41 / 80
09-1 ずっと俺の隣にいろ(1) 暗殺者の足音
しおりを挟む
建国祭から数日が経った。
王都はまだ祭りの余韻を引きずり、街のあちこちに彩りが残っていた。
だが城の中は、浮かれた雰囲気とは対照的に緊張感に包まれていた。
ユリウスは執務机に向かい、山積みの書類に目を通していた。
王位継承を済ませた彼の一日は、重責に追われていた。
ふと視線を上げると、窓の外に見慣れた人影が立っていた。
「……また来たのか?」
わざと素っ気なく声をかける。
「またとはなんだ。俺はお前の護衛だろ」
腕を組んで立つレオンハルトは、いつも通りの余裕を漂わせていた。
「書類に埋もれて倒れてたら困るからな」
「私は子供じゃない!」
反論しながらも、ユリウスの胸は温かく満ちていた。
建国祭の夜――あの告白と口づけ。
それ以来、二人は互いを意識しながらも、どこかぎこちなく距離を測っていた。
「……お前は、どうしてそんなに落ち着いていられるんだ?」
「落ち着いてねぇぞ。お前が横にいると、心臓がやかましい」
「……!」
赤面しそうになるのを必死に堪え、書類に視線を落とした。
こんなふうにからかうのはいつものことなのに、今は妙に刺さる。
恋人になったという事実が、すべてを違って見せていた。
****
そんな甘いやり取りを遮るように、部屋の扉がノックされた。
「失礼いたします!」
現れたのは側近のルカだった。
息を切らし、焦りの色を隠せない。
「ユリウス様、重大な報告がございます」
「どうした、ルカ?」
ルカは一度息を整え、言葉を選ぶように口を開いた。
「王都に、魔族が潜伏している可能性が高いとの情報が入りました」
「……魔族……建国祭の間に……?」
ルカはうなずいた。
ある程度は想像通りだった。
ユリウスとレオンハルトは目くばせして確認をとる。
「はい。王城の警備をすり抜け、王族暗殺を企てていると。既に何人か、影のように消えた兵が……」
室内の空気が一気に張り詰めた。
想像以上に近くまで潜入されている。
ユリウスの背筋に冷たい汗が流れる。
「……王族……私を狙っているというのか」
「可能性は高いです」
ルカの声は重かった。
「既に、いつどこから襲撃されてもおかしくありません」
ユリウスの胸に不安が渦巻く。
しかし、その隣に立つレオンハルトは、いつものように涼しい顔で言った。
「なるほどな。だが安心しろ」
「安心……?」
「狙われてるなら、俺が代わりになってやればいい」
言葉の意味を理解した瞬間、ユリウスは目を見開いた。
「まさか……お前が、私の影武者に?」
レオンハルトは口の端を上げ、愉快そうに笑った。
「そういうことだ。どうせ暗殺者なんざ、拳で迎えてやれば終わりだ」
ユリウスは思わず立ち上がる。
「命を狙われているのは私なんだ! お前が代わりに……そんなの、耐えられない!」
必死の声が室内に響く。
その真剣さに、レオンハルトは一瞬だけ表情を和らげた。
「……心配してくれるのか?」
「当たり前だろ!」
「フッ、そうか」
大きな手がそっとユリウスの頬に触れる。
「でもな、ユリウス。お前が死んだら、国も俺も終わりだ。俺はお前を守るためにここにいる」
まっすぐな瞳に見つめられ、ユリウスの心臓が痛いほど跳ねた。
恐怖と同時に、どうしようもない安心感が湧き上がる。
「……ほ、本当に大丈夫なのだな?」
「ははは、俺にとっちゃ散歩みたいなもんだ」
また余裕の笑みで返され、ユリウスは呆れながらも微笑んでしまった。
この人なら――そう思わせる不思議な力があった。
****
その夜。
王城の一角、誰も使っていない部屋に、闇が忍び寄っていた。
窓から滑り込むように現れた影は、人の形をしていながら異質だった。
漆黒の肌、赤い瞳、そして冷たい刃を携えている。
「……標的は国王ユリウス」
低い声が闇に溶けた。
「聖者が守っていようと、必ず討つ」
影は音もなく廊下へと消えていく。
王城の空気が、さらに冷たく張り詰めていった
王都はまだ祭りの余韻を引きずり、街のあちこちに彩りが残っていた。
だが城の中は、浮かれた雰囲気とは対照的に緊張感に包まれていた。
ユリウスは執務机に向かい、山積みの書類に目を通していた。
王位継承を済ませた彼の一日は、重責に追われていた。
ふと視線を上げると、窓の外に見慣れた人影が立っていた。
「……また来たのか?」
わざと素っ気なく声をかける。
「またとはなんだ。俺はお前の護衛だろ」
腕を組んで立つレオンハルトは、いつも通りの余裕を漂わせていた。
「書類に埋もれて倒れてたら困るからな」
「私は子供じゃない!」
反論しながらも、ユリウスの胸は温かく満ちていた。
建国祭の夜――あの告白と口づけ。
それ以来、二人は互いを意識しながらも、どこかぎこちなく距離を測っていた。
「……お前は、どうしてそんなに落ち着いていられるんだ?」
「落ち着いてねぇぞ。お前が横にいると、心臓がやかましい」
「……!」
赤面しそうになるのを必死に堪え、書類に視線を落とした。
こんなふうにからかうのはいつものことなのに、今は妙に刺さる。
恋人になったという事実が、すべてを違って見せていた。
****
そんな甘いやり取りを遮るように、部屋の扉がノックされた。
「失礼いたします!」
現れたのは側近のルカだった。
息を切らし、焦りの色を隠せない。
「ユリウス様、重大な報告がございます」
「どうした、ルカ?」
ルカは一度息を整え、言葉を選ぶように口を開いた。
「王都に、魔族が潜伏している可能性が高いとの情報が入りました」
「……魔族……建国祭の間に……?」
ルカはうなずいた。
ある程度は想像通りだった。
ユリウスとレオンハルトは目くばせして確認をとる。
「はい。王城の警備をすり抜け、王族暗殺を企てていると。既に何人か、影のように消えた兵が……」
室内の空気が一気に張り詰めた。
想像以上に近くまで潜入されている。
ユリウスの背筋に冷たい汗が流れる。
「……王族……私を狙っているというのか」
「可能性は高いです」
ルカの声は重かった。
「既に、いつどこから襲撃されてもおかしくありません」
ユリウスの胸に不安が渦巻く。
しかし、その隣に立つレオンハルトは、いつものように涼しい顔で言った。
「なるほどな。だが安心しろ」
「安心……?」
「狙われてるなら、俺が代わりになってやればいい」
言葉の意味を理解した瞬間、ユリウスは目を見開いた。
「まさか……お前が、私の影武者に?」
レオンハルトは口の端を上げ、愉快そうに笑った。
「そういうことだ。どうせ暗殺者なんざ、拳で迎えてやれば終わりだ」
ユリウスは思わず立ち上がる。
「命を狙われているのは私なんだ! お前が代わりに……そんなの、耐えられない!」
必死の声が室内に響く。
その真剣さに、レオンハルトは一瞬だけ表情を和らげた。
「……心配してくれるのか?」
「当たり前だろ!」
「フッ、そうか」
大きな手がそっとユリウスの頬に触れる。
「でもな、ユリウス。お前が死んだら、国も俺も終わりだ。俺はお前を守るためにここにいる」
まっすぐな瞳に見つめられ、ユリウスの心臓が痛いほど跳ねた。
恐怖と同時に、どうしようもない安心感が湧き上がる。
「……ほ、本当に大丈夫なのだな?」
「ははは、俺にとっちゃ散歩みたいなもんだ」
また余裕の笑みで返され、ユリウスは呆れながらも微笑んでしまった。
この人なら――そう思わせる不思議な力があった。
****
その夜。
王城の一角、誰も使っていない部屋に、闇が忍び寄っていた。
窓から滑り込むように現れた影は、人の形をしていながら異質だった。
漆黒の肌、赤い瞳、そして冷たい刃を携えている。
「……標的は国王ユリウス」
低い声が闇に溶けた。
「聖者が守っていようと、必ず討つ」
影は音もなく廊下へと消えていく。
王城の空気が、さらに冷たく張り詰めていった
0
あなたにおすすめの小説
嫌いなあいつが気になって
水ノ瀬 あおい
BL
今しかない青春だから思いっきり楽しみたいだろ!?
なのに、あいつはいつも勉強ばかりして教室でもどこでも常に教科書を開いている。
目に入るだけでムカつくあいつ。
そんなあいつが勉強ばかりをする理由は……。
同じクラスの優等生にイラつきを止められない貞操観念緩々に見えるチャラ男×真面目で人とも群れずいつも一人で勉強ばかりする優等生。
正反対な二人の初めての恋愛。
龍の寵愛を受けし者達
樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、
父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、
ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。
それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて
いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。
それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。
王家はある者に裏切りにより、
無惨にもその策に敗れてしまう。
剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、
責めて騎士だけは助けようと、
刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる
時戻しの術をかけるが…
オメガの僕が、最後に恋をした騎士は冷酷すぎる
虹湖🌈
BL
死にたかった僕を、生かしたのは――あなたの声だった。
滅びかけた未来。
最後のオメガとして、僕=アキは研究施設に閉じ込められていた。
「資源」「道具」――そんな呼び方しかされず、生きる意味なんてないと思っていた。
けれど。
血にまみれたアルファ騎士・レオンが、僕の名前を呼んだ瞬間――世界が変わった。
冷酷すぎる彼に守られて、逃げて、傷ついて。
それでも、彼と一緒なら「生きたい」と思える。
終末世界で芽生える、究極のバディ愛×オメガバース。
命を懸けた恋が、絶望の世界に希望を灯す。
オメガバースの世界に転生!?アルファに生まれ変わってパパになります
みたらしのだんご
BL
オメガバースの世界に転生します。村でのびのびします。
ボーイズラブ要素はゆっくり出していきますのでしばしお待ちを
【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる