悪役令嬢が行方不明!?

mimiaizu

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143.虫?

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「それにしても汚いですね。まるで黒光りする虫のようです。もうそろそろ触るのも嫌になってきました」

「む、虫!? それに、汚いですって!?」

虫、と表現された挙句汚いと言われて、ワカナは怒りが更に込み上げる。そんなこともお構いなしに、ミルナは更に言葉を続ける。

「ええ。とても貴族令嬢の身だしなみとは思えませんわ。いくら逃亡中でも平民でもしないような格好をなさるなんて。髪を整えたり湯あみをするのも一人ではできないからですね。一般的な悪役令嬢……ああ失礼、もう貴族ではないのだから狼藉者ですね」

「あ、悪役? って、ふざけんな! あんたのせいだろうがぁぁぁぁぁ!」

「喚かないでください。うるさいので」

「きいいいいい! コケにしやがってえええええ!」

ワカナは暴れて抵抗しようとするが、ミルナにしっかり力強く押さえつけられて何もできない。

「無駄ですよ。これでも鍛えてる方ですので」

「畜生、出番よ! オルマー!」

「うへへへへへ………」

「!」

ワカナの呼び掛けに応じて、オルマーと呼ばれた目が虚ろな怪しげな男が現れた。この男もまたナイフを手に持っていた。

「おや? 仲間がいましたか。面倒なことを」

「あはははは! この私が一人で動くような馬鹿だと思った? 大間違いよ馬鹿じゃないの? こんなこともあろうかと、がはっ!?」

全てしゃべりきる前に、ワカナは思いっきり頭を殴られて気絶した。

「ききききき、貴っ様ぁぁぁぁぁ! なんてことしやがるぅぅぅぅぅ!」

「峰打ちですよ。貴方を潰すためにも彼女の面倒は見きれませんからね」

ワカナが気を失ったのを確認してミルナは立ち上がる。何しろ、異常な怒りを露わにしだした怪しい男が目の前にいるため、愚かでか弱い元貴族令嬢を押さえつける余裕はない。思わぬ敵が現れてミルナも流石に緊張せざるを得ないのだ。鍛えているといっても、相手の実力が未知数である以上、ワカナのような弱い相手とは違う。 

「許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さないぃぃぃぃぃ! よくも俺のワカナ様をぉぉぉぉぉ!」

「自業自得ってやつですよ。はぁ、それにしても面倒ですねぇ」

「ぶっ殺してや、ぐへっ!?」

異常な怒りと殺意をむき出しにしたオルマーは後ろから後頭部に蹴りを入れられた。蹴りを入れたのはミルナの婚約者エンジだった。

「俺の婚約者に手出しをするな!」

「エンジ君。ナイスタイミング!」

オルマーはそのまま倒れて気を失った。その様子を見てミルナは一安心だった。エンジはそんなミルナを心配してすぐに傍によって抱きしめる。

「ありがとうエンジ君。助かりました」

「ミルナ! 大丈夫か!? どこか怪我はないか!?」

「心配事しなくても私は傷ひとつありませんよ」

「すまなかった! この女が君を襲ってくるなんて思ってもいなかった。何故こんなことを………」

エンジは信じられないような目で、倒れている愚か者達を睨み付ける。

「どうも、家が潰れたのは私が元凶だと思ったそうです」

「何だって!? まさか、君を逆恨みするなんてどういう思考回路しているんだ!」

エンジは気絶しているワカナを憎々しげに見る。あまりの愚かさに激しい怒りを抱かずにはいられないのだ。もう少し遅かったら、と思うと間違いなく怒りを抑えられないだろう。

「取り敢えず彼女達を拘束しましょう。起きたらまた襲い掛かってきそうですし」

「そうだな。それにしてもよく対処できたものだ。すごいじゃないか」

「あの家の侍女をしておりましたので。護身術は必須でした。特にそこの女の我が儘が酷くて……」

ミルナは冷たい表情でミルナとオルマーをチラッと目で睨む。エンジはそんなミルナの横顔を今まで見たことがなかったため、一瞬だけゾクッと感じた。

「!? ………そ、そうか。そうだよな。それでも大したものだ」

「ふふふ、ありがとうございます。それでは彼女達を縛って報告しましょう」

「ああ、俺から連絡を入れよう」

二人は倒れた者達を縛り上げて町の衛兵に預けることにした。
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