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第8話 勇者たちの裏切り
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王都ルシエルは朝靄に包まれていた。
聖堂を中心に白い石畳の街並みが輝くが、その美しさの下には緊張と不安が満ちている。
民の笑顔はなく、衛兵たちは街角ごとに立ち、空気が張り詰めていた。
その空を、馬車が一台駆け抜けていた。
中にはリオとリア、そしてシリスの姿。
王都を目指して数日。彼らはようやくその塔の影を視界に収めた。
「すごい……やはり王都は壮麗ですね。まるで空まで届きそう。」
リアの瞳がガラスのように輝く。
「壮麗さと平和は比例しないにゃ。この空気、どこか臭うにゃ。」
「俺も感じてる。王都全体が“何か”に覆われてる。」
リオの瞳に淡い光が宿る。生命の流れを視る力。その視界に映った王都は、命の糸が乱れ、黒い靄のようなものが街中を這うように蠢いていた。
「……まるで、人々の心に闇が入りこんでるみたいだ。」
「おそらく、それが“黒き王”の影響です。封印が徐々に解けている。」
やがて馬車は王都の大門に差しかかる。
衛兵が立ちはだかり、槍を構えて命じた。
「通行証を見せろ。」
リアが胸元から小さな紋章を取り出す。それは聖女の証、神殿の印。
「私は聖女リア。神殿の名において、王に謁見を求めます。」
衛兵たちは目を見開く。だが次の瞬間、彼らの顔が歪む。
「……リア、様? 本当に本人か?」
「何を言っているのです?」
「あなたは三日前に“死亡”したと報告されている!」
空気が凍りついた。
リオが一歩前に出た。
「今ここにいる。お前たちの報告は偽物だ。」
だが、兵たちは混乱の表情を隠せない。
彼らにとって、聖女は神官の頂点。彼女が死んだという報告そのものがおかしい。
「……一度、確認を取らせていただきます。」
彼らは焦りながら走り去った。
リアは拳を握る。
「やはり、神殿の中に敵がいます。」
「ああ。お前を排除したかったんだな。生きてるお前は邪魔なんだ。」
待つことしばし。
やがて、神殿の紋章を掲げた一団が現れた。先頭に立つのは美しい装飾の鎧に身を包んだ女勇者――フィアだった。
「……リオ。やっぱり、おまえが生きてたか。」
「フィア……まさか。」
再会の瞬間、リオの胸に芽生えたのは懐かしさではなかった。硬質な冷たさだ。
「どうしてここに? 勇者パーティは……」
「勇者アルト様の命で来た。あなたを“拘束”し、王城へ連れていけと。」
「拘束? 理由はなんだ。」
フィアの瞳が一瞬揺らいだ。
「……あなたが、“禁忌の力”に手を染めたから。」
周囲の衛兵たちが構える。
リアが立ち上がろうとするが、フィアが封印の魔法陣を地面に展開した。
轟と風が走り、金色の鎖がリオの足元に絡みつく。
「フィア、やめろ。これは間違いだ!」
「違わない!」
フィアの叫びが夜気を裂いた。
「勇者アルト様は苦しんでおられる! あなたが我々を裏切り、神の怒りを招いたのだと!」
「そんな話、誰が信じる!」
「私は信じる。あなただけは信じたかったのに……!」
フィアの目に涙が光った。
その姿に、リオの胸が軋む。彼女は本気で苦しんでいた。だがその信念は歪められている。
「アルトの言葉なんて信じるな。奴は……!」
「それ以上言うな!」
次の瞬間、彼女の剣が閃いた。
純白の光がリオを襲うが、リオは瞬時に風の盾を展開し、衝撃を受け止める。
地面が割れ、周囲に砂塵が舞った。
「にゃっ、思いっきり来たにゃ!」
「手加減できるか!」
リオは腕を振る。
地面の草木が一斉に伸び、フィアの足元を縛りつけた。
「動くな。俺は戦いたくない。」
「嘘よ。あなたはそんな力……昔は持っていなかった!」
「持ってたさ。ただ気づかなかっただけだ。」
フィアの顔が苦悶に歪む。
「そんな言葉、信じられない! 私はあなたを探してたのに!」
「探して? 追放したくせにか?」
「私は……! 私はあなたを止められなかった!」
涙混じりの叫びと共にフィアの魔力が暴走した。
鎖が弾け、周囲を黄金の光が包み込む。
「やめろ、フィア!」
だがフィアの意識はもう限界だった。
リオは咄嗟にリアの前に立ち、光を吸い取るように腕を伸ばした。
「〈採取〉――命の変換、封印へ!」
光が収束し、嵐のような魔力がリオの腕を通して地へと吸い込まれる。
静寂。わずかに焦げた風だけが残った。
フィアはその場に崩れ落ちる。
「リオ……ごめん。私、彼を止められなかった。勇者アルトは……血によって、神の力を手に入れようとしているの。」
「血……?」
「あなたのような存在の血よ。創世の加護を持つ者の……それを“聖なる秘薬”にしようとしている。」
リオの拳が震えた。
自分を追放したあの男が、今度は自分を狩ろうとしている。
しかもリアまで狙う――
「……ありがとう、フィア。もう十分だ。」
リオは彼女を抱き上げ、リアが祈りの光で彼女を眠らせた。
「リオ。」
リアが静かに言う。
「あなたはどうするの?」
リオは答えなかった。
ただ夜空を見上げ、両手を握る。
「アルト……今度は俺が、お前を裁く。」
風が唸り、王都を包む鐘が鳴る。
薄雲の彼方に、巨大な城の天頂が光った。
その中心にいる“勇者”の名を持つ男と、かつて最弱と呼ばれた村人の運命が、いま再び交わる。
続く
聖堂を中心に白い石畳の街並みが輝くが、その美しさの下には緊張と不安が満ちている。
民の笑顔はなく、衛兵たちは街角ごとに立ち、空気が張り詰めていた。
その空を、馬車が一台駆け抜けていた。
中にはリオとリア、そしてシリスの姿。
王都を目指して数日。彼らはようやくその塔の影を視界に収めた。
「すごい……やはり王都は壮麗ですね。まるで空まで届きそう。」
リアの瞳がガラスのように輝く。
「壮麗さと平和は比例しないにゃ。この空気、どこか臭うにゃ。」
「俺も感じてる。王都全体が“何か”に覆われてる。」
リオの瞳に淡い光が宿る。生命の流れを視る力。その視界に映った王都は、命の糸が乱れ、黒い靄のようなものが街中を這うように蠢いていた。
「……まるで、人々の心に闇が入りこんでるみたいだ。」
「おそらく、それが“黒き王”の影響です。封印が徐々に解けている。」
やがて馬車は王都の大門に差しかかる。
衛兵が立ちはだかり、槍を構えて命じた。
「通行証を見せろ。」
リアが胸元から小さな紋章を取り出す。それは聖女の証、神殿の印。
「私は聖女リア。神殿の名において、王に謁見を求めます。」
衛兵たちは目を見開く。だが次の瞬間、彼らの顔が歪む。
「……リア、様? 本当に本人か?」
「何を言っているのです?」
「あなたは三日前に“死亡”したと報告されている!」
空気が凍りついた。
リオが一歩前に出た。
「今ここにいる。お前たちの報告は偽物だ。」
だが、兵たちは混乱の表情を隠せない。
彼らにとって、聖女は神官の頂点。彼女が死んだという報告そのものがおかしい。
「……一度、確認を取らせていただきます。」
彼らは焦りながら走り去った。
リアは拳を握る。
「やはり、神殿の中に敵がいます。」
「ああ。お前を排除したかったんだな。生きてるお前は邪魔なんだ。」
待つことしばし。
やがて、神殿の紋章を掲げた一団が現れた。先頭に立つのは美しい装飾の鎧に身を包んだ女勇者――フィアだった。
「……リオ。やっぱり、おまえが生きてたか。」
「フィア……まさか。」
再会の瞬間、リオの胸に芽生えたのは懐かしさではなかった。硬質な冷たさだ。
「どうしてここに? 勇者パーティは……」
「勇者アルト様の命で来た。あなたを“拘束”し、王城へ連れていけと。」
「拘束? 理由はなんだ。」
フィアの瞳が一瞬揺らいだ。
「……あなたが、“禁忌の力”に手を染めたから。」
周囲の衛兵たちが構える。
リアが立ち上がろうとするが、フィアが封印の魔法陣を地面に展開した。
轟と風が走り、金色の鎖がリオの足元に絡みつく。
「フィア、やめろ。これは間違いだ!」
「違わない!」
フィアの叫びが夜気を裂いた。
「勇者アルト様は苦しんでおられる! あなたが我々を裏切り、神の怒りを招いたのだと!」
「そんな話、誰が信じる!」
「私は信じる。あなただけは信じたかったのに……!」
フィアの目に涙が光った。
その姿に、リオの胸が軋む。彼女は本気で苦しんでいた。だがその信念は歪められている。
「アルトの言葉なんて信じるな。奴は……!」
「それ以上言うな!」
次の瞬間、彼女の剣が閃いた。
純白の光がリオを襲うが、リオは瞬時に風の盾を展開し、衝撃を受け止める。
地面が割れ、周囲に砂塵が舞った。
「にゃっ、思いっきり来たにゃ!」
「手加減できるか!」
リオは腕を振る。
地面の草木が一斉に伸び、フィアの足元を縛りつけた。
「動くな。俺は戦いたくない。」
「嘘よ。あなたはそんな力……昔は持っていなかった!」
「持ってたさ。ただ気づかなかっただけだ。」
フィアの顔が苦悶に歪む。
「そんな言葉、信じられない! 私はあなたを探してたのに!」
「探して? 追放したくせにか?」
「私は……! 私はあなたを止められなかった!」
涙混じりの叫びと共にフィアの魔力が暴走した。
鎖が弾け、周囲を黄金の光が包み込む。
「やめろ、フィア!」
だがフィアの意識はもう限界だった。
リオは咄嗟にリアの前に立ち、光を吸い取るように腕を伸ばした。
「〈採取〉――命の変換、封印へ!」
光が収束し、嵐のような魔力がリオの腕を通して地へと吸い込まれる。
静寂。わずかに焦げた風だけが残った。
フィアはその場に崩れ落ちる。
「リオ……ごめん。私、彼を止められなかった。勇者アルトは……血によって、神の力を手に入れようとしているの。」
「血……?」
「あなたのような存在の血よ。創世の加護を持つ者の……それを“聖なる秘薬”にしようとしている。」
リオの拳が震えた。
自分を追放したあの男が、今度は自分を狩ろうとしている。
しかもリアまで狙う――
「……ありがとう、フィア。もう十分だ。」
リオは彼女を抱き上げ、リアが祈りの光で彼女を眠らせた。
「リオ。」
リアが静かに言う。
「あなたはどうするの?」
リオは答えなかった。
ただ夜空を見上げ、両手を握る。
「アルト……今度は俺が、お前を裁く。」
風が唸り、王都を包む鐘が鳴る。
薄雲の彼方に、巨大な城の天頂が光った。
その中心にいる“勇者”の名を持つ男と、かつて最弱と呼ばれた村人の運命が、いま再び交わる。
続く
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