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ヴァリシュの断罪劇
しおりを挟む『ヴァリシュの断罪劇』は、当時の王太子が迎えた卒業式後の舞踏会で起きた。
王太子の重大な告発があるとの発表のもと、王太子に庇われるように、顔色の悪い平民の少女マリアナが立ち、その周りを4人の貴公子が固めたのだ。
王太子の覚えめでたい4人の顔ぶれは、騎士団長を拝命する公爵の子息、宰相を拝命する公爵の子息、広大な領地をもつ侯爵家の子息、豪商から成り上がった男爵の子息である。
「この学院の原則である平等を侵し、平民である彼女マリアナを軽んじ、悪辣非道な行いをした恥ずべき者たちがいる」
朗々とした王太子の声は、続いて4人の令嬢たちの名前を呼んだ。
マリアナを庇うように立つ、男爵子息を除く4人の貴公子たちの婚約者である少女たちの名だった。
4人の令嬢たちは一切動じることなく、おもむろに前へと進み出た。
王太子妃となるはずの令嬢が、口を開く。
「恐れながら申し上げます、殿下」
「なんだ。申し開きがあるならば申せ」
「わたくしたちがマリアナさんに対して非道な行いをしたとおっしゃいましたが。しかし、わたくしたちにはそのような心当たりはございません。一体、どの行動を指しておっしゃっているのでしょうか?」
静かだが張りのある声に返ったのは、冷笑だった。
「これはこれは、なんと恐ろしいことだ!あれだけ極悪非道な行いをしておきながら、その自覚もないという!」
「ですから、どの行為を指してそうおっしゃっているのでしょう?」
「マリアナの悪評を流したり、面と向かって罵ったり、私物を隠したり⋯⋯果ては彼女を亡き者にしようと階段から突き落としただろう!」
苛ついたように王太子が声を荒げるも、令嬢たちは一切取り乱さなかった。
「そのようなことはいたしておりません」
「しらばっくれるな!」
「では証拠は?」
業を煮やして叫んだ別の令息に対し、令嬢は静かに問い返した。
「このように衆目のもと糾弾なさったということは、相応の証拠を押さえておいででしょう。ご提示ください」
「小賢しい貴様らだ。証拠を残さずすべてをやってのけたくせに、よくぞしゃあしゃあと宣えたものだ」
「ええ、何もいたしておりませんゆえ」
「証拠がなくとも貴様らが罪を犯したことに変わりはない!王太子であるこの私の言葉を疑うのか!」
もはや暴論である。
成り行きを息を殺して見守る他の貴族子女たちにも、この一方的な断罪劇への不信感からざわめきが生まれる。
令嬢たちは呆れどころか疲れが見える顔で、深々とため息をついた。
「殿下のお気持ちは分かりました。わたくしたちは誓ってマリアナさんへの恥ずべき行いはいたしておりませんが、殿下のご不興を買ったのは間違いがないようですね」
王太子の婚約者である少女はそう言うと、他の少女たちに視線を向けた。
言葉はなくとも心は一つとばかりに、彼女たちも頷く。
「そんなわたくしたちがこの場にいても、華々しい晴れの舞台を白けさせてしまうだけでしょう。わたくしどもはこれで失礼いたしますわ」
淡々と告げ、理知に輝く瞳を険しくして5人の貴公子と一人の少女を見据える。
「殿下のおっしゃるマリアナさんへの非道な行いについては、第三者による検証会を立ち上げ、その検証結果を待った上で、論ずることといたしましょう。それまでわたくしどもは銘々の屋敷に控えておりますわ」
──それでは、ご機嫌よう。
4人の令嬢は、どこまでも優雅で美しいカーテシーを披露して、その場を後にした。
──そして、残された5人の貴公子と一人の少女は、一時の勝利に酔いしれたのだった。
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