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08-5 好きになってしまうじゃないか(5) 誓いを抱きしめて
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夜空に最後の大輪が散った。
轟音と共に黄金の光が降り注ぎ、建国祭の花火は幕を閉じる。
人々の歓声と拍手が遠ざかり、喧騒が潮のように引いていく。
ユリウスとレオンハルトは、人波を避けるように王城へ戻る小径を歩いていた。
道端の灯火が揺れ、二人の影が並んで伸びる。
「……静かになったな」
ユリウスが呟く。
胸の奥はまだざわついていた。
昼の武道大会、夜の祭り、そしてあの一瞬の――キス。
思い出すたびに顔が熱くなる。
隣のレオンハルトは、何事もなかったかのように歩いている。
余裕たっぷりのその姿が、余計にユリウスを落ち着かなくさせた。
「……どうして、あんなに強いのに、わざと負けようとしたんだ? 手を抜いていただろう?」
ふと疑問が口をついた。
武道大会での彼の戦い方。
明らかに力を抑えていた。
レオンハルトは少し笑って首を振る。
「目立つのは嫌なんだよ。本当は、お前と屋台回って甘いもん食ってる方が楽しいからな」
「なっ……!」
「だけど、結局優勝しちまった。ま、仕方ない」
軽口のはずなのに、その裏に見える誠実さが胸に突き刺さる。
ユリウスは俯いたまま、拳をぎゅっと握った。
「……お前は、私をからかってばかりだ。でも……」
声が震える。
「でも私は……その度に嬉しくなってしまうんだ」
レオンハルトの足が止まった。
振り返ると、いつも余裕を纏ったその瞳が、今は真剣に揺れている。
「ユリウス……」
名前を呼ばれた瞬間、心がほどけていく。
理性も、建前も、すべて消えてしまいそうだった。
「……!」
次の瞬間、ユリウスは自分から飛び込むようにしてレオンハルトを抱きしめた。
胸に顔を押し付け、声にならない想いを吐き出す。
「……怖かったんだ。今日だって、お前がいなかったら、と思うと不安で胸が張り裂けそうになる……」
「馬鹿だな」
大きな手が背を優しく撫でる。
「俺はいつでもお前の側にいる。安心しろ」
その言葉に、胸の奥が熱く満たされる。
涙がにじみそうになるのを、ユリウスは必死に堪えた。
「……ほんとに、お前はずるい」
「そうか?」
「……好きになってしまうじゃないか」
小さな声が夜風に溶けた。
レオンハルトは驚いたように目を瞬き、次の瞬間、深く息を吐いた。
「やっと言ったな」
「なっ……!」
「ずっと待ってたんだぞ、子猫ちゃん」
頬を包まれ、そっと唇を重ねられる。
花火の合間の衝動的なキスとは違い、今度は穏やかで温かい。
そして、情熱的なものへと変化していく。
求め求められ、心臓の鼓動が混ざり合い、ひとつになっていく。
世界は、静かにゆっくりと時を刻む。
まるで二人を祝福しているようだった。
****
城門に近づく頃、ユリウスはようやくレオンハルトの手を離した。
顔は真っ赤で、呼吸もまだ整わない。
レオンハルトは満足げに笑いながらも、視線を遠くに向けていた。
「……どうしたんだ?」
「いや」
わずかに険しい表情を見せる。
「祭りの喧騒に紛れて、妙な気配があった。それに魔力を感じる」
ユリウスの背筋が凍る。
「まさか……」
「ああ。おそらく、魔族だ。まだ本格的には動いてねぇが……潜んでやがる」
せっかくの甘い余韻が、一瞬にして張り詰めた空気に変わる。
だが、ユリウスはレオンハルトの手を強く握り返した。
「大丈夫だよね」
「……ああ。絶対に守る」
二人の誓いを包み込むように、夜風が城壁を撫でた。
祭りの終わりは、新たな嵐の始まりを告げていた。
轟音と共に黄金の光が降り注ぎ、建国祭の花火は幕を閉じる。
人々の歓声と拍手が遠ざかり、喧騒が潮のように引いていく。
ユリウスとレオンハルトは、人波を避けるように王城へ戻る小径を歩いていた。
道端の灯火が揺れ、二人の影が並んで伸びる。
「……静かになったな」
ユリウスが呟く。
胸の奥はまだざわついていた。
昼の武道大会、夜の祭り、そしてあの一瞬の――キス。
思い出すたびに顔が熱くなる。
隣のレオンハルトは、何事もなかったかのように歩いている。
余裕たっぷりのその姿が、余計にユリウスを落ち着かなくさせた。
「……どうして、あんなに強いのに、わざと負けようとしたんだ? 手を抜いていただろう?」
ふと疑問が口をついた。
武道大会での彼の戦い方。
明らかに力を抑えていた。
レオンハルトは少し笑って首を振る。
「目立つのは嫌なんだよ。本当は、お前と屋台回って甘いもん食ってる方が楽しいからな」
「なっ……!」
「だけど、結局優勝しちまった。ま、仕方ない」
軽口のはずなのに、その裏に見える誠実さが胸に突き刺さる。
ユリウスは俯いたまま、拳をぎゅっと握った。
「……お前は、私をからかってばかりだ。でも……」
声が震える。
「でも私は……その度に嬉しくなってしまうんだ」
レオンハルトの足が止まった。
振り返ると、いつも余裕を纏ったその瞳が、今は真剣に揺れている。
「ユリウス……」
名前を呼ばれた瞬間、心がほどけていく。
理性も、建前も、すべて消えてしまいそうだった。
「……!」
次の瞬間、ユリウスは自分から飛び込むようにしてレオンハルトを抱きしめた。
胸に顔を押し付け、声にならない想いを吐き出す。
「……怖かったんだ。今日だって、お前がいなかったら、と思うと不安で胸が張り裂けそうになる……」
「馬鹿だな」
大きな手が背を優しく撫でる。
「俺はいつでもお前の側にいる。安心しろ」
その言葉に、胸の奥が熱く満たされる。
涙がにじみそうになるのを、ユリウスは必死に堪えた。
「……ほんとに、お前はずるい」
「そうか?」
「……好きになってしまうじゃないか」
小さな声が夜風に溶けた。
レオンハルトは驚いたように目を瞬き、次の瞬間、深く息を吐いた。
「やっと言ったな」
「なっ……!」
「ずっと待ってたんだぞ、子猫ちゃん」
頬を包まれ、そっと唇を重ねられる。
花火の合間の衝動的なキスとは違い、今度は穏やかで温かい。
そして、情熱的なものへと変化していく。
求め求められ、心臓の鼓動が混ざり合い、ひとつになっていく。
世界は、静かにゆっくりと時を刻む。
まるで二人を祝福しているようだった。
****
城門に近づく頃、ユリウスはようやくレオンハルトの手を離した。
顔は真っ赤で、呼吸もまだ整わない。
レオンハルトは満足げに笑いながらも、視線を遠くに向けていた。
「……どうしたんだ?」
「いや」
わずかに険しい表情を見せる。
「祭りの喧騒に紛れて、妙な気配があった。それに魔力を感じる」
ユリウスの背筋が凍る。
「まさか……」
「ああ。おそらく、魔族だ。まだ本格的には動いてねぇが……潜んでやがる」
せっかくの甘い余韻が、一瞬にして張り詰めた空気に変わる。
だが、ユリウスはレオンハルトの手を強く握り返した。
「大丈夫だよね」
「……ああ。絶対に守る」
二人の誓いを包み込むように、夜風が城壁を撫でた。
祭りの終わりは、新たな嵐の始まりを告げていた。
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