【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季

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03. 憂鬱な晩餐 〜夜会のドレス

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まったく心休まらなかったお茶の時間の後、やって来た家令とあれこれと話をする。
そうしている間にそろそろ夕食の時間だからと、食堂へと向かった。

この後また精神力を削られるのかと思うと、憂鬱だった。


食堂の扉の前に来ると、中から父の声が聞こえてきた。

「──新しいドレスは、本当に見事で似合っていたんだ。また人々の注目を集めてしまうな」

その内容にまたため息が出たが、諦めて扉を開いた。
その先、食堂には3人が着座していた。
それを認めて、すぐにドレスをつまんで頭を下げる。

「遅くなってしまい、申し訳ありません」

顔を下げる一瞬前に見えた父の顔は、気まずげだった。

「あ、あぁ、セシリア。私たちが早かっただけだ、まだ準備も終わっていない」

食事を囲むメンバーはそろっていた。
少し動揺しながらもそう返す父に、私の登場にむっつりと不機嫌そうな顔になった弟、
そして──

「お義姉さま!聞いてください、お義父さまが作ってくださった新しいドレスが届いたんです!」

弾けんばかりの笑顔を向ける、メリルだ。
父に連れられ、夕食時に突然現れてから約1年、彼女の姿が食卓にあるのはすっかり当たり前となってしまった。

「セシリアには前に新しいドレスを用意しただろう?だから今回はメリルのドレスを新調したんだ」

聞いてもいないのに父は喋る。おそらく気まずいからだろう。
ちなみに"前"と言ったが、確かその"前"は年単位の"前"になると思うのだが。
それに対し、確か先月にもメリルのものは新調していた気がする。

「父上、姉上に気を遣う必要はないでしょう。姉上と母上はさんざん散財していましたから」

言い訳がましい父にそう言ったのは、弟のトリスタンだ。顔は分かりやすくしかめられ、声も刺々しい。

3つ下のトリスタンは、12の歳から騎士学校に通っていたが、この間15歳を迎えて騎士見習いとなり、それ以来騎士団の宿舎で寝起きしている。
帰ってくるのは、休暇のときや参加しなければならない夜会等があるときだけだ。

そして、もともと良好とは言い難かった弟との仲は、このおよそ1年の間に悪化の一途を辿っていた。

「お帰りなさい、トリスタン。お元気そうで何よりですわ。
⋯⋯それよりも、散財というのは?」

身に覚えのない言葉を聞き返せば、弟は馬鹿にするように鼻を鳴らした。

「夜会の度に母上とドレスや装飾品を新調していたのに、覚えがないとはさすがは姉上ですね」
「新調した覚えはありません。手直しは毎度致すようにしておりますが」
「金をかけているのだ、似たようなものでしょう」

いいえ、全然違うわよ。
動かさなかった表情筋の下で吐き捨てる。

そもそも、別の夜会に同じドレスで参加することが、主催者に対して失礼な行為なのだ。
故に、手直しをして印象を変えたり、期日の近い夜会に似た雰囲気のドレスを着ないようにしたりと心がけているし、デザインの流行り廃りにも気を張っている。
そうやって、余程大規模な夜会─王家主催など─でなければ、あるものを手直しでなるべく間に合わせるようにしてきたのだ。

正直に言えば、毎回ドレスを新調できた方が楽なのだが、そんな経済的余裕は残念ながら当侯爵家にはないために、毎回毎回、母と工夫を凝らしている。
そんなことを気にするはずもない弟や父にしてみれば、女二人が毎回相談してドレスや装飾品に金を注ぎ込んでいるように思ったのだろうが。

「トリスタン、お義姉さまにあまりきつく言ってはダメよ、もう昔のことなんだから!
⋯⋯でも⋯⋯羨ましいわ、お義姉さまったらそんなにたくさんドレスやアクセサリーを作っていたなんて」

弟を諫めてみせてから、彼女は表情を曇らせる。

ほとんど着の身着のままで侯爵家にやって来た彼女に、母も私もさすがに当初は同情して、当座の服を与えたのだ。
すると彼女はいたく感動し、涙を浮かべながらも健気に笑ってこう言った。

『うれしいです!このように美しいドレスが本当にわたしのものなのですか?夢みたいです!』

この言葉に衝撃を受けたのは父だった。なんて可哀想な目に遭っていたのかと。
それ以来、彼女が欲しいと言ったものをあれこれ買い与えるようになったのだ。
そして、そこで遠慮するメリルでもなかった。いや、表向きは遠慮しているのだが、鈍い父に分かる程度には露骨に、欲しいものを伝えるのだ。

さすがに与え過ぎだと母や私が諫めても、両者とも止まらない。
挙句、可哀想な目に遭ってきたメリルを邪険にするなどなんて冷血な女どもかと、父に罵られる始末だ。

──お父様も彼女も、資金が無限に湧いてくるとでも思っているのかしら。

これもまた頭痛の種である。
父自身、侯爵家の一人息子として溺愛されて育った典型的なお坊っちゃまで、もとより浪費の方が得意分野なのだ。金は使えど、領地運営などの生み出す方に注力しようとはしない。
メリルが来てからは特に顕著だった。

「ねぇお義父さま、わたし、やっぱり侯爵家の娘としてはドレスが少ないですか?」
「うん?いや⋯⋯どうなのだろうな?」
「お義姉さまもお義母さまも、衣装部屋いっぱいにドレスを持っていらっしゃるわ。わたしなんて、まだ全然」

それはそうだろう。この邸に住んできた年月が違う。
しかもドレスなんて滅多に捨てないから、小さい頃の物からずっと溜まっているのだ。
それに対し、彼女は着の身着のままでたったの1年前に当家に来たはずなのに、もう大きなクローゼットいっぱいに流行のドレスや豪華な装飾品があれやこれやと詰め込まれている。──すべて彼女の欲しがるままに、父が買い与えた物たちだった。

「⋯⋯私は十分過ぎるほどだと思いますけれど」
「このままじゃ侯爵家の娘として恥をかいてしまいますわ、お義父さま!何とかしてください!」

無駄だと思いながらも横から口を出すが、それに覆い被さるように、メリルの高く大きな声が響く。

「さ、さて、食事の用意が整ったようだ。いただこうか」

お坊っちゃまな父でも、さすがにこう何着も何着も新しいドレスを新調していると厳しいことは分かっているのだろう。
しかもメリルの作らせるドレスは、仕立て屋を呼びつけてのオートクチュールなのだ。非常に高額なものである。
いつもならば手放しで喜ぶメリルの無邪気なお願いを誤魔化すべく、慌てて使用人たちが整えた夕食に注意を向けさせた。──こういうときこそ、誤魔化すのではなく当主としてビシッと言えないのだろうかといつも思う。

そうして、神への感謝の祈りを捧げてから、晩餐が始まった。
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