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01. 義妹は突然に
しおりを挟む侯爵家の長女に生まれた私、セシリア・フィングレイの目の前に、ある日突然、義妹が現れた。
事の発端は、今から1年近く前、私が17歳のときに、父が見知らぬ少女を連れて来た日にさかのぼる。
家族での夕食の席に部外者を連れ込んだ父は、こう言った。
「彼女はメリル。今日から私の養女としてこの屋敷で暮らすことになった。よろしくしてやってほしい」
その発言をその場に居合わせた誰もが処理できないでいるのに、紹介されたメリルという少女は愛想良く笑ってみせた。
「メリルです。これからどうぞよろしくお願いします」
その後は、和やかに食事、というわけにはもちろんいかず、ひと騒動となった。
私や弟と同じく何も聞いていなかったらしい母は、どういうことかと父に静かに詰め寄っていた。
そしてそのまま、二人は用意されていた夕食に手を付けることなく、場所を移しての話し合いに突入した。
そこで父と母がどのようなことを話したのかは、知らない。
ただ、父の中でメリルとやらを養女とするのは確定事項であったらしいことと、話し合いを終えて部屋から出て来た母がひどく疲れた顔をしていたことを覚えている。
そして、私自身、その初対面の夕食の席から嫌な予感はしていたのだ。
「お義父さまとお義母さま、行ってしまいましたね⋯⋯どうしましょう。
⋯⋯でも、せっかくのお食事がもったいないですよね。冷めてしまわないうちに食べてしまいましょう」
せっかくのお食事の時間─家族団らんの場でもある─をぶち壊した張本人が、状況を処理しきれずに固まっている、この家の本当の家族を差し置き、そう言ってのけた。
そして、あろうことか席を外した母の席─当主夫人の位置である─に座ったのだ。
「お義父さまとお義母さまには申し訳ないですけど、先にいただいてしまいましょう。⋯⋯セシリアお義姉さまに、トリスタン」
トリスタンは私の弟の名だ。
うれしそうに、でも少し恥ずかしそうにそう私たちの名を呼んだ彼女は、ふふふと幸せそうに笑った。
理解の追いつかない状況、理解できない相手に頭の中は混乱を極めていたが、私はなんとかこれだけを口にした。
「⋯⋯お義姉さまなどと呼ばないでください。メリルさん」
詳細は、父が濁したから分からないが。
メリルという少女は、父の友人の一人娘であるらしい。
しかし、彼女の両親は不幸に見舞われ、本来は彼女が手にするはずだった家の権利も親族に奪われた。
友人の不幸とその娘の窮地を知った父は、虐げられていた彼女を助け出し、養女とすることを決意したらしい。
その話だけを聞けば、確かにメリルに同情はする。
だが、だからといって養女云々となると話は別だ。
しかも、母や家令にまで何の相談もないのはまずい。
しかし、何度も言うがこれは父の中で決定事項であるようで。
「フィングレイの当主である私が決めたことだ、異論は許さない。⋯⋯それとも何だ、友人の子を見捨てろと?あのけだものたちが乗っ取った屋敷に今からメリルを戻せと言うのか?」
そう言って、相談のなかったことを詫びるどころか、そもそも何故相談が必要なのかと開き直り、突然の話に困惑してすぐに受け入れられなかった母や家令を冷血だと罵った。
大義名分は我にあるとばかりに、これみよがしに母や家令に罵声を浴びせる父は、本当に救いようがない。
メリルを一時的に保護するというのなら分かる。
しかし、養女となると父の一存で押し通せるものではない。
父が言ったフィングレイの名──侯爵家の名は、それなりに重いのだ。
娘の前でも構わずに母をなじる父は、その辺りのことを分かっているのだろうか──そう思って横目で母をうかがった視線を、私はすぐに父へと戻した。
見てはいけないものを見た気分だった。
母は、"月の女神"と讃えられた美貌を冷たく凍らせ、おそろしいほどの無表情で父を見ていた。
結局、父は折れず、当のメリルもすでに侯爵家の一員のような顔をして振る舞っていて⋯⋯
無理やり押し込まれる形で、"義妹"だという人間が屋敷に一人増えることとなった。
そして──そこから、悪夢のような、出来の悪い喜劇のような日々が始まることとなる。
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