【完結】すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ

一終一(にのまえしゅういち)

文字の大きさ
34 / 141
第1章 誕生編

第34話 やっかいな美女とおじさん

しおりを挟む
 二週間後。マルクト王国はすっかり元の平和な日常が戻っていた。

 今日は先延ばしにされていた聖騎士団の叙任式典がある。でもその前に大司教に呼ばれたので大聖堂へ向かっていた。

 今の俺は団長ゼロだ。なんと肉入り。こういう時くらい本体が行ってもいいだろう。鎧が重くてちょっぴり後悔しているけど。

 歩を進めていると、奥から若い女と老婆のものらしき会話が聞こえる。

「——好きですわ。ビーチ大司教」

「私もだよぉ」

 唐突な百合展開! んなわけないよな。

「それでは失礼しますわ」

 部屋から出てきたのは銀髪の美女だった。

「あら、ごきげんよう聖騎士様」

「初めまして、ですよね?」

「わたくしはフィグ伯爵家の長女イチクジと申しますわ。以後お見知り置きを」

 うやうやしく頭を下げるイチクジご令嬢。うーん、高貴。けがしたい。ハッ! 俺は何て罰当たりなことを!

 とか考えながらも暫し目が合う。

「きゃっ、そんな見つめないでくださいまし。好きになってしまいますわ」

 顔を両方の手のひらで覆い隠して照れている。かわいい。……あれ? 耳につけているピアス、見覚えあるな。緑色の天狗の葉っぱみたいなやつ。……あ! “クズヨ”さんが着けていたやつだ!

 そういえば声や体型が似ているような。でも同じピアスなんていっぱいあるよなぁ。……ちょっとカマかけてみるか。

 彼女は数秒身悶えた後、一つ咳払いをして元の笑顔を貼り付けていた。

「あ、そうだ。今度、貴族のご令嬢の方々にうちの女団員紹介しようと考えていたんです。やはり女性同士の方が会話が弾むでしょうし、いい交流になると思いませんか?」

 彼女から笑顔が消え、般若のように目つきが鋭くなっている。分かりやすっ!

「へぇ……それは、タノシミデスワ。でも戦場に立つ女性と話が合うカシラ……やっぱり危険でしょうし脱退させてあげた方が……いやわたくしは思っていませんのよ? 女団員はクズ……湯が飲みたいですワワワワ」

 途中で扇風機でも食べた? ってくらい動揺しているイチクジご令嬢。クズさが隠し切れてませんよ。クズヨさん。

「あ、それは置いといてですね、聞きたいことがあるんです。この前、うちのブンブンっていう蜂っぽい団員がですね、凄い占い師に会ったって言うんですよ。今度お礼がしたいって言ってたんですけどなかなか会えなくて、どこに居るか知ってたりしませんか?」

 クズヨさんは打って変わって、オカメみたいにニッコリとしていた。分かりやすっ。

「ええ、知ってますとも。彼女はとてもいい子ですわ。忙しいみたいで今は会えませんけど伝えておきますわ。あと、ブンブンさんとはいずれ婚姻関係を結びたいともおっしゃっていましたわ」

「それは無理ですね」

「いや、貴方ではなくてブンブンさんのこと——」

「ブンブンも無理と言ってました」

 めっちゃ釘を刺す。

「ま、まぁまだ付き合いも浅いですからそう急くこともありませんわね。……さてと。お忙しい殿方のお邪魔をしたくありませんので、わたくしはこれで。式典、楽しみにしていますわ」

 ドレスを少し持ち上げて挨拶をした後、笑顔を向けながら去っていった。この世界、美人ばっかだなぁ。クズヨさんは内面が良ければなぁ。まっいっか。

 ケケケ、ともかく弱みを握ったし、今度イジってやろ。

 俺は兜の下に悪魔的な表情を浮かべながら大聖堂の奥へと進んだ。

 そこには大司教“ビーチ”がいた。白髪の高貴なお婆さんだ。

「おお、ゼロや。よく来たねぇ」

「おはようございます大司教猊下げいか。それで御用というのは?」

「ちょいと地下に来てくれるかい?」

 螺旋の階段をくだり、地下に着くと、突然。

「ギェェ!」

 急な獣の鳴き声に全身が跳ねた。声の主を見ると、籠に入った大きなトカゲっぽい生物。びっくりしたなぁもう。

「ゼロや、何をしているんだい? こっちだよ」

 気を取り直してビーチ大司教の方を見ると、背後にミノタウロスの体内から出てきたあの玉が一つだけあった。ただ色がおかしい。エメラルド色とサファイア色が半分ずつになっている。

「もう一つはどこに? それにこの色は?」

「それが不思議でねぇ。偶然二つの玉が触れ合った時に融合してこうなったんだよねぇ」

 へぇ。まぁファンタジー世界だしそんなこともあるか。

「この玉に心当たりはありますか?」

「ふむ、神樹創世記にそれと酷似したものが登場する。“十の宝玉セフィラを集めし時、世界が平定される”とねぇ」

 単純にあと八個か。もし、世界が平和になるとしたら集める価値はある。ここは異世界。そういう神話の宝具があってもおかしくない。

「ゼロよ。余裕があればでいいからこの玉を集めてくれないかねぇ?」

「ええ、心に留めておきます」

 ま、余裕があればね。基本は引きこもりたい。

 それからビーチ大司教と雑談した後、式典の準備のためその場を後にした。

 ——式典直前。王城にある控え室。

 ソワソワする。あと鎧が重くて苦しい。頑張れ俺。

 その時。扉をノックされた。

「ゼロ殿。シトローンだ。少しいいか?」

「どうぞ」

 女王の近衛兵シトローンがのっそりと入ってくる。相変わらず巨体だ。この二週間、お互い忙しくて話す暇がなかったので随分久しぶりに感じる。

「シトローン殿、どうかしましたか?」

「ああ、大事な式典の前に悪いな。……これまでの数々の非礼を詫びさせてくれ。すまなかった」

 深く頭を下げる。いさぎよい。

「気にしないでください。国を憂いてのことでしょう。これからは共に助け合い、民を良き方向へ導いて行きましょう」

「うむ、貴殿の寛大な心遣いに感謝する」

 俺達は固く握手を交わした。意見の食い違いなんてよくある事だ。大事なのはきちんと話し合って互いに尊重し合う事。

「話は変わるが、その、ダーク老師に弟子にするよう頼んではくれないか?」

 またそれかよ。

「無理ですよ。あの人は女性しか弟子に取らないですから」

「ゼロ殿は去勢しているのか?」

 するかー!

「あはは、まさか」

「ダーク老師は女子おなごしか取らぬと言うならば騎士団の面々は去勢していてもおかしくないはずだが」

 マジメに語ることかよ。

「昔は私を中心に男衆も鍛え上げていました。ですが、年をとって一層若い女性が恋しくなったのでしょう。今は方針が変わったのです」

 という設定にしとこう。

「では化粧から始めるべきか?」

 もう帰れよ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

処理中です...