16 / 42
ヴァリシュ魔法学院の転落
しおりを挟む舞踏会の後、すぐさま事態は動いた。
まず、4人の令嬢の実家─すべて伯爵家以上の高位貴族家である─は、娘たちから舞踏会の顛末を聞くと激怒した。
貴公子たちの家に抗議するのはもちろん、王家に対しては4つの家連名で不服申し立てを奏上した。
慌てたのは貴公子たち側の家だ。
息子からは婚約を考え直したいという旨の言葉があったが、子細については何も聞いておらず、しかも舞踏会を主催した学院側からも何の報告もなかったのだ。
すぐさま他家の子女等に話を聞いて事の次第を明らかにしたのだが、その顛末には呆れ果てるどころか卒倒する親もいたほどだ。
そんな中、真っ先に動いたのは王家だった。
有力な四家連名の申し立てを重く受け止め、すぐさま第三者機関による調査機関を立ち上げ、4人の令嬢にかけられた嫌疑を調べさせた。
しかし、その調べもほとんど建前のようなものだった。
すぐに4人の令嬢にかけられた疑惑は、冤罪であると断じられた。
そして、その結果が出ると同時に、国王は騒動の責任を取らせると王太子を廃嫡したのだ。
その上で、長らく正式な管理者のいなかった離島の領土に、国王陛下の名代として元王太子を派遣するという──実質上の追放を言い渡した。
この動きを受けて、すぐさま他の貴公子たちの家も動いた。
貶めた令嬢たちの家に、正式な謝罪と賠償を申し出たのだ。
対する令嬢方は、婚約者の家にはそれらに加えて婚約の破棄を申し付けた。
貴公子方はそれに抗おうとしたが、ほとんどの家は結局それを飲むことになった。
さらに、子息を廃嫡する家や、親が役職を返上する事態になった家もあった。
唯一婚約者のいなかった男爵子息の家は、すべての令嬢たちの家─言うまでもなく格上の家だ─に多額の賠償金を支払い──マリアナと婚姻を結ぶこととなった。
この決定を知った者は皆首を傾げたが、背後には王命があったと言われる。
事の重さに事態を知る貴族家は口をつぐむことを選んだが、マリアナは平民だ。断罪劇の当事者を市井に放すのは、様々な理由から危険と判断されたのだろう。
貴族家に嫁がせることで監視下に置こうとしたようだった。
こうして、貴公子側の一人であり、家格も低く婚約者のいなかった、平民上がりの男爵の子息に白羽の矢が立ったのだ。
しかし、首謀者とも言うべきマリアナへの処罰がない─むしろ彼女が一人勝ちしている印象を受ける─という結果は、様々な疑惑や憶測を呼んだ。
曰く、そもそもマリアナは貴公子たちを貶めるために雇われた平民だったのだ、と。
曰く、実はすべての糸を引いていたのは令嬢方で、貴公子たちは嵌められたのだ、と。
曰く、元王太子は王座に相応しくないと、周囲の取り巻きもろとも引きずり落とそうとする反王太子派の謀略だったのだ、と。
だが、それらすべてはあくまでも憶測の域を出なかった。
やがて、貴族社会は表向きは平静に戻った。
しかし、平静に戻らないところがあった。
断罪劇の舞台となったヴァリシュ魔法学院である。
貴族間の賠償等の話が落ち着くと、次いで魔法学院の責任を問う声も上がったのだ。
学院主催の舞踏会であれほどの騒ぎが起こっていながら、学院側は止めもせず家に連絡することもなく、すべて無かったことで通そうとしていたからだ。
高位貴族の家からの追及を受け──驚愕の事実が明らかになった。
なんと、元王太子が勝手に国費を投じて、何事にも不干渉を貫くよう、学院側を買収していたというのだ。
しかも話はこれだけでは終わらない。
叩けば叩くほど、次々と学院の不正が出てきたのだ。
裏口入学や単位・成績の操作、不祥事の揉み消し、気に喰わない学院生の追放などなど。
学院は、いずれも金さえ積めば随意に取り計らっていたようだった。
──王家の庇護を受け、貴族に名門と持て囃され、平民の憧れとなった学院の、どうしようもない堕落がそこにあった。
それらの不祥事を調べ上げた王家は、すぐさま学院への支援を打ち切り後ろ盾を止め、学院に通っていた王族関係者を引き上げさせた。
すると、貴族たちも続くように、次々と学院を辞めて去っていった。
学院側は慌てて健全化を図るも、すべては遅すぎた。
──こうして、長らく国随一の教育機関であり続けたヴァリシュ魔法学院は、『ヴァリシュの断罪劇』をきっかけに、僅か数ヶ月足らずで終焉を迎えたのだった。
359
あなたにおすすめの小説
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
私の、虐げられていた親友の幸せな結婚
オレンジ方解石
ファンタジー
女学院に通う、女学生のイリス。
彼女は、親友のシュゼットがいつも妹に持ち物や見せ場を奪われることに怒りつつも、何もできずに悔しい思いをしていた。
だがある日、シュゼットは名門公爵令息に見初められ、婚約する。
「もう、シュゼットが妹や両親に利用されることはない」
安堵したイリスだが、親友の言葉に違和感が残り…………。
私ではありませんから
三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」
はじめて書いた婚約破棄もの。
カクヨムでも公開しています。
透明な貴方
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
政略結婚の両親は、私が生まれてから離縁した。
私の名は、マーシャ・フャルム・ククルス。
ククルス公爵家の一人娘。
父ククルス公爵は仕事人間で、殆ど家には帰って来ない。母は既に年下の伯爵と再婚し、伯爵夫人として暮らしているらしい。
複雑な環境で育つマーシャの家庭には、秘密があった。
(カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています)
〈完結〉貴女を母親に持ったことは私の最大の不幸でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」ミュゼットは初潮が来た時に母から「唯一のこの家の女は自分」という理由で使用人の地位に落とされる。
そこで異母姉(と思っていた)アリサや他の使用人達から仕事を学びつつ、母への復讐を心に秘めることとなる。
二年後にアリサの乳母マルティーヌのもとに逃がされた彼女は、父の正体を知りたいアリサに応える形であちこち飛び回り、情報を渡していく。
やがて本当の父親もわかり、暖かい家庭を手に入れることもできる見込みも立つ。
そんな彼女にとっての母の最期は。
「この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。」のミュゼットのスピンオフ。
番外編にするとまた本編より長くなったりややこしくなりそうなんでもう分けることに。
〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。
【完結】妹は庶子、文句があるか? 常識なんてぶっ飛ばせ!
青空一夏
ファンタジー
(ざまぁ×癒し×溺愛)
庶子として公爵家に引き取られたアメリアは、
王立学園で冷たい視線に晒されながらも、ほんの少しの希望を胸に通っていた。
――だが、彼女はまだ知らなかった。
「庶子」の立場が、どれほど理不尽な扱いを受けるものかを。
心が折れかけたそのとき。
彼女を迎えに現れたのは、兄――オルディアーク公爵、レオニルだった。
「大丈夫。……次は、俺が一緒に通うから」
妹を守るためなら、学園にだって入る!
冷酷なはずの公爵閣下は、妹にだけとことん甘くて最強です。
※兄が妹を溺愛するお話しです。
※ざまぁはありますが、それがメインではありません。
※某サイトコンテスト用なので、いつもと少し雰囲気が違いますが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる