに、なかなか折れない。仲間も多いし、王太子エリオット殿下さえ味方している」
リリーナの声には苛立ちがこもる。伯爵令嬢など、簡単に失脚させられると高をくくっていたが、ソフィアは社交界での地盤を着実に固め、下手をすればリリーナ側が追い詰められるかもしれないほどの力を得つつある。
「あの娘が婚約破棄された時点で、こちらの勝利は確実だったはず。けれど、ライネル様までもが彼女を完全には拒絶していない。まるで、まだ未練があるように見えるわ」
リリーナの吐息混じりの言葉に、男は一度目を伏せ、それから低い声で返す。
「ライネル殿は公爵家の後継として重要ですが、もし彼が従わないなら、別の手段も検討すべきかと。私どもが求めるのは、公爵家が持つ資金と政治的影響力。必ずしもライネル殿ご本人が必要というわけではありません」
「違うのよ。ライネル様がいるからこそ、テオドール公爵を思い通りに動かせるの。あの男はライネル様を溺愛しているから、息子の言葉には弱い。そこを利用しなければ、公爵家全体を牛耳るのは難しいわ」
リリーナは軽く髪をかき上げ、鏡越しに自分を見つめる。金色の髪は相変わらず華麗に輝き、その美貌は衰えていない。だが、シャンデリアの一件以来、周囲の視線に“違和感”が混じるようになった気がする。まるで、彼女を表面的には称賛しながらも、その裏で何かを警戒しているかのように。
「このままじゃダメ。私が計画していた以上に、ソフィアもライネルも行動力を見せ始めている。となると、もっと決定的な一手を打つしかないのかしら」
男は黙ってリリーナを見つめている。リリーナが王宮に現れてからというもの、彼女は巧みに立ち回ってきた。公爵家に取り入り、噂を操り、ソフィアを悪役令嬢に貶めて社会的地位を下げる――すべては計画通りだったはずだ。だが、ここへ来て予想外の抵抗が強まっている。
「……ならば私の出番ですね。少々荒っぽい手段でもよろしければ、あの娘を完全に追い込む方法はいくつかあります」
「ええ、考えておいて。表立ってはできないけれど、もう何でも試さないと間に合わないかもしれない」
リリーナは立ち上がり、重厚な窓の外を見る。王宮の庭園が広がる景色は美しく、そこにはソフィアの姿があるようにも思えてくる。いつの間にか、伯爵令嬢に対する警戒は“憎悪”に近いものへ変化していた。完璧だと思っていた自分の計画を、ソフィアの存在が揺るがしている。
「ライネル様、あなたは私のもの。公爵家も、あなたの未来も、すべて私が握るわ」
静かな声でそう呟くと、リリーナはドレスの裾を翻し、男とともに部屋を出て行く。次なる一手を打つために。いつしか彼女の瞳には焦りとも取れる光が宿り、そこにはかつての余裕の笑みはない。
シャンデリア落下事件がきっかけで、リリーナの計画は確実に歯車を狂わせ始めている。それでも、彼女は引き返すつもりはない。むしろ執念を燃やし、ついに“最後の手段”を検討しはじめるのであった。
シャンデリア落下の騒動から数日後、リリーナは王宮の一室で沈んだ表情を浮かべていた。美しいドレスを着こなしながらも、その華やかさがどこか色あせて見える。そこへ近づいたのは、リリーナと行動を共にする謎の男だ。彼は控えめに扉を閉め、リリーナの耳元で囁くように言う。
「落ち着いてください。今回の騒動は、あくまで偶発的な事故の可能性もあります。ご自分が狙われたと断定するには早い」
「わかってるわ。でも……あの場でライネル様がかばってくれなかったら、私も危なかった」
リリーナは悔しそうに唇を噛む。公爵家を取り込むはずが、いつの間にかシャンデリア落下という大事に巻き込まれ、まるで自分が被害者であるかのような状況に陥っている。目立ちすぎれば当然、敵も増える。彼女としては、もう少しスマートに事を運びたかったのだろう。
「それにしても……ソフィア・エヴァンス。あの娘は本当に厄介ね。いつもなら、私が操る噂だけで追い詰められるはずなのに、なかなか折れない。仲間も多いし、王太子エリオット殿下さえ味方している」
リリーナの声には苛立ちがこもる。伯爵令嬢など、簡単に失脚させられると高をくくっていたが、ソフィアは社交界での地盤を着実に固め、下手をすればリリーナ側が追い詰められるかもしれないほどの力を得つつある。
「あの娘が婚約破棄された時点で、こちらの勝利は確実だったはず。けれど、ライネル様までもが彼女を完全には拒絶していない。まるで、まだ未練があるように見えるわ」
リリーナの吐息混じりの言葉に、男は一度目を伏せ、それから低い声で返す。
「ライネル殿は公爵家の後継として重要ですが、もし彼が従わないなら、別の手段も検討すべきかと。私どもが求めるのは、公爵家が持つ資金と政治的影響力。必ずしもライネル殿ご本人が必要というわけではありません」
「違うのよ。ライネル様がいるからこそ、テオドール公爵を思い通りに動かせるの。あの男はライネル様を溺愛しているから、息子の言葉には弱い。そこを利用しなければ、公爵家全体を牛耳るのは難しいわ」
リリーナは軽く髪をかき上げ、鏡越しに自分を見つめる。金色の髪は相変わらず華麗に輝き、その美貌は衰えていない。だが、シャンデリアの一件以来、周囲の視線に“違和感”が混じるようになった気がする。まるで、彼女を表面的には称賛しながらも、その裏で何かを警戒しているかのように。
「このままじゃダメ。私が計画していた以上に、ソフィアもライネルも行動力を見せ始めている。となると、もっと決定的な一手を打つしかないのかしら」
男は黙ってリリーナを見つめている。リリーナが王宮に現れてからというもの、彼女は巧みに立ち回ってきた。公爵家に取り入り、噂を操り、ソフィアを悪役令嬢に貶めて社会的地位を下げる――すべては計画通りだったはずだ。だが、ここへ来て予想外の抵抗が強まっている。
「……ならば私の出番ですね。少々荒っぽい手段でもよろしければ、あの娘を完全に追い込む方法はいくつかあります」
「ええ、考えておいて。表立ってはできないけれど、もう何でも試さないと間に合わないかもしれない」
リリーナは立ち上がり、重厚な窓の外を見る。王宮の庭園が広がる景色は美しく、そこにはソフィアの姿があるようにも思えてくる。いつの間にか、伯爵令嬢に対する警戒は“憎悪”に近いものへ変化していた。完璧だと思っていた自分の計画を、ソフィアの存在が揺るがしている。
「ライネル様、あなたは私のもの。公爵家も、あなたの未来も、すべて私が握るわ」
静かな声でそう呟くと、リリーナはドレスの裾を翻し、男とともに部屋を出て行く。次なる一手を打つために。いつしか彼女の瞳には焦りとも取れる光が宿り、そこにはかつての余裕の笑みはない。
シャンデリア落下事件がきっかけで、リリーナの計画は確実に歯車を狂わせ始めている。それでも、彼女は引き返すつもりはない。むしろ執念を燃やし、ついに“最後の手段”を検討しはじめるのであった。
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