【完結】すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ

一終一(にのまえしゅういち)

文字の大きさ
35 / 141
第1章 誕生編

第35話 誕生

しおりを挟む
 王城の玉座の間。女王マルメロ、教皇、王族貴族など、正装を着た錚々そうそうたる面々が揃っていた。

 俺は黒鎧の団長ゼロにふんし、聖騎士団の代表として一人参加していた。

「ゼロよ。前へ」

「はっ!」

 女王と教皇の前に跪く。まずはマルクト王国を救ったものとして叙勲を受ける手筈になっている。

「此度の活躍、見事であった。その功績を讃え栄誉勲章を授ける」

 手渡された勲章を見ると、神樹をあしらっていて神聖だ。高値で売れそう。はっ、俺はなんて罰当たりなことを!

 周囲に集まった貴族達から拍手が起こる。

 続いて前に出てきたのは“パフィ”教皇。ヨボヨボのお爺さん。目が虚ろなのが怖い、じゃなかったカワイイ。全然話したことはないけど、聖騎士団の認可には教皇の承認が必要なので感謝している。

「ゼロ君、マルクト王国を救ってくれて感謝いたします。神樹セフィロト様もさぞお喜びでしょう。未来永劫、我らがセフィロト教の剣として、また盾として共に歩めることを心より願っております」

 教皇は、宰相さいしょうの持ってきた煌びやかな箱を受け取り、聖騎士団の紋章をこちらに差し出した。

 俺は恐る恐る紋章を手に取り眺める。神樹に重なるように十字があり、その下に死神の鎌が二本ばつ印を描くように配置されていた。

「嬉しいじゃろ? 草刈り器のデザイン」

 ボソリと呟く女王。草刈り器言うな。でも嬉しい。ポテトのドリルじゃなくて良かった。

 さっそく胸に付けてみると強くなった気がした。俺の防御力が10上がった。個人の感想です。

「感謝致します。これに驕らず聖騎士団アインの名のもとに、国、女王陛下、教皇聖下、国民、セフィロト教信徒、及び神樹様に関する全てのものを守護すると誓います」

 再び拍手が巻き起こる。集音機能を使うまでもなく誰一人として文句を言うものは居なかった。

 その後、長々とお偉いさんの話を聞かされた後、一般へのお披露目のため外に出て城壁に立った。今度は百体全員揃っている。

「皆のもの拝聴せよ!」

 蛇の刺青いれずみを入れた長髪の男が声を張り上げた。めちゃくちゃいい声。彼とはまだあまり会話してないけどいつか仲良くできるといいな。

「紋章の授受は無事に終わり、彼らは正式にマルクト王国聖騎士団となった!」

 ざわつく民衆。反対する声は聞こえない。

「ゼロ殿、よろしければ何かお言葉を」

 俺は深く頷いて数歩前に出た。声が通るように兜の口元だけ開く。演劇をかじっていたお陰で声量には自信がある。

「まずは忙しい中、我々のために集まってくれて感謝する。ありがとう」

 静かに頭を下げる。

「……きっと皆の心には様々なわだかまりがあると思う。不信感、嫌悪感、認めたくない心情。今はまだ完全に信頼を置けないということは理解している」

 伝えよう。何の打算もなく、何の悪意もなく、ただ純粋に俺の気持ちを。

「だからこれからの我々の行動を見守っていて欲しい。困っている者がいれば、声を掛け手を差し伸べよう」

 ——俺が演劇をしていたのは今日この日のためにあったんじゃないかと思う。

「巨獣に恐れる者がいれば、剣を取り盾となろう」

 ——発声練習は遠くにいる民にも聞こえるようにするため。

「神樹様が心を痛めているならば、皆と共に祈り崇めよう」

 ——演技を練習していたのは聖騎士団を演じるかたわら、自分の色を乗せて想いを伝えていくため。

「その言動の積み重ねが信頼をはぐくみ、いつの日か皆が曇りなき眼で我らを見つめ、心も、魂すらも委ねてくれることを切に願う」

 ——そしてこの異世界に転移してきたのはマルクト王国を救うため。

「そして約束しよう。いつか混じり気のない光となり、神樹を、マルクト王国を、果ては無辜むこなる民に至るまで平和の世界へ導き続けることを」

 全ては必然だったのだろう。ここに至るまで神なんて信じてなかったけど、今は心の底から信じられる。だって俺は神樹の使徒、聖騎士団アインなのだから。

「ご清聴痛み入る。これが我々の、聖騎士団アインの嘘偽りない総意だ」

 今度は聖騎士団全員でしっかりと頭を下げた。

 蛇の刺青の男が満足げな表情で一歩前へ出る。

「我らが英雄、聖騎士団アインに盛大な賛辞を!」

「うおおおおお!」

 騎士団に向けて大歓声が巻き起こる。俺が歓声ボタンを押したわけではない。本物の民による俺達のための賛辞。

「ア・イ・ン! ア・イ・ン!」

 大気を揺らすほどの声が俺の体に染み渡る。ああ、良かった。この国の人々を救うことが出来て本当に良かった。逃げなくて、戦って、勝利して、本当に良かった。

 ……でも、一つだけ大きな問題があるよな。いつか打ち明けなければならない真実。今は言えない俺最大の秘密。だけど、来たるべき時が来たら精一杯の感情を込めて語るんだ。

 『すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ』ってね。

 こうして、聖騎士団アインが正式に誕生した。


【第1章 誕生編】 —終—
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

八十神天従は魔法学園の異端児~神社の息子は異世界に行ったら特待生で特異だった

根立真先
ファンタジー
高校生活初日。神社の息子の八十神は異世界に転移してしまい危機的状況に陥るが、神使の白兎と凄腕美人魔術師に救われ、あれよあれよという間にリュケイオン魔法学園へ入学することに。期待に胸を膨らますも、彼を待ち受ける「特異クラス」は厄介な問題児だらけだった...!?日本の神様の力を魔法として行使する主人公、八十神。彼はその異質な能力で様々な苦難を乗り越えながら、新たに出会う仲間とともに成長していく。学園×魔法の青春バトルファンタジーここに開幕!

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...