【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季

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22. 彼の選択 〜護るもの

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「捕⋯⋯まった⋯⋯?」

トリスタンが呆然と繰り返した。
だが彼はすぐに、私を見つめていた目をラザル卿に向けた。

「──事実だ。これもまだ機密事項だがな」

顔をしかめつつも、ラザル卿が答える。
すると突然、狂ったような女の笑い声が響いた。

「あの男、捕まったの⁉︎ あーあ、馬っっ鹿みたい!俺は次期公爵だって、あんだけ大口叩いてたクセに!」

人の不幸が余程おかしいのか、メリルはケタケタと不愉快な笑い声を上げる。
彼女自身も今まさに騎士に拘束されているというのに。それとも、彼女なりに現実逃避しようとしているのか。

「ねぇ子爵さま!あの男も極刑なの?極刑よねぇ、公爵の暗殺未遂だもの!」
「たいへん愉快そうなところ申し訳ないけれど、メリルさん。サイラスが捕まったのは別件よ」
「はぁ⁉︎」

歪んだ笑いを浮かべる彼女に言えば、噛みつくような勢いでこちらを向く。
彼女みたいにあの男も簡単にボロを出してくれるならいいのだが、そう上手くはいかない。
故に、あの男は別の罪状で押さえたのだ。

またラザル卿に視線を向けたら、渋い顔をされた。

「⋯⋯サイラスは、横領その他の罪で捕まっている。公爵暗殺未遂やその他の殺人の嫌疑については、これから詰める」

あの男は、あろうことか騎士団の金を掠め盗っていたのだ。
加えて暴行と恐喝も犯していたが、それは金を強請り出させるために、騎士団付きの財務官に対して行っていたという。

「不法にせしめたお金で高級娼館通いをしていたんですって。娼婦美しい花たちを侍らせて、お大尽様ともてはやされて、悦に浸っていたそうよ。随分と高潔なご主人様ね」

愚かな弟が信じる素晴らしい騎士の姿をぶち壊してやろうと、あえて嫌味たらしく言ってやる。

すると、ラザル卿がわざとらしく咳払いをした。
これは言ってはならぬ情報だったか──と思ったら、家令が非難の眼差しを向けているのに気づいた。
確かに貴族の女性としてはあまりよろしくない言葉の交じった台詞だったかもしれない。
今さらながら、私も咳払いをして誤魔化しておいた。

「──とにかく、サイラスの身柄を騎士隊が押さえていることに間違いはない」

ラザル卿が取り成すように言ってくれる。
トリスタンは、とうとう俯いてしまった。

「⋯⋯トリスタン、お前もそれなりの志をもって騎士を目指したはずだ。そんなお前が護ろうとしているものは何だ」

そのいかめしい顔つきに反し、ラザル卿は穏やかな声色でトリスタンに言う。
事ここに至って、この愚か者にまだそんな言葉をかけてくれるなんて、なんだかんだ彼は優しい人なのだと思った。

──だけどきっと、そんな風に優しい言葉ではこの愚弟は止まれないから。

「サイラスは公爵位なんて話どころではなく、もう社交界にも戻れないわ。この先、どれだけの罪が認められるかだけれど、命があるか、命があっても一生日陰を歩むことは避けられないでしょうね」

弟がぐっと唇を噛み締めるのが見えた。
剣の柄にかけた手は震えている。

彼だって分かっているのだ。もう、すべてが無駄だと。
自分が信じたものは──幻だと。

「⋯⋯それで?トリスタン。単刀直入に聞くわ。
──これでもまだ、その醜悪な我儘お嬢さんを護る価値は、本当にあるの?」

彼は瞑目し──震えるその手が、剣の柄から離れた。
その腕が、脱力してだらんと下がる。

「──え?な、何をしてるの?トリスタン」

縋るようなメリルの声にも、答えない。
その方を見ることもなかった。

彼は黙って──騎士たちに行く手を譲った。

「は⋯⋯はあぁッ⁉︎ ちょっと!何してるのよアンタは‼︎」

メリルが絶叫した。
彼女を押さえる騎士たちがうるさそうに顔をしかめる。

「馬鹿じゃないの⁉︎ わたしを助けなさいよ!早く!ねぇ、早く‼︎」

トリスタンはその罵声にも一切反応を示すことなく、ラザル卿のもとに向かった。
剣から手を離している彼に、ラザル卿も武器に手をかけることはない。

「ラザル第一騎士隊長、──愚かな行動をお詫びいたします」

その前に膝を着き、首を差し出すように深々と頭を下げ──それきり、トリスタンは動けないでいるようだった。
ラザル卿は軽く頷き、控える騎士に視線を送った。

「騎士の職務妨害で確保する。剣を渡しなさい」

トリスタンは素直に腰に提げた剣を渡した。
武芸の心得がある彼は、差し出した手をそのまま縄で縛られたが、俯いたまま何も抵抗をしなかった。

「そのまま詰所まで同行してもらうぞ。貴殿もサイラスに関与していたとなれば、話を聞かせてもらわねばならない」
「⋯⋯はい。もちろんです」

その間もメリルは引き続き大音声で罵倒の言葉を叫んでいたが、あまりにヒステリックなその様子に、ほとんど人語としては聞き取れなかった。

「⋯⋯うるさいな。黙らせろ」
「はっ」

結局、ラザル卿の一声で猿ぐつわを噛まされることになった。
そのときにも、騎士の指に噛みつこうとするように歯を剥いており、もう貴族令嬢どころか人間以下、獣か何かに成り下がったようだった。
猿ぐつわを噛ませても激しく唸り、噛みちぎろうとする姿には恐れ入った。

「ラザル子爵様、お手数をおかけいたしましたこと、深くお詫びいたします」

今にも倒れそうな顔色だった母は、家令に勧められて椅子に腰を下ろしていた。
そのため、代わりに頭を下げる。

「⋯⋯大したことのない案件の割には、とんでもなく疲れた」
「そうでしょうね。重ね重ね、申し訳ありません」

ラザル卿の正直な感想に、苦笑を禁じ得ない。
私自身、この小一時間ほどで数日分の疲労を感じていた。

「──3名を連行する」

改めてのラザル卿の号令により、拘束された三人は粛々と─メリルは相変わらず唸りまくっていたが─引き立てられていった。






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これ以降は、その後の沙汰や断罪劇に至るまでの裏話なんかをあれこれと⋯⋯。
蛇足的な感じになるかもしれません。
それと、話数を減らすために1話あたりの文字数が重めになります(^ ^;)
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