「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな

文字の大きさ
111 / 271

第111話(第一部 最終回) 転移者たちの帰還

しおりを挟む
 一週間後が過ぎた。

 ピノアは時の精霊の許しを得て、エウロペの城下町や城、そこに住んでいた人々を惨劇が起きる以前へと戻した。

 カオスたちに殺された人々を生き返らせることは不可能だが、時を巻き戻すことにより、生前の肉体を復元することはできる。
 それによって、アカシックレコードのデータベースの一部になっていた魂もまた戻った。

 カオスたちの肉体も同時に復元されたが、復元と同時にダークマターが浄化され、魔物へと戻った。
 ヒト型のカオスは、エウロペの城に仕える魔人を元に人工的に作られた疑似魔王であったから、ただの魔人へと戻った。
 カオスもヒト型のカオスも、その細胞はカオス細胞にまで変異はしていなかったらしい。だから元に戻れたようだった。

 本来なら許可できないことだと時の精霊オロバスは言った。
それは当然のことだった。
 時を巻き戻して、死者を生前の状態に戻すということは、死者を甦らせる以上に許されることではない。
 そんなことを許してしまえば、世界は不都合なことが起きる度に巻き戻せば良い世界になってしまう。

 しかし、大切なものは時よりも命だと精霊は判断し許可した。

 と言えば聞こえはいいが、

「オロバスちゃん、エウロペの人たちの時を巻き戻してもいい?」

「うん、ピノピノがそうしたいならいいよ!!」

 という、かる~いやり取りでしかなかったことは、皆墓場まで持っていくことにした。


 しかし、国王は戻らなかった。
 自らの意思でアカシックレコードにとどまったそうだった。
 そこには彼の友人であるブライ・アジ・ダハーカと、レオナルド・ダ・ヴィンチ・イズ・ディカプリオがいたからだ。

 アカシックレコードには、オリジナル・ブライを含めた9999人のコピー・ブライの魂が、オリジナルとしてではなくステラやピノアの父として存在しているという。

 魔法人工頭脳レオナルドもまた、自ら活動を停止し、オリジナル・レオナルドが存在するアカシックレコードに向かった。

「これからはお前たちの時代だ」

 彼はそう言い遺していった。
 俺の作った魔装具はすべて破棄してくれ、とも言った。


 ニーズヘッグとアルマはランスへと帰った。
 ランスとエウロペ、ゲルマーニやアストリアの4国に加え、海を挟んだ島国ギリスの5国は、ペインの復興と世界平和をテラの今後の目標として掲げた。

 ステラはエウロペの新たな女王として、ピノアは新たな大賢者として、そしてアルマはペインの新たな女王として、各国の王と円卓を囲んだ。
 その場にレンジもリバーステラの代表として参加したが、三人は各国の王を相手にしても一切物怖じすることはなく、尻込みしていたのはレンジだけだった。


 エブリスタ兄弟はジパングに残った。
 陰陽道とシャーマニズムを学んだあとは、ヘブリカへ渡り、召喚魔法や機動召喚、究極召喚を学ぶという。
 世界中にはそれ以外にも、エウロペにはない魔法がたくさん存在するそうだ。


 雨野タカミと雨野ミカナと山汐メイは、ジパングでふたりの女王たちと最後の時を過ごしていた。

 オリジナル・ブライを倒した後、

「一週間後に迎えにきてほしい」

 と、タカミはレンジにそう言った。

 役目を終えたリバーステラからの転移者は、すべてを喰らう者によって、この世界に存在してはならぬ者と判断され、いつ喰われてしまうかわからないと言う。
 おそらく10日後にはそれがはじまるという。

「だから、一週間だけ時間がほしい」

 彼にはこの世界でまだやるべきことがあるようだった。


 レンジが仲間たちと共に、飛空艇でジパングを訪ねると、女王のひとり・返璧マヨリの防人・璧隣ネイルがなぜかふたりいた。

 リバーステラにおいて、タカミの恋人であり、ミカナやメイの友人でもある返璧真依には、かつて璧隣寝入という友人がいたそうだった。
 彼女は一家殺人事件に巻き込まれてしまい、すでに他界していた。
 だからタカミは、別の世界の同一人物であるネイルの肉体を複製した。
 さらにアカシックレコードから寝入の魂を戻し、その複製体に宿らせたのだという。


「2009年の8月に帰れるようにしてほしい。
 ぼくたちがこの世界に転移してきたのは……」

「8月1日の夜。
 わたしとミカナは、次の日から真依とアルバイトをするはずだったから」

「場所は■■県■■■村」


 レンジは、タカミとミカナとメイ、そして寝入を、魔法剣で作り出したゲートで、リバーステラへと帰した。


「結局、どっちが13人目だったのかわかんねーな」

 アンフィスが言うと、

「どっちでもいいじゃん」

 ピノアがそう言い、

「未来のわたしが書き換える前の、最初の預言って、確か聖者は14人だったんじゃなかったかしら?」

 ステラは言った。

「あ、そうか。じゃあ、ふたりともそうだったってわけか」

 彼は納得した。


 そして、

「アンフィスはどうする? 元の時代に帰るかい?」

 レンジは、2000年前の時代のアルビノの魔人に尋ねた。

「帰りたくなったら自分で帰るよ」

 と彼は言った。

「何回告白してきても振るけど」

 ピノアはそう言ったが、

「決めた。ピノアからオッケーもらうまで、この時代にいることにした」

 彼の言葉に、ピノアはうげえっと言った。

「それ、オッケー出したらますます帰らなくなるやつじゃん!」

 皆、ふたりのやりとりに笑ったが、誰の笑顔にもさびしさが浮かんでいた。


「ぼくらもそろそろ帰るよ」

 レンジと大和ショウゴもまた、帰らなければいけなかったからだった。

 レンジは、魔法剣によってゲートを作り出すと、

「剣は置いていくよ。
 レオナルドの言葉通り、その剣は破棄してほしい。
 ふたつの世界は二度と関わってはいけないと思うから」

 剣を地面に突き立てた。

「みんな、ステラとピノアを支えてあげて。この世界のこともよろしくね」

 ふたりは、さよならとは言わなかった。

 そしてゲートの中に消えて行った。


「もうすぐゲートが消えるな。
 本当にいいのか? ステラ」

「いいの。これは、レンジと決めたことだから」

 アンフィスの問いにステラはそう答えた。

 ステラのお腹の中にはレンジの子どもが宿っていた。
 彼女が彼と結ばれたのは一度きりであったし、医師から診断されたわけではなかったが、結ばれた直後には彼女はそれを悟っていた。

 ふたつの世界の架け橋なら、わたしのお腹の中にもういるから。
 彼女はそう思った。
 彼の子がいれば、自分はきっと強く生きていける。

 そのことを彼女はレンジにも誰にも話してはいなかった。

 だが、気づいている者がいた。


「でもさ、わたしが今受けてるストーカー被害って、ゲートの向こうにいけばなくなるんだよね?」

 ピノアはアンフィスを横目で見ながら言った。

「そうだな。なくなると思うぞ。
 あと、その先は異世界だからな。ピノアには保護者が必要だな」

 アンフィスは言った。

「あなたたち何を言って……」

「あとはお願いね、アンフィス国王陛下兼大賢者様」

 ピノアは困惑するステラの手を握り、いっしょにゲートに飛び込んだ。


「ったく、世話のかかる女王様と大賢者様だ」

 アンフィスはため息をつき、そのゲートを閉じようとした。

 すると、

「よいしょっと」

 ピノアだけが戻ってきて、ゲートを消した。


「そんなにわたしのことが好きなの?」

 ピノアは意地悪そうにそう尋ねた。


「あぁ、好きだぜ。
 第一印象から決めてましたってやつだ」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

異世界をスキルブックと共に生きていく

大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。 ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を! 目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。 スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。 何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。 やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。 「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ! ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。 ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。   2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

出戻り勇者は自重しない ~異世界に行ったら帰って来てからが本番だよね~

TB
ファンタジー
中2の夏休み、異世界召喚に巻き込まれた俺は14年の歳月を費やして魔王を倒した。討伐報酬で元の世界に戻った俺は、異世界召喚をされた瞬間に戻れた。28歳の意識と異世界能力で、失われた青春を取り戻すぜ! 東京五輪応援します! 色々な国やスポーツ、競技会など登場しますが、どんなに似てる感じがしても、あくまでも架空の設定でご都合主義の塊です!だってファンタジーですから!!

処理中です...