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第1章 誕生編
第35話 誕生
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王城の玉座の間。女王マルメロ、教皇、王族貴族など、正装を着た錚々たる面々が揃っていた。
俺は黒鎧の団長ゼロに扮し、聖騎士団の代表として一人参加していた。
「ゼロよ。前へ」
「はっ!」
女王と教皇の前に跪く。まずはマルクト王国を救ったものとして叙勲を受ける手筈になっている。
「此度の活躍、見事であった。その功績を讃え栄誉勲章を授ける」
手渡された勲章を見ると、神樹をあしらっていて神聖だ。高値で売れそう。はっ、俺はなんて罰当たりなことを!
周囲に集まった貴族達から拍手が起こる。
続いて前に出てきたのは“パフィ”教皇。ヨボヨボのお爺さん。目が虚ろなのが怖い、じゃなかったカワイイ。全然話したことはないけど、聖騎士団の認可には教皇の承認が必要なので感謝している。
「ゼロ君、マルクト王国を救ってくれて感謝いたします。神樹セフィロト様もさぞお喜びでしょう。未来永劫、我らがセフィロト教の剣として、また盾として共に歩めることを心より願っております」
教皇は、宰相の持ってきた煌びやかな箱を受け取り、聖騎士団の紋章をこちらに差し出した。
俺は恐る恐る紋章を手に取り眺める。神樹に重なるように十字があり、その下に死神の鎌が二本ばつ印を描くように配置されていた。
「嬉しいじゃろ? 草刈り器のデザイン」
ボソリと呟く女王。草刈り器言うな。でも嬉しい。ポテトのドリルじゃなくて良かった。
さっそく胸に付けてみると強くなった気がした。俺の防御力が10上がった。個人の感想です。
「感謝致します。これに驕らず聖騎士団アインの名のもとに、国、女王陛下、教皇聖下、国民、セフィロト教信徒、及び神樹様に関する全てのものを守護すると誓います」
再び拍手が巻き起こる。集音機能を使うまでもなく誰一人として文句を言うものは居なかった。
その後、長々とお偉いさんの話を聞かされた後、一般へのお披露目のため外に出て城壁に立った。今度は百体全員揃っている。
「皆のもの拝聴せよ!」
蛇の刺青を入れた長髪の男が声を張り上げた。めちゃくちゃいい声。彼とはまだあまり会話してないけどいつか仲良くできるといいな。
「紋章の授受は無事に終わり、彼らは正式にマルクト王国聖騎士団となった!」
ざわつく民衆。反対する声は聞こえない。
「ゼロ殿、よろしければ何かお言葉を」
俺は深く頷いて数歩前に出た。声が通るように兜の口元だけ開く。演劇をかじっていたお陰で声量には自信がある。
「まずは忙しい中、我々のために集まってくれて感謝する。ありがとう」
静かに頭を下げる。
「……きっと皆の心には様々な蟠りがあると思う。不信感、嫌悪感、認めたくない心情。今はまだ完全に信頼を置けないということは理解している」
伝えよう。何の打算もなく、何の悪意もなく、ただ純粋に俺の気持ちを。
「だからこれからの我々の行動を見守っていて欲しい。困っている者がいれば、声を掛け手を差し伸べよう」
——俺が演劇をしていたのは今日この日のためにあったんじゃないかと思う。
「巨獣に恐れる者がいれば、剣を取り盾となろう」
——発声練習は遠くにいる民にも聞こえるようにするため。
「神樹様が心を痛めているならば、皆と共に祈り崇めよう」
——演技を練習していたのは聖騎士団を演じる傍ら、自分の色を乗せて想いを伝えていくため。
「その言動の積み重ねが信頼を育み、いつの日か皆が曇りなき眼で我らを見つめ、心も、魂すらも委ねてくれることを切に願う」
——そしてこの異世界に転移してきたのはマルクト王国を救うため。
「そして約束しよう。いつか混じり気のない光となり、神樹を、マルクト王国を、果ては無辜なる民に至るまで平和の世界へ導き続けることを」
全ては必然だったのだろう。ここに至るまで神なんて信じてなかったけど、今は心の底から信じられる。だって俺は神樹の使徒、聖騎士団アインなのだから。
「ご清聴痛み入る。これが我々の、聖騎士団アインの嘘偽りない総意だ」
今度は聖騎士団全員でしっかりと頭を下げた。
蛇の刺青の男が満足げな表情で一歩前へ出る。
「我らが英雄、聖騎士団アインに盛大な賛辞を!」
「うおおおおお!」
騎士団に向けて大歓声が巻き起こる。俺が歓声ボタンを押したわけではない。本物の民による俺達のための賛辞。
「ア・イ・ン! ア・イ・ン!」
大気を揺らすほどの声が俺の体に染み渡る。ああ、良かった。この国の人々を救うことが出来て本当に良かった。逃げなくて、戦って、勝利して、本当に良かった。
……でも、一つだけ大きな問題があるよな。いつか打ち明けなければならない真実。今は言えない俺最大の秘密。だけど、来たるべき時が来たら精一杯の感情を込めて語るんだ。
『すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ』ってね。
こうして、聖騎士団アインが正式に誕生した。
《第1章 誕生編 ―終―》
俺は黒鎧の団長ゼロに扮し、聖騎士団の代表として一人参加していた。
「ゼロよ。前へ」
「はっ!」
女王と教皇の前に跪く。まずはマルクト王国を救ったものとして叙勲を受ける手筈になっている。
「此度の活躍、見事であった。その功績を讃え栄誉勲章を授ける」
手渡された勲章を見ると、神樹をあしらっていて神聖だ。高値で売れそう。はっ、俺はなんて罰当たりなことを!
周囲に集まった貴族達から拍手が起こる。
続いて前に出てきたのは“パフィ”教皇。ヨボヨボのお爺さん。目が虚ろなのが怖い、じゃなかったカワイイ。全然話したことはないけど、聖騎士団の認可には教皇の承認が必要なので感謝している。
「ゼロ君、マルクト王国を救ってくれて感謝いたします。神樹セフィロト様もさぞお喜びでしょう。未来永劫、我らがセフィロト教の剣として、また盾として共に歩めることを心より願っております」
教皇は、宰相の持ってきた煌びやかな箱を受け取り、聖騎士団の紋章をこちらに差し出した。
俺は恐る恐る紋章を手に取り眺める。神樹に重なるように十字があり、その下に死神の鎌が二本ばつ印を描くように配置されていた。
「嬉しいじゃろ? 草刈り器のデザイン」
ボソリと呟く女王。草刈り器言うな。でも嬉しい。ポテトのドリルじゃなくて良かった。
さっそく胸に付けてみると強くなった気がした。俺の防御力が10上がった。個人の感想です。
「感謝致します。これに驕らず聖騎士団アインの名のもとに、国、女王陛下、教皇聖下、国民、セフィロト教信徒、及び神樹様に関する全てのものを守護すると誓います」
再び拍手が巻き起こる。集音機能を使うまでもなく誰一人として文句を言うものは居なかった。
その後、長々とお偉いさんの話を聞かされた後、一般へのお披露目のため外に出て城壁に立った。今度は百体全員揃っている。
「皆のもの拝聴せよ!」
蛇の刺青を入れた長髪の男が声を張り上げた。めちゃくちゃいい声。彼とはまだあまり会話してないけどいつか仲良くできるといいな。
「紋章の授受は無事に終わり、彼らは正式にマルクト王国聖騎士団となった!」
ざわつく民衆。反対する声は聞こえない。
「ゼロ殿、よろしければ何かお言葉を」
俺は深く頷いて数歩前に出た。声が通るように兜の口元だけ開く。演劇をかじっていたお陰で声量には自信がある。
「まずは忙しい中、我々のために集まってくれて感謝する。ありがとう」
静かに頭を下げる。
「……きっと皆の心には様々な蟠りがあると思う。不信感、嫌悪感、認めたくない心情。今はまだ完全に信頼を置けないということは理解している」
伝えよう。何の打算もなく、何の悪意もなく、ただ純粋に俺の気持ちを。
「だからこれからの我々の行動を見守っていて欲しい。困っている者がいれば、声を掛け手を差し伸べよう」
——俺が演劇をしていたのは今日この日のためにあったんじゃないかと思う。
「巨獣に恐れる者がいれば、剣を取り盾となろう」
——発声練習は遠くにいる民にも聞こえるようにするため。
「神樹様が心を痛めているならば、皆と共に祈り崇めよう」
——演技を練習していたのは聖騎士団を演じる傍ら、自分の色を乗せて想いを伝えていくため。
「その言動の積み重ねが信頼を育み、いつの日か皆が曇りなき眼で我らを見つめ、心も、魂すらも委ねてくれることを切に願う」
——そしてこの異世界に転移してきたのはマルクト王国を救うため。
「そして約束しよう。いつか混じり気のない光となり、神樹を、マルクト王国を、果ては無辜なる民に至るまで平和の世界へ導き続けることを」
全ては必然だったのだろう。ここに至るまで神なんて信じてなかったけど、今は心の底から信じられる。だって俺は神樹の使徒、聖騎士団アインなのだから。
「ご清聴痛み入る。これが我々の、聖騎士団アインの嘘偽りない総意だ」
今度は聖騎士団全員でしっかりと頭を下げた。
蛇の刺青の男が満足げな表情で一歩前へ出る。
「我らが英雄、聖騎士団アインに盛大な賛辞を!」
「うおおおおお!」
騎士団に向けて大歓声が巻き起こる。俺が歓声ボタンを押したわけではない。本物の民による俺達のための賛辞。
「ア・イ・ン! ア・イ・ン!」
大気を揺らすほどの声が俺の体に染み渡る。ああ、良かった。この国の人々を救うことが出来て本当に良かった。逃げなくて、戦って、勝利して、本当に良かった。
……でも、一つだけ大きな問題があるよな。いつか打ち明けなければならない真実。今は言えない俺最大の秘密。だけど、来たるべき時が来たら精一杯の感情を込めて語るんだ。
『すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ』ってね。
こうして、聖騎士団アインが正式に誕生した。
《第1章 誕生編 ―終―》
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